57話.雨猫、嬉しい知らせ
回想世界から現実世界に戻ります。
「アオ、ごめん、渋滞に巻き込まれた」
運転をしてくれていたマネージャーさんの声ではっと現実世界に引き戻される。
長く昔を思い出していたが、凛との話が終わり、時間があるから事務所に行こうということになっていたのだった。
「事務所に寄ってからじゃ、間に合わなさそうだから、そのまま、ラジオの現場にいくけれど、いい?」
窓の外を見ると、確かにたくさんの車が並んでおり、見渡す限り車の海だ。全然前に進めない。土曜日だから遊びから帰る人達だろうか。
「はい、お願いします」
僕が頷くとマネージャーさんも頷いた。
いまから向かうラジオは、『Colors』のラジオだ。「からふるどりーむ」というタイトルで、毎週土曜日の9時から放送している。
パーソナリティは『Colors』のメンバーが交代でしており、4人中2人が担当することが多い。たまに4人全員で出ることもあるが。
ファンである『ぱれっと』のみんなからは僕たちの普段のわちゃわちゃした様子やここでしか聞けない話などが聞けると好評だ。僕もメンバーと話が、できるのは楽しいし、お便りのコーナーなんかで『ぱれっと』のみんなから感想を聞けるこの仕事はとても好きだけれど。
また、ラジオから僕たちのことを知ってくれる人もいたり、ファンではないけれど、ラジオは聞くって人がいたり、色々な人に僕たちのことを知ってもらえるのが嬉しい。
今日はアヤとパーソナリティを務めることになっていたはずだ。
いまから、とても楽しみ。
★
ラジオ現場についたのは本当にギリギリの時間だった。収録をするスタジオに入ると、アヤが腰に手を当ててむーっとむくれていた。
「アオくん、間に合わないかと思って、僕、焦ったんだからね!!」
「ごめん!」
「渋滞だからアオくんは悪くないけれど……。さ、早く行こ!打ち合わせをしている暇はなさそう!」
どこかきまり悪そうにアヤは言い、それからラジオブースに僕を引っ張って向かう。あと3分で放送開始だ、確かに打ち合わせをしている暇はないだろう。大丈夫、ほとんど台本はないし、流れはもう頭に入れてある。
「本番いきまーす!3!2!……」
監督さんの声が聞こ、合図とともにタイトルコールが流れる。
「Colorsの!からふるどりーむ!!」
そのあと、Colorsの代表曲にしてデビュー曲のイントロが流れ、ラジオが始まった。
「こんばんはー、パーソナリティのアオと〜?」
「アヤだよ〜!今日はこの2人で皆様に幸せな時間をお届けできるように頑張るよ〜!」
それから、ふつおたのコーナーやお悩み相談のコーナーなどなどラジオが穏やかに進んでいく。
楽しい時間はあっという間で、もうすぐラジオも終了だ。次でラストのコーナー。
「インフォメーションのコーナー」
そうコールをする。このコーナーでは事務所の情報やColorsの情報などを紹介することになっている。たまに、僕達さえ知らない情報をいきなり渡されて、読むなんていうこともあるから、毎回ドキドキだ。でも、このコーナーのおかげでアドリブ力が向上している気がする。
今日もほら、アヤくんがなにか渡されている。アヤくんは渡された紙をじーっとみつめてから、みるみるうちに笑顔になった。
「ここで!アオくんにも初出しの情報があります〜!」
「え!?」
どうやら、それは僕に関する情報だったらしい。ドキドキしながらアヤの次の言葉を待つ。
「そーれーはー……」
「それは?」
「『迷探偵Aの珍道中』がドラマ化!そして!その主演にアオくんが抜擢されました!!」
『迷探偵Aの珍道中』とは、今僕がとてもハマっている探偵もののの漫画である。
訳あって放浪の旅に出ている探偵のAは、その行く先々で事件に出くわす。探偵としてその事件に首を突っ込むのだが、こりゃまた推理が全くできない。なのに、最後には何故か華麗に!?解決するという、迷探偵の話なのである。
それが、ドラマ化!?主演が僕!?
僕はドラマにはたまに出るが主演はしたことが無い。これは、初主演だ。
「えーっ!?」
「よかったねぇ。詳細はこのあとColors公式SNSからも発信されるよ!見てね!との事ですよ〜」
アヤがニコニコと笑いながらそう言う。心から喜んでくれているようだ。
初主演、嬉しい。とても嬉しい。喜びを噛み締めていると、
「さて、次はっと……大事なライブの情報だよ!アオくんが読む番!」
「あ、そっか!ごめん」
「ドラマのことで頭が混乱しているのはわかるけれど、今はこっちが先だよ!ほら、これ読んで」
「ごめん、ごめん!さーて、ライブのメインビジュアルの情報だね!今、僕たちが準備している3rdライブのメインビジュアルが解禁!!」
「おぉ!!もう解禁していいの!?この前撮ったやつだよね!?」
「うん!」
……でも、この時はまだ、このドラマの仕事が波乱の幕開けだなんて、知りもしなかった。
これ、本当に恋愛小説か!?と思っている方……大丈夫です、私も思っています。でも、これは外せないシーンなので……。
きっと、恋愛小説です。
※ライブグッズの情報はちょいとはやすぎましたね。その一個前のお仕事がグッズ企画なのに……苦笑 変更しました。
グッズ情報⇒メインビジュアル