49話.雨猫、惚ける
今日はライブの打ち合わせだ。セトリや舞台演出などはもう決まっているが、今日はライブグッズについて話し合うことになっている。
僕達でこんなグッズを出したいとか、こんなデザインにしたいとかをデザイナーさんやスタッフさん達と一緒に話し合う。そのデザイナーさんは、幼なじみの宇佐美 凛である。この前の化粧品の件でも一緒に仕事をしているので、ここ最近凛に会う日が多いなぁと思う。
打ち合わせが始まるまでもう少し時間があるので、僕は窓から外を覗いていた。見上げると水色の空に、ゆったりと大きな雲が動いているのが見える。いい天気だから、いいグッズが生まれそうだなぁ!
そんなことを思っていると、僕と同じく少し早めに来ていたアヤが、僕の横にひょっこり現れた。
「あ、アヤ!おはよう」
「おはよー!空見てたの?」
「うん、そう」
「アオくんは本当に空が好きだね〜。……好きといえばさ、アオくんは、なんでひまちゃんが好きなの〜?」
「どうきたの、いきなり」
「いやー、なんか聞きたくなったんだぁ!恋ってそんなに素敵なのかなぁって!で、どこが好きなの?」
一緒に空を眺めていたアヤがいきなりそう問いかけてきた。僕が驚いて目を丸くしながらアヤの方を見ると、アヤは大きな瞳をくるりとまわしてこちらを見ていた。興味津々という表現がピッタリくる。漫画やアニメならわくわくと効果音が出そう。
陽葵の好きなところか……。
「………んー……わかんない」
「わからないの!?」
僕が言うと、アヤは驚いたのか目を見開いて大きな声でそう言う。ただでさえアヤは瞳が大きいから、瞳が落ちそう。僕はあまりの驚きように苦笑する。
「うん。だって、そりゃ好きなところはいっぱいあるよ?例えば、笑顔が素敵〜とか、人を放っておけない面倒見のいいところ〜とか、意外と強引なところ〜とか……でもね」
「うん」
「でも、それがあるから陽葵を好きかって言われたら違う気がするんだよね。きっとそれがなくっても僕は陽葵が好きだもん。全部、陽葵の一部だから好きなんじゃないかなって思うんだ。全部愛の一部でしかない……」
好きなところはいっぱいあるのはある。でも……ここがいちばん好きなところっていうのが難しいのだ。
「うんうん」
「だから、僕にはわからない。強いて言うなら陽葵が陽葵であるから好きなのかも?」
頷きながら僕の言葉を聞いていてくれたアヤは、プッと吹き出すように笑う。
「重いッ!」
アヤの言葉が心臓に刺さる。重い鉛を撃ち込まれたような感覚に、うぐっと呻いた。HPをゴリゴリ削る言葉の一撃である。
「言われなくてもわかってるよ……でも、それが本音なんだから、仕方ない……」
「そんなに思われてるひまちゃんは幸せかもだけど〜」
「なのかなー、だといいんだけど。あんまり重すぎると嫌われない?」
「それは……うん、頑張りどころかな!!ありがと、いいもの聞けた。ごちそうさま〜」
ちょうどその時、凛が着いたようで、呼ばれる。アヤは僕にわかるように、可愛らしくパチリとウインクをしてから踵を返した。
なんだったんだ、あれ。
でも、僕、改めて陽葵が好きなんだなって思う……って、こんなに重かったら嫌われる!?
ダメだ、ダメだ!!どうしよう!!
そんな一悶着が嘘のように、和気あいあいと始まった打ち合わせ。
打ち合わせの場には、凛の他に、見知った人がいた。凛と一緒に入ってきたその女性は香野 亜希子さんといって、凛のお世話係兼お目付け役である。香野さんの家は、宇佐美家に代々仕えるって言ったら仰々しいかもしれないが、宇佐美家でお世話係をしている家だ。
怒るととても怖い人で、小さい頃凛と共にイタズラをしてよく怒られた。でも、自分の力を試したいと一旦家を離れた凛に付き添っている、とても凛思いの優しい人だ。
デザイナーの凛の力になりたくて努力と根性で知識を身につけ、凛と同じ会社に就職をした、大変な努力家である。
でも、いつも優しく微笑んでくれる亜希子さんだが、今日は少し様子が違う気がする。目が合う少し前、本当に一瞬の間で、こちらを見る視線が鋭くなった気がしたのだ。どこか射抜くような目。メガネをしているから、そう見えただけかもしれないけれど。
「ライブグッズの件ですが、グループのメンバー内で出たものをまとめました」
そのまま、はじまった打ち合わせ。コウが中心に進めていくのはいつもの流れだ。その打ち合わせの間は、いつもの亜希子さんだったけれど、さっきの様子がとても気になった。
打ち合わせはテンポよく進み、僕たちが元々考えていた意見をスタッフさんとともに具体化していく。ファンのみんなが喜んでくれるようなグッズができたと思う。
そのことにわくわくしながら思いを馳せていると、帰る用意をしていた凛が近づいてくる。
「結希、このあとお時間はありまして?」
あまりにも真剣な顔をした凛はそう尋ねる。このあとの仕事は夜からラジオだけだから、時間はある。
「あ、うん。あるよ」
「では、このあと、こちらのカフェに来てほしいのですわ」
そう言って、店名が書かれた紙を渡し、凛と亜希子さんは挨拶をしてから部屋を出ていった。
ゆうくんは重い人……なのでしょうか??




