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○番外編2. 酔っ払いにはご注意を!

全人類に問おう、いや、全人類は言い過ぎかもしれないが、ひとまず問おう。


どうしてこうなった?


目の前にはへべれけに酔った愛おしい人。場所は我が家の玄関。インターホンが鳴って、出てみたらこの真っ赤な顔をした恋人がいたのだ。ゆうくんは私がドアを開けると、ふにゃりと笑った。元の顔がいいから美しい上に、バラ色に染った頬は色気さえ感じさせるほどだ。


「ひ~ま〜り〜、えへへ」


「きゃっ!?」


笑ったゆうくんは、こちらに手を伸ばし、そのまま玄関先で私を抱きしめる。その勢いに押されて私はゆうくんに抱きしめられたまま2、3歩後ずさる。


「えへへ〜、大好き〜」


そんなことはお構い無しに、ぐりぐりと私の肩口に顔を埋める彼。ふんわりとかおるのはお酒の香りで、相当酔っているみたいだ。そう言えばゆうくん、お酒弱かったんだっけ、なんて思い出す。


どうしてこうなったんだろう。ゆうくん、お酒は呑まないようにしているって言ってたんだけど。


ひとまず、この姿勢のまま玄関先にいるわけにはいかないので、機嫌良さそうに私に抱きついている彼の肩を軽くたたく。


「ゆうくん、大丈夫?」


「ん〜」


「とりあえず、部屋に入ろっか」


「ん〜」


肯定なのな否定なのか分からない返事をされる。だが、トントンと腕の辺りを優しくたたくと、腕を離してくれたから、肯定だったらしい。そのまま部屋に入る私の後ろを小さな子どものように着いてくる。私の方が年下だが、可愛いなと感じる。


彼をリビングのソファに座らせ、私はコップに水をいれて持っていく。ソファに座り、コップを彼に手渡そうとするが、彼はブンブンと首を横に振った。え、飲みたくないってこと?と思ったが、口を開いているので違うらしい。


「ん!」


私が戸惑っていると、ゆうくんは自らの口を指さす。これは、飲ませろってことなのかな、そう思い、コップを彼に近づけると、また彼はブンブンと首を横に振った。それから、爆弾発言をひとつ。


「ちがう……口移しがいい」


え、え!?何をどうしたらいい!?


恥ずかしいのと混乱したのであわあわとしていると、焦れたらしいゆうくんは、私からコップを受け取ると、自らの口に含む。それからおもむろに私の頬へと手を伸ばし、そのまま重ねられた唇。


「んっ……」


先程より強く香るお酒の香り。こちらまで酔ってしまいそうだ。開いたままの琥珀がじっと私の瞳を見つめている。お酒のせいか常時よりとろんとしたその瞳は、潤んでいてこぼれ落ちそうだ。


その琥珀にゆっくりと瞼がおり、パチリと間近で瞬きがなされる。長いまつ毛の影が落ちて幻想的にすら感じられる。


そう思っていたら、少しぬるくなった水が唇からそのまま流し込まれた。突然の事に驚きながらもコクリと飲み込む。


それを見て満足したのか、ゆうくんはゆっくりと顔を上げた。


「こう、だよ?……ほら、はやく」


どうやらやって見せてくれたらしい。


それは、ご親切にどうもです!?

というか、そういう問題じゃないよね!?

酔っ払いって何するか、本当にわからん!

自分で飲めるんじゃん!?


なんて言う場の空気に似つかわしくない言葉たちが頭の中で駆け回る。


思考はクルクル回っているが、行動としては動いていないわけで、固まったままの私にゆうくんはぷっくりと自らの頬を膨らませて見せた。


「はーやーく!」


どうやらするまでこのわがまま甘えん坊が続くようだ。お酒飲むと甘えん坊になるのね、この人。そんないつもと違う一面に驚く。だが、しかし、どうしたもんか、と悩んで、悩むのも面倒になった。


ええい!やってやろうじゃないの!


もうこの事態をおさめるにはするしかあるまいと、私の中の男気が声を上げる。ゆうくんがテーブルに置いたコップを持ち上げ、その全ての水を口に含む。先程のゆうくんの動きをなぞるようにその頬に触れた。お酒のせいか少し体温の高い彼の頬。私の行動に気がついた彼は、ワクワクとした表情を見せる。


「んッ……!」


ぶつかるような勢いでその柔らかな唇に触れる。ガチンと歯があたった音がしたがもう気にしない。恥ずかしすぎて目を閉じてしまったのはご愛嬌だ。そのままうっすら開いた彼の口に水を流し込む。コクリと彼の喉が動いた音を聞いて、ゆっくり彼から離れた。


どうだ、これで文句ないだろう!そう思い、目を開けようとしたが、


「きゃ!?」


それは叶わなかった。目の前のゆうくんのせいで。彼が覆い被さるようにしてこちらに倒れてきたからだ。押し倒されたのだ、と気づく。ゆっくり顔を上げるのと無言の彼と目が合った。


「………」


じっと真っ直ぐに見つめられる。さっきのふわふわした表情とは一転、真剣な表情だ。その瞳にはどこかあつい情熱のようなものが宿っている。


「ね、陽葵……、もっと僕、君に近づきたい。いいよね?」


「え、ゆうくん!?」


鋭く光るその瞳に吸い込まれる。強い力で押さえられている訳ではないのに、縫い止められたみたいに動けなくなる。


彼はそれっきり無言のまま私の額、目元、鼻、頬、耳と順番に小さく口づける。その後、唇へと口づけられ、顎へと。


ちゅっと小さく音がなる度に身体が勝手に動いてしまう。緊張なのか照れなのか身体が熱いような気がしてくる。ゆうくんの吐息が近くて、その吐息も熱い。


順番に下へと下がっていき、次に首元。それから、下へと下がろうとして、服が邪魔だったのか、首元のボタンに手が伸びて……。


なんだか見ていられなくなってキュッと目を閉じる。


「ゆ、ゆうくん……っ!……あれ?」


聞こえてきたのはすこやかな寝息で。ゆっくりと目を開けると、自らの上で気持ちよさそうに寝ているゆうくんの姿が見えた。


「寝てる……?」


良かったのか良くなかったのか……。

ほっとしたようなどこか残念なような……。


でも、これだけはわかった。


結論、ゆうくんにお酒はダメ!混ぜるな危険!

番外編2です。

よろしくお願いします。

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