44話.うさぎ、幸せを垣間見る
うさぎとは宇佐美ちゃんのことです……
打ち合わせが終わり、玄関へと向かう。まさかカラーのアオくん、つまり結希と鉢合わせたのはびっくりした。彼とは幼なじみで、いや……ただの幼馴染ではない、親同士が決めた結婚相手だったため、小さい頃から彼のことはよく知っていた。
それに、お仕事を一緒にしたことがあるのも本当だ。
それから、ここの会社の人はとても親切だ。特に新堂さんと結月さんはとてもよくしてくれる。私が世間知らずでも、それ故に変な行動をしても気まずくならない。私が社長令嬢だと知っても、ちゃんと私自身を見てくれる。
そんな彼らとお仕事ができてとても嬉しい。今日の会議も上手くいったから、きっといい製品が出来るはずだ。
そんな気分で歩いていると結希が、結月さんの腕を引っ張って行くのが視界の端に見えた。
何かあったのかしら?
不思議な思って本当はいけないのだろうけれど、後ろから彼らを追いかける。すると、彼らは人影のないところで止まったので、私は柱に隠れるようにして見る。
これは、なんというのかしら。……そう!覗き!覗きですわ!あら、私ってば、覗き魔みたい!?……が1番あった表現ですわね、きっと!覗きに勤しむ悪い女の子ですわ!私は!
なんて、考えながらそっと様子を見ていると、結希が、結月さんの腕を取り、少々乱暴に壁と自分の間に閉じこめるような動作を見せた。
「!?」
その様子をみて思わず小さく声を上げながら、自分の目の当たりを隠す。結希の顔は真剣そのものだ。幼なじみのいつもと違う様子に、少し行儀がわるいかもしれないが、ニヤニヤと笑ってしまう。
「そうですのね!このおふたりが……!」
一見するとどこか言い合っているようにも見える2人だが、お互いともどこか雰囲気は険悪ではなくて。どちらかというと、甘いような……。
きっと、このおふたり、恋人同士なのですわ!!素敵ですわ!ワクワクしますわー!
うんうんと1人納得して頷いていると、
「な……あれ……」
と声が聞こえた。その声の主を見やると、私と同じように覗きをしている方が1名。確か彼は結月さんと新堂さんの同僚で、この化粧品の開発メンバーでもある、倉本さんだ。うーんっと何やら唸っているように見える。
「そういうことなのか……?あいつは、このアイドルと……?」
何やらブツブツと言っている。同じ覗き仲間としては、何を思っているか気になるところではある。
「倉本さ……」
声をかけたが、倉本さんはこちらには気づかず、ササッと去っていってしまった。大丈夫だろうか。
倉本さんの様子も気になるが、とりあえず結月さんと結希だ。
でも、出会い頭のあの様子ではきっと、結希は結月さんにあのことを言ってないのだろう。では、何も説明無しにその事を知ったら?きっととても優しい結月さんは何も言わずに1人で悲しんでしまう。
なおさら、悲しませてはいけないのではなくて?はやく話さなきゃいけないのではなくて?
私と結希が幼なじみで、その上、私が許嫁だってこと、そしてお互いその気がないことをちゃんと話すように結希を説得した方がいいのでは……?
なんとなく、不穏な気を感じたのだ。
幸せの狭間に、なにか起こりそうな気を……。