表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/150

47話.わたし、気を取り直す

もうダメだそう思った時、グイッと横から、掴まれている方とは逆の腕を引かれた。続いて頭がポスンと少し固めのものに当たる。ふわりと香るのは慣れ親しんだ爽やかな香り。手が前に回ってきて、後ろからギュッと抱き込まれる。


「だーめ。この子、僕のだから」


耳元で声が響く。少しばかりいつもより低く、安心するその声音は、間違いなく自らが大好きで、待ち望んでいたもの。先程までの不安がすっと溶けていく。


ゆうくん……来てくれた。


「なんだ、てめぇ」


「この子の待ち合わせ相手にして、恋人かなぁ……」


男は苛立ったようにそう言うが、ゆうくんは落ち着いた声音で、穏やかにそう言った。その2人の様子が対照的だ。だが、ゆうくんの瞳を見上げるとそこにはその声音とは違い、鋭い視線があった。その視線が繋がれた私と男の手を見た瞬間、さらに鋭くなる。例えるなら、刃物かなにかのようだ。


「ね、ところでさ、いい加減にその手、どけてもらってもいいかな?」


次いで、さらに一音下がった声が聞こえる。聞いた事のない低く、硬い声。目と同じく鋭いその声を聞いた瞬間、男は弾かれたように私の手を放す。男と睨みつけるゆうくんの目がしばらくの間対峙する。


先に逸らしたのは男の方だった。苦し紛れにチッと小さく舌打ちをして去っていく。


男が去っていった瞬間、身体の力がフッと抜ける。なれない下駄を履いていることもあって、思わず膝から崩れ折れそうになったが、ゆうくんがそのまま支えてくれた。


「大丈夫……じゃないよね……」


「怖かった……ッ」


思い出すのは、さっきの男の手とこちらを品定めするような目。遅れて恐怖が全身を包むように広がる。カタカタと身体が震えているのが自分でもわかる。


もし、あの時、ゆうくんがきてくれなかったら?私はどうなっていた??


「……ごめん、僕がもっとはやく来ていれば」


「ゆうくんは悪くない……」


支えたまま、ギュッと今度は正面から抱きしめてくれる。丁度胸のあたりに頭がくるため、トクトクと彼の心臓の温かい音が流れ込んでくる。落ち着く体温がふわりと身体を包んでいて、安心する。


ゆうくんはそれ以上ものを言わず、優しくトントンと背中をあやす様に叩いてくれる。しばらく抱きしめあって、心が落ち着いた私は自分から離れる。


「ありがとう、落ち着いた」


「良かった」


「……でも、さっきのゆうくんの睨み、すごかった……」


落ち着いたから言えることかもしれないけれど、ゆうくんの先程の様子を思い出す。男に対する睨みは、刃物のように鋭くて、普段の様子からは想像できない。


「あー、これでもアイドルだからね。演技で凄むとか睨むとかも鍛えているよ。……と言うのは言い訳で、あの男に手を取られている陽葵を見たら、守らなきゃって必死だったからあんまり覚えてない……怖がらせた?ごめんね?」


「ううん、ゆうくんがそこまで私を思ってくれて嬉しい。ありがとう……まぁ、でも、ゆうくんをあまり怒らせないようにしようとは思ったかも…… 」


「それは怖がらせたってこと!?」


慌てたように言うゆうくんにふふふっと笑う。口ではこう言ったが、嬉しさがほとんどだ。だって、私のために怒ってくれるなんてとても素敵だし、あなたが居たから安心した。私の様子にゆうくんはホッとした表情を浮かべた。


「落ち着いたみたいでよかった。 夏まつり、行く?」


その言葉に頷くと、ゆうくんは花がほころぶように……と言ってもマスクをしているからしっかりとは見えないけれど、目が優しげに細められたのは見える。私の手を取ると、キュッと優しく握る。


歩き始めようとして、ゆうくんはハッと何かに気づいたようにこちらを見やった。


「あ、それと……言い忘れていた。その浴衣……可愛い。似合ってる」


ゆうくんが私に目を合わせ、そう言った。その瞳に吸い込まれそうになる。しばらくポーっと熱に浮かされるように固まっていたが、なにか返事をしなければと思考が動く。


先程までの騒動でしっかり見ていなかったが、ゆうくんも浴衣を着ていた。落ち着いた濃紺の浴衣は遠目に見ると無地に見えるがよく見ると、縦に線が入っている。帯も白地で、オシャレにまとまっている。


一見すると地味にみえるゆうくんの浴衣姿だが、私のくすみピンクに大判の花柄が描かれた浴衣と並んでも負けないほどの華がゆうくんにはある。


「ゆ、ゆうくんもカッコイイ……」


そう言うと、ゆうくんはふふっと笑う。それから、キラリとしたオーラを纏い、


「ありがとう。さ、行こ?僕だけのお姫様」


そんなことをいうゆうくんに、思わず視線を逸らす。これはあれだ、仕事モードだ。所謂アイドルモードというやつだ。心臓に悪い。


「急なアイドルモードやめい」


「あ、バレた?」


なんて悪びれもなく、いつもの笑顔を浮かべて謝るからなお心臓に悪い。ほんとこの人は……!


でも先程までの嫌な思いがスーッと消えていくのだから不思議である。

ただただ王道展開を書きたかっただけです。

今どき、こんななんぱ的なのってあるんでしょうか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ