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48話.わたし、子どもみたい

ゆうくんに手を取られ、夕日の中祭りが行われる神社へと歩き出す。


広場からはすぐなので、歩き始めて数分で目的の神社が見えてくる。この辺りでは大きめの神社で、大きな茜色の鳥居が一際大きな存在感を放っている。神社の前あたりから神社まで道沿いにずらりと並んだ出店は鮮やかで目にも楽しい。


どこからが聞こえる太鼓と笛によるお囃子と人々の楽しそうな笑い声。吊るされたいくつもの提灯が程よく辺りを照らしている。楽しく賑やかな雰囲気に自然と笑みが零れる。


「結構人いるねぇ〜」


私の言葉にゆうくんは頷く。それから、ニパッと笑って言う。


「ねー!みんな楽しそう!!こーゆーのもたまにはいいね!あ、中にはいってみよ!!」


ゆうくんは私の手をグイッと引っ張る。私はいきなりのことに、たたらを踏むように前に進む。どんどん前に進むゆうくんは、背中からもワクワクしているのが見て取れて、大人の男性に言うことではないかもしれないが、少々微笑ましい。


「あ、ごめん、強く引っ張りすぎた?」


私の様子に気がついたのか、立ち止まって尋ねる。でも、振り向いたその瞳は「待ちきれない!」と言わんばかりのキラキラとワクワクが詰まっていて、思わず笑ってしまう。


「ううん、大丈夫。行こ〜」


鳥居をくぐると、その先は少し階段になっている。それを上がると石畳の道があり、その道沿いにまた出店が並んでいる。カステラにりんご飴、イカ焼き、金魚すくいにヨーヨー釣り。数え切れないほどの出店はどれもとても美味しそうだし、楽しそうだ。


でも、これだけ広かったら……


「これだけ広いと迷子になりそう……」


私がぽつりと言うと、ゆうくんは苦笑してから答える。


「そうだね。フロアマップが欲しいくらいだよ……」


「あのショッピングモールとかにある??」


「そーそー!ここにこれありますよーってやつ!」


それは確かに便利そうだ!うんうんとうなずくと、ゆうくんは少し悩んでから、あっと声を上げた。


「あ、でも何があるか分からないから冒険するってのも楽しみの一つかも……?」


確かにそれも一理ある。知らないことを知るってワクワクするもんね。


なんて他愛のない会話をしつつ歩いていたが、私はひとつので店の前で思わず足を止めた。そこは射的の店だった。いくつか射的銃がならんており、少し先に景品であろうおもちゃやらお菓子が並んでいる。


止まったのはその中に亜麻色の毛で、目が琥珀色の子猫のぬいぐるみを見つけたから。とても可愛い。そしてなんだか……。


足を止めた私に、ゆうくんは不思議そうな顔をして私の顔を覗き込む。


「どうしたの?」


「……あれ、可愛いなぁって」


そうぬいぐるみを指さしながら言うと、ゆうくんは私の指の方をみて、「あぁ〜」っと頷きながら声を上げる。


「この猫?よし、僕に任せて!」


そう自信満々に顔の前で拳を握って言うと、浴衣の袖を捲るようにして折り始める。


「ゆうくん、射的、得意なの?」


「うん、実はね、結構自信ある!」


私の言葉に、ニコッと笑いながら言った。それから、店の人であろう男性に声をかけ、「おじさん、1回分!」と言いながらお金を渡す。おじさんは「あいよ」と応えながらお金を受け取り、射的銃を渡す。


屋台で銃を構える姿は、純粋に格好良かった。アイドルは何やっても様になるなぁー、なんて変に関心。彼は片目を細めて焦点を合わせる。さながらスナイパーのように鋭い目。普段のふわふわした様子とはかけ離れていて、何だかドキリとした。


焦点を合わせたゆうくんはそのまま引き金を低く。そして、銃から飛び出たコルクは予想違わず、猫のぬいぐるみに当たった。少し遅れて、猫が揺れ、倒れる。ゆうくんは本当に上手だったらしい。


その後もお菓子を少し倒して、景品達と共に戻ってくる。ニコッと笑って犬がかけてくるように戻ってくる彼をじーっと見つめる。本当にこの人はさっきの引き金を引いていた人なのだろうか。


「射的、本当に上手だね」


私が言うと、ゆうくんはパチパチと目を数回瞬かせたあと、ふふんっと得意げな顔をしてみせる。だから、本当に先程まで引き金を引いていた人なのだろうか。


「みとれた?」


「ワー、イケメンー」


「なんでそんな棒読み?」


いたずらっ子のようにそう言ってくるから、心を見透かされたことに何だか腹が立つので務めて棒読みで返すと、ゆうくんは笑いながら言う。


「いや、何となく……?」


「なにそれー?あ、これ、はい!」


すっとぼけるように言った私に、また、ははっと笑うゆうくん。それから、こちらに猫のぬいぐるみをさしだす。


「……ありがとう」


「プリンスセスのためならお易い御用ですよー」



それからいくつか屋台で遊んだし、色々なものを食べた。久しぶりすぎたからか、子どもみたいにはしゃいでしまった。でも、それくらいとても楽しかった。


「ね、そろそろ花火、始まるみたいだよ」


「もうそんな時間なの!」


このお祭りのフィナーレは花火が予定されている。ゆうくんの声に時計を見ると、確かに花火の時間。


「実はこの神社、花火の穴場スポットがあるんだよ!行かない?」


ゆうくんが秘密というように人差し指を口元に当てて、にっこりと笑う。その言葉に私はこくりと頷いた。


もう夕日は地平線の先へすっかり顔を隠してしまったようで、辺りを照らすのはほんのりと色づく提灯と月あかりだけだ。穴場スポットがあるという、上の方へ上がるにつれて、人々の楽しげな喧騒も薄れ、静けさが落ちる。


連れて来てもらった先は、先程の屋台などが出ていた本殿から少し離れた小さな社、の少し後ろ側にあった高台だ。少しわかりづらいところに石畳の階段があって、それを上がると少し開けていて、辺りが一望できるようになっている。


私たち以外誰もいなくて、本当に穴場らしい。


少しすると、ドーンと大きな音が響く。その音につられるようにして、2人で見ると、色とりどりの花が空に咲いている。しかし、その花は大きく咲いたと思った刹那、儚くきえゆく。美しいものが儚く消えゆく様は見ていて少し切なくなる。


今日は感傷的な日なのかな、なんて。


そんな思いに駆られた私は、知らずのうちにゆうくんの袖をキュッと握っていた。幼子のようだな、なんて自分で思うけれど、離す気にはななくて。それに気づいたゆうくんは私の顔を覗き込むようにして聞いた。


「ん、どしたの?」


「……何となく」


どう表現していいか分からなくて、小さく首を振りながら結局そう応えると、ゆうくんはふふっと笑った。


「さっきからそればっかだねぇ〜。小さな子みたいで可愛いからそんなとこも好きだけど」


「すぐそーゆーこと言う……」


可愛いやら好きの言葉に先程の感傷的な気分も忘れて、赤面する。


「えへへ、でもホントのことでしょ?……ね、陽葵」


呼ばれた、刹那。

ふっと前に影が落ちて、そのまま触れた柔らかい唇。


心臓に響くような音、大きく花開く大輪の下、

私たちは、そっと触れるだけのキスをした。

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