4話.雨猫、決める
「え!?何言ってるの!?」
思わず素で驚いてしまう。自分が大きく目を見開いているのがわかる。目の前の人は何を言っているんだろうか……?
「行くところないんだったら、部屋ありますし……」
「これ以上迷惑かけるわけにはいかないですよ……」
そう言うと陽葵さんは何を思ったのか、ブンブンと顔の前で両手を振る。
「だ、大丈夫です!あ、私、怪しい人じゃありませんから!何なら勤め先も全部言いますから!」
「……この場合、僕の身分を心配するべきだと思うんだけど」
「そ、そうですかね?」
この子、だめだ。お人好しすぎる。
よく生きてこれたね、今まで。
悪い人に騙されちゃうよ、こんなんじゃ。
「……君、猫とか拾ってきちゃう体質の人でしょ」
「なんでわかったんですか !? よく小さい頃拾ってきて、実家は家中猫だらけですけれど。あ!勿論、家族は猫が大好きなんで、無理矢理飼ったりしてませんから!あと、予防接種とかもちゃんとさせてます!」
クスッと笑ってしまう。一体なんの話をしているんだか。
……なんか、もう少し一緒にいたい気がしてきた。何故だろう、昨日会ったばかりの人なのに。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな……」
迷惑かけるけれど……。
「はい! ありがとうございます!」
「なんで君がお礼言ってるんですか」
僕が居候する立場なのに。
「あ、そっか……」
陽葵さんはそう言って照れた素振りを見せてから、ぱっと僕の前に右手を差し出す。それから、綺麗な笑顔で笑う。そう、ぱっと花がほころぶような、満開の桜のような笑顔で。
「よろしくお願いしますね。あ、あと、多分、私より結希さんって年上ですよね?敬語じゃなくていいです」
「じゃあ……よろしくね?」
僕はそう言いつつ陽葵さんの右手に自らの右手を重ねる。初めて触れた彼女は柔らかくて少しドキッとした。握手会なんかがあったりするから女性に触れることもあるにはあるんだけれどな。
「はい!よろしくお願いします!」
「あ、あと、お金入ったらちゃんと家賃払ったり食費払ったりはするから!!」
ヒモ男にはなりたくない!一文無しで居候しようとしている奴が言うことじゃないかもしれないけれど……!でも、お給料入り次第払うから!
「ふふふ、結希さんっていい人ですね」
「いや、陽葵さんの方がいい人だよ!こんな訳の分からない人を泊まらせるなんて」
「そうですかね…?でも、自慢じゃないですけど、私、この人いい人だ!っていう勘は外したことないんです」
いや、そうだと思うよ。いい人だよ、あなたは。不審者な僕が言うのもなんだけれど。それに、勘を外したことないってどういう事だ……?不思議な人だなぁ……。
それと、僕について話しておいた方がいいかな……?話すべきだよねぇ、と思いながら陽葵さんを見ると、
「あ、今って何時ですか?」
「7時20分だけれど」
リビングの壁にかけられた時計を見ながら言うと、
「きゃああああ!!」
本日2度目の大絶叫が部屋に響いた。
それから陽葵さんは僕に、「部屋は空き部屋があるので、そこの端の部屋を使ってください!昼ごはんとか必要だと思うのでその時は冷蔵庫に入っているもの、なんでもどうぞ!外出の際は、靴箱の上にある鍵入れのカゴの中に、私のとは別のスペアが入っているので使ってください!赤い紐に鈴がついてあるのがそうです!」と指示をするだけして、バタバタと用意をしはじめる。
「いってらっしゃい」
そう声をかけると、彼女は少し驚いた顔をした後、
「いってきます!」