〇番外編1. 幸せの誓い
ふわりと桜の花びらが風で舞い散る。桜の花が舞い降りる姿は春の妖精が踊っているみたいで、とても好きだ。
私とゆうくんは桜並木の綺麗な公園をふたりで歩いていた。
たまたま休みが合ったので……といっても、ゆうくんは午後からラジオの仕事があるらしいけれど、この空いた時間にデートをすることになったのだ。
平日だからか公園にいる人はまばらで、少し離れた広場で小さな子どもが遊んでいるのが見えるくらいだ。
「桜の花びら、綺麗だね〜」
「うん!なーんか、穏やかな時間!」
私の言葉にゆうくんは頷きながらそう言う。二人の間で繋がれた手がゆらゆらと揺れる。ゆうくんの言う通り、本当に穏やかな時間だ。
「あ、ねぇ!あれ見て!!」
急にゆうくんが声を上げる。手を繋いでいる方とは反対の手で指を指した先には、小さな教会があった。白を基調とした建物で、中心に茶色の扉がある。屋根のてっぺんには十字架があり、教会であることを示していた。
「教会かな?……行ってみる?」
私が問うと、ゆうくんはうんうんと頷く。2人で教会に駆け寄り、扉の前にある3段ほどの階段を登って、扉をそっと開ける。
中も白を基調としていて、左右にわかれて木の椅子が規則正しく並んでいる。中心となるであろう祭壇のようなものがある壁には壁画がたくさん描かれていた。窓から差し込むあたたかな陽の光が教会全体を明るく柔らかく照らしている。
「素敵なところね」
「本当に!あ、こっち来て?」
教会をくるりと見回しながら言う私に、同意してから、何かに気づいたような声を上げるゆうくん。そのまま彼は私の手を引っ張って中心まで連れていく。祭壇の前で止まると、くるりと私の方を向く。その瞳は楽しいものを見つけた少年のようにキラキラと輝いている。
「秘密の誓い、してもいい?」
「秘密の誓い?」
「うん!こっち向いてー」
頭の上にクエスチョンマークがとんでいる私は、されるがまま、祭壇の前でゆうくんと向かい合う。
なんかこれ結婚式みたいじゃ……なんて思っていたら、ゆうくんはふわりと微笑んでから、
「えー、僕、蒼羽 結希は、この先も、結月陽葵が大好きだと誓いますっ!」
そう言った。
やっぱり結婚式みたいだ。
でも、その何とも大雑把な、でも愛のこもった宣誓にふふふと思わず笑いが漏れてしまう。
「なにその宣誓!」
「だって、細かい宣誓、わかんないから」
ゆうくんは舌を小さく出して笑った。その後、「でも、気持ちは本物だよ?」と続ける彼に、胸があたたかくなる。あたたかくて春の陽だまりみたいな気持ちが言葉を通じて、心に強く届く。
ああ、やっぱりこの人が好きだなって思う。
そう思うと、私も言葉を届けたくなった。大好きって気持ちと、君がくれたあたたかさはちゃんと伝わっているよって気持ち。
それが、君に届きますように。
「……ゆうくん、いや、蒼羽結希さん」
そう呼びかけるとゆうくんは「ん?」と優しい笑顔のまま、先を促すように顔を小さく傾けた。
「私、結月陽葵は、この先も蒼羽結希が大好きだと誓います!」
私の気持ちも、ちゃんと本物だよ。
大好きって思っている。
ちゃんと伝わっているかな。
そう言うと、ゆうくんはそれはそれは嬉しそうに、それこそ花開くように笑った。
「えへへ、嬉しいね、これ」
そう言うと、ゆうくんはクイッと私の手を引く。私はされるがまま前に進む。私をゆうくんの胸に引き寄せ、そのまま彼は腕を私の背へとまわした。
「ゆうくん?」
「同じ気持ちを返されるとなんだかふわふわして、あったかい気持ちになって、嬉しくなる」
キュッと抱きしめられ、ゆうくんの少しはやい、そして心地よい心臓の音が伝わってくる。私もとてもあたたかくて幸せな気持ちだ。
しばらくそうしていると、ゆうくんが声をあげる。
「あ、陽葵、こっち向いて?」
その声に顔を上げると、背に回されていた彼の手が私の頬へとうつる。少し私の顔を上に向けると、そのまま彼の顔が近づいてくる。
その色素の薄い瞳が瞼に隠れるのにつられて、私もそっと目を閉じる。
刹那、優しく触れた唇。
チュッと軽く音を立てて離れたそれはとても柔らかい。心臓がきゅっと歯がゆいような痛いような感覚に包まれる。
ゆっくり目を開けると、優しく微笑む彼がいて。
「結婚式と言えば、誓のキスだよね?」
「………」
恥ずかしいのか嬉しいのかよくわからない感情が胸を支配して、思わず俯いてしまう。
「耳まで真っ赤になってる〜」
「だって……なんか恥ずかしい……」
誰もいない小さな小さな教会でした、私とゆうくんの秘密の誓い。
春の光はそれを祝福するように優しく降り注いでいた。
第3章に入る前に番外編です。
幸せな2人を書きたかっただけの短編……。
もう少し番外編を書いてから第3章に行きたいと思っています。
よろしくお願いします!