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45話.狐、動揺する

知ったのは突然だった。


何気なく見た方向に、結月とあのアイドルの1人、アオが人気のない廊下へ歩いていくのが見えたのだ。


後をつけたのは、何故かはわからない。ただ、勝手に足が動いた。心配だったのか、好奇心だったのか……。


「な……あれ……」


覗くように見やった2人の様子は、どこか真剣で、距離が近くて……愛し合っている者同士なのだろう、ということが痛いほどわかった。……わかってしまった。


「そういうことなのか……?あいつは、このアイドルと……?」


2人の光景を見た俺の心は、心臓の真ん中は、急速に冷えていく。そんなことあるわけないのに、血液までが冷たくなって行くような感覚。それが、再度心臓にたどり着いたとき、何かが割れる音がした。


「……っ!」


それは、ずっと温めてきたもの。出会ってから大切に大切に育ててきたそれは、ヒビが入って、そして、パラリと俺の中心から剥がれ落ちる。


苦しい、と思った。水を取り上げられた魚か、あるいは空気を取り上げられた動物かのように、上手く息が出来ない。


苦しい、苦しい。

どうしたらいい?



その後、自分はどうしたのか、どういう行動を取ったのか、どう仕事をしたのかわからない。記憶が酷く曖昧だ。気がついたらもう夜で、そして、自分は家に帰っていた。


家に帰ってきたはいいものの、何もする気がおきない。着替える気さえおきずに、そのまま自らのベッドへとドカりと座った。


視界の端で先程放るように投げたカバンがトサリとソファの上に落ちるのが見えた。中身がいくらか飛び出したかもしれないが、何とかする気力はなく、視線を逸らしたと同時にそれへの興味を失う。


「………はぁ……」


思わず漏れたため息は思ったよりも大きくて、静かな部屋にやけに響く。


何度も思い出すのは昼に見た2人の様子。思い出したくもないのに、脳は勝手に、見た映像をそれこそ焼きつけるように再生する。


今から考えれば、あのとき、後をつけない方が良かったのかもしれない。知らないほうがよかったのかもしれない。


何も知らなければ、まだ思っていられたのに。あのふわふわした恋心を、もう少しの間捨てなくても良かったかもしれないのに。


「好き……なんだなぁ」


言葉にして、改めてジワジワと湧いてきた実感。


やはりどうしようもなく好きなのだ。あの、清楚な見た目も、それに似合わず、案外騒がしいのも、俺の言葉に反応して頬をリスみたいに膨らます姿も。


気がついたら目で追ってしまう自分。

反応をみたくてついからかってしまう自分。


叶わぬ恋だとわかっていても、心はそう簡単に変わってくれない。


苦しいなぁ……。

切ないなぁ……。


この思いはどうやって忘れたらいいんだろう?

恋心の忘れ方なんてそんなもの知らねぇよ。


ああ、この思いは、抱いてはいけなかったのか。


ああ、それか、もっと、俺が素直だったら世界は、変わっていたのだろうか。


「俺はどうしたらいい?」


ポツリと呟いた弱々しい声音は、返事が来るわけでもなく、静かな部屋に消えた。

難産でした……

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