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46話.わたし、声をかけられる

太陽が地平線に半分ほど隠れ、街がオレンジ色に染る。そんな夕暮れに私は浴衣を着て、下駄を履いて歩いていた。


カランコロンと歩く度に普段とは違う独特な音がなる。そして、風に合わせてパタパタと涼しげに動くいつもより長い袖。歩く度にシャラりと揺れる花の髪飾り。


今日は夏祭りなのだ。そして、何故かあれよあれよという間に取り付けられたデートの日でもある。所謂、夏まつりデートというものである。


先日、「陽葵の浴衣見たいなぁ〜。ねぇ、浴衣着てきてくれる〜?」と子犬が甘えるような声音で言われたのを思い出し、苦笑する。そう言われて「はいはい」と願いを聞いて、着てくる私も私だけれど。


ゆうくんとは駅前の時計塔のある広場で待ち合わせをすることになっている。


本当はあまり外にデートとか行かない方がいいんだろうけれどね。だから、少し暗くて人が多く、紛れやすいデート先を選んだ。


夏まつりなんて行くの、いつぶりかなぁ。懐かしいなぁ。子どもの頃以来かも。


なんて思いながら待ち合わせ場所に着くと、だいぶ早かったみたいでまだゆうくんは来ていなかった。だって、時間を見ると、まだ待ち合わせの30分前。


30分前に着く私……ちょっと張り切りすぎてない?私は思ったより浮き足立っているみたいだ。


「ねー、ちょっと、そこのおねーさんー」


待ち合わせ場所で立っていると、そう声が聞こえてきた。でも、ゆうくんの声じゃないし、他にもここには待ち合わせをしている人が沢山いるので、自分ではないだろうとまっすぐ前を向いていると、ばっと目の前に顔が現れた。


視界には、派手な金髪と大きなサングラス。その男が動く度に首にかけられたいくつものアクセサリーがジャラジャラと音を立てる。そんな男がこちらを覗き込んでいる。どうやら私に声をかけていたらしい。


「おねーさんってば!無視しないでよねー?」


口の端だけを上げるような、横に引いたような、音にするならニィがピッタリくるような笑顔を口元にうかべたその男は続けてそう言った。その怪しいような笑顔はどこか嫌な予感がする。だが、目の前にいるその男を無視する訳にはいかず、返事を返した。


「私になにか用でしょうか?」


「待ち合わせ?ね、君を待たせるようなそんな奴より俺と遊ばない?」


サングラスを少しずらしたことにより、こちらを品定めするような、すっと細められた視線とかち合う。じっとこちらを見やるその男。


その視線が気持ち悪い、と思った。不快感が身体を支配する。そして少しばかりの恐怖も。先程までの弾んだ気持ちが急速に萎んでいく。


「いえ、結構です」


こういうのはキッパリ断るのに限る。いつまでも相手をしていられない。怯む気持ちを抑えて、その男から視線を逸らさず、睨みながらそう言うと、男はさらにニヤリと笑った。


「いいねぇ、その挑戦的な目。益々気に入った。さ、そんなこと言わずに行こ?」


有無を言わさない声とともに、すっとこちらに手が伸ばされる。思わず後ずさるが、すぐ後ろは壁で後ろにはもう下がれない。


ひたりと触れられたその手に、身体がぞわりと震える。振りほどこうと手を動かすが、存外強い力で握られており、振りほどくことは叶わない。


勝手に身体がカタカタと震える。絶え間なく悪寒が走っている。


怖い!

嫌っ!


思わず視線を逸らすと、くつくつと笑い声が聞こえた。手が腕から私の手の方へと移動し、きゅっと握りこまれた。ビクリと自らの手が跳ねる。


「手もこんなに冷たいね。温めてあげるよ?」


き、気持ち悪い!助けて……!


ゆ、ゆうくん!


場面ガラリと変わって、陽葵さんです……

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