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55話.雨猫、希望の一等星~雨猫過去編5~

君は希望の光だったんだ。希望の一等星。


僕はきっと普通に憧れてた。普通に言葉をかわして、普通に笑いあって。ふとした時に、ああ、幸せだなって思いたい。君と過ごした毎日はとても幸せだった。そんな普通を初めて過ごせたんだ、君と。


だからこそ、関わらせたくなかった、君には。君は希望の光だから。その顔が悲しそうになるのも、苦しいのもいやだから。


知られたくない。

壊したくない。



人生の最大の運命、僕の希望の一等星である陽葵に出会ったのは、Colorsの活動をはじめてから3年が経とうとしていた時だ。


『Colors』のグループ仲はとてもよくなったし、知名度も上がってきて、格段に仕事が増えた。それに伴ってか、全く音沙汰のなかった父から手紙が届いた。何通も。


そこには、普段全く干渉してこないくせに、一方的な要求がつらつらと書き連ねてあった。


『行動を慎み、周りに気を遣いなさい。大人しくしなさい。迷惑をかけないこと』


迷惑ってなんだよ。


『音楽家の息子として恥ずかしくないように、精進しなさい』


音楽家の息子。どの口が言うんだよ。


『歌の音がズレているから、よく聞き込みなさい』


……それは直さなければいけないかもしれない。でも、絶対音感をもつユカリははずれていないと言っていたが。


『お前はこちらに来るべきだ』


今更何を。


気にはしなかった。返事もしなかった。でも、何故か届く手紙は読まずにはいられず、知らず知らずのうちに傷ついていたのかもしれない。


僕はきっと父にとってはただの道具だ。都合が良くなったから取り込みたい。都合が悪くなったらきっと切り捨てる。僕は別に父に認めて欲しくてアイドルになったわけじゃないし、仕事をしているわけじゃない。


家族としての愛も思いやりもない。だから、僕はいらない。ただ、この仕事を愛して、ファンのみんなに愛を届ける。


愛を与えてもらったことがない人が人に愛を歌うなんて、笑えるよね、なんて思っていた。



ある日、いつものように郵便受けを見ると、一通の手紙。最近頻度が増えた、父からの手紙だ。白色の封筒に、封蝋で丁寧にとじられていた。そして、達筆に綴られる英字での宛先、差出人の名前。


初めて届いた時は、僕の名前、覚えていたんだなぁなんて少しだけ嬉しくなったけれど、もう心は動かされない。


今はもう出なければいけないので、手紙を家の中に投げ入れるようにしまい、そのままガチャりと鍵をかける。これから、仕事だからだ。


また、傷つくだろうに、どうしてか捨てられない。


そのまま仕事に出ると、メンバーのみんなが優しく迎えてくれる。今日は全員でバラエティに出演する予定だった。


「おはよー、アオくん!」


「おはよう、アヤ」


「あれれ、アオくん、元気ない?」


アヤがそう言うと、ちかづいてきて、僕の顔を覗き込む。コウとユカリも心配そうにこちらを見やっている。そういえば最近こうやって心配されることが増えた気がする。顔には出さないように気をつけていたのに。


「本当ですね……少し顔色が悪い気がします」


「大丈夫?」


アヤ続いて、ユカリ、コウにも顔を覗き込まれる。口角をあげ、ニコッと笑ってみせる。少々疲れているが、体調は大丈夫なはず。


「全然大丈夫!」


「そうですか?なら、いいのですが……」

「無理しないで」

「そうだよー?無理してバタンって倒れちゃったら、僕、心配で眠れないからね!」


次々にかけられる優しい言葉に、心があたたかくなる。


「ありがとう!」


そうお礼を言って、収録に臨んだものの、本当に体調は悪かったらしい。目の前がクラクラしている。スタジオのライトがいつもより眩しく感じる。酷く寒気もする。熱が上がってきたかも。


「アオ、水飲む?」


「ごめん、ありがとう」


合間にコウが声をかけてくれ、頷くとタオルと水のペットボトルを渡してくれた。そうして、何とか乗りきって、家に帰ったら……家が燃えていた。


追い討ちをかけるように、ポツリポツリと降ってくる雨。


もう、ダメだと思った。今日はとことんついていないかもしれない。


手紙も、

熱も、

家も、

雨も、


全部が重くのしかかる。


頭が重い。身体が重い。

ズルズルと街中で座り込む。


このままもう、意識がなくなりそうな時、


「……あのっ!」


聞こえたのは鈴のような声。

世界を変える声だった。


彼女は僕にくれたのだ、彩り豊かな運命を。

過去編、すみません、もう1話ありました……

肝心の陽葵ちゃんとのこと書いてない……

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