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60話.ある女、画策する

香野亜希子は内心ほくそ笑んでいた。

トントン拍子に上手くいった。


あの、結月陽葵という、凛様との恋路を邪魔するぽっと出の女が邪魔だった。だから、本当とちょっとばかりの嘘を交えた話をしてやったら、あの女は簡単に信じた。


これで、あの女の中には不信感が生まれる。


だって、私は凛様を、お嬢様をお守りしたいんだ。今も昔もずっと変わらずお守りしてきた。そして、これからも。


大切な大切なお嬢様はきっと蒼羽様が好きなのだ。小さい頃からお支えしてきたこの私にはわかる。


凛様はお優しいから蒼羽様と結月陽葵の恋を応援すると後押しまでなさった。それはもう慈悲深く美しく、優しい心の持ち主である凛様らしいといえばらしいのだが、でも、私は凛様が悲しい思いをするのは見たくない。


主の意に反する私の行動は褒められたものではないかもしれない。だが、凛様のためなら譲れない。


だから話をした。


婚約関係なのは本当。

仲がいいのも本当。

ただ、蒼羽様と凛様が思いあっているというのは少しだけ嘘。


でも、いずれ本当になる。蒼羽様もきっと心の底では凛様のことが大切で大好きなはずだ。まだ気づいていないだけ。


それから、あの写真もデートの写真ではない。凛様が蒼羽様を説得した時のものだ。あの時は痛々しく、こちらまで辛くなった。


このままで終わりにしたくなかったから、伝手を使って写真を撮ってもらった。私もあの場にはいたが、うまく映らないようにしてもらい、2人のデートを上手く切りとったような写真にした。


今はデートではないが、いずれそうなるのだから少しの嘘は問題ないだろう。


「ふふふ」


思わず笑い声が漏れる。だって、カフェでのあの結月陽葵の放心した様子は正直面白かった。こんなにも簡単に上手くいくなんて。人と人の信頼を崩すのなんて一瞬だ。


あとは彼らが自ら壊れていくのをそっと見ていればいい。勝手に誤解してその誤解は膨らみ、お互いが不信感を募らせる。


その絶望の中、蒼羽様はきっと気づく。自分を本当に思ってくれている人は誰か、自分が愛している人は誰なのか。


結月陽葵には悪いがこれは仕方の無いことなのだ。運命を戻すために必要なこと。だから、神様だって反対しないだろう。


さて、凛様のお世話に戻らなければ。





凛様と過ごしている家に行くと、凛様はリビングで紅茶をお飲みになり、お寛ぎだった。


「あら、おかえりなさい、あき」


私に気づかれると優雅に笑顔を浮かべる私の主はとても美人だ。艶のある黒い髪がさらりと揺れ、化粧なんかしなくても長いまつ毛に縁取られた黒い瞳がパチリとゆっくりと瞬かれる。紅茶のカップをソーサーの上に置く。その何気ない動作ひとつとっても優雅だ。


「遅くなり申し訳ありませんでした」


そう言って頭を下げると、凛様はふるふると静かに首を振った。


「大丈夫ですわ。何も謝ることはありません」


「しかし、私には凛様をお手伝いする役目があります」


「あきにはいつも助けられていますわ。だから、たまには自分を大切にする時間をとって欲しいと思っておりますの」


「ありがとうございます……」


「そうだわ、あきも紅茶、飲むでしょう?いまからあたためるわ」


「そんな、手を煩わせるようなこと……」


「あら、私にはお茶もいれられないとお思いなのかしら?」


いたずらっ子のように笑う凛様。その笑顔さえ私のことを考えてくれているもので。


「では、お願い致します」


「そうこなくっちゃ!」


ニコッと笑った凛様に心があたたかくなる。


やはり、私が、この大切なお嬢様をお守りしてみせる。凛様は人に頼ることをなさらないから私が気づいてサポートしなければ。


凛様の笑顔が絶えないように、他でもない私が凛様をお守りしなければ。

あきさんにはあきさんなりの正義があるのです……

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