40話.わたし、打ち合わせをする
「おーもーいー!」
私は思わず声を上げた。抱え込んでいるのは、山盛りいっぱい資料が入ったダンボールの箱。今日使う資料たちだ。もう仕事も大詰めだから、私以外のメンバー達もあちらへ行ったりこちらへ行ったり大忙しである。
でも、まあ、夕方にはゆうくんに会えるから頑張れそうな気がする。仕事だけれど、顔を見られるだけでもやっぱり嬉しい。
前が見えないほど積み上げた資料を運ぼうととりあえず持ち上げても、一向に進まない。それどころか重さで後ろにたたらを踏むように進んでいる。
「なにやってんの、お前」
後ろから聞こえたのは呆れに加えて、どこか馬鹿にしているような声が聞こえてきた。声だけでわかる、倉本である。なんとか後退だけは避けたいので、少し足に力を入れながら、横をむくと、やはり倉本の姿。
「運んでるんですけど!?」
「それでか?前に進めてねぇーじゃんか、ウケる!」
「そうですよ!」
クスクスというよりはゲラゲラに近い笑い声。腹立つわー!!ふんっとそっぽを向くと、不意に軽くなる腕。目の前からダンボールが消えた。それから、ボソリと声が聞こえる。
「貸せ」
その声に倉本を見ると、そのダンボールを片手で持っていた。どこか顔がほんのり赤く染まっている気がする。
「倉本が優しい!?明日は大雪ね」
「ばーか、俺はいつでも優しいだろ」
「どこがかしら。でも、その、ありがとう」
口の右端を上げてキメ顔をしてみせる倉本に、お礼を言うと、ぷいっとそっぽを向かれる。それから、荷物を持っていない方の手で勢いよく頭を撫でられた、というよりはガサツに髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。
「わっぷ……!」
「確かにこの重さは、お前みたいなチビには難しいな」
「チビっていうなー!!」
「ははは、んじゃ、先行ってるわ。その隣にある資料だけ持って行ってくんね?」
「分かった」
チビと言われたこととバカにされたことは気に食わないが、助けてくれたのは純粋にありがたい。根は優しいのだと思う。多分だけど。でも、チビはないだろう、チビは!
感謝とイライラが綯い交ぜになった複雑な気持ちになりながら、倉本に言われた通り、先程まで倉本が持っていた小さな箱に入った資料を抱える。とても軽く、中身は調整されているみたいだ。
倉本、自分はあんなに重いのを持てるのに……なぜ?単に楽したいから?それとも……?
箱を持ちながら部屋に入ると、倉本が床に置いたダンボールから資料を取り出し、仕分け整理をしながらこちらを見上げる。
「持てたか、小学生」
「小学生じゃないし!」
「はいはい、そーですねー」
「適当に流すな!」
自分が抱えていた資料を机の上に置きながらそう倉本と言い合っていると、同じ部屋にいたみゆがクスリと笑った。
「倉本、あんたわかりにくいわー」
「な、なにがだよ!?」
「なーんでも?」
みゆの言葉に明らかに動揺する倉本。先ほどの余裕たっぷりな様子から打って変わって、どこか慌てている。だが、それ以降2人とも何も言わないので結局どういうことかわからなかった。
その後、最終調整をした。この後は、宇佐美さんとの打ち合わせと、『Colors』との打ち合わせが続く。忙しい1日になりそうだ。
★
作業が終わり、昼食を挟んだ午後2時、宇佐美さんがやって来る。彼女は最終デザインをもってきてくれることになっているのだ。
「こんにちは、宇佐美です」
「あ、こんにちは!」
そう言って入ってきた宇佐美さんを先程まで作業をしていた部屋へと招き入れる。資料はもう整理し切ったので、部屋の端の方にまとめて積まれている。私が彼女を部屋に招き入れると、みゆが真っ先に挨拶をした。
「宇佐美さん、こんにちは!」
「新堂さん、こんにちは」
椅子に座ってもらうと、倉本が「お茶、失礼しますね」とお茶を宇佐美さん、みゆ、私、そして自分の席のところに置く。
「ありがとうございます。早速なのですが、こちら、最終デザインになっております、どうでしょうか」
倉本が席に着いたのを見計らって、宇佐美さんはそう言ってデザインを見せてくれた。この前提案したものが形になっていて、何だかとても嬉しかった。
「めっちゃ可愛いです!」
「本当ですか!よかったです」
「華やかなデザインだから、手に取って貰いやすそうですね」
この前はいなかった倉本が、そう興味深そうに言った。
「では、最終こちらのデザインで発注させて頂いてよろしいでしょうか?」
宇佐美さんの質問に、3人揃って、うんうんと頷く。その後、時期や形状などなど細かなことについて打ち合わせをする。
その後、次の予定である『Colors』がやって来る。どうやら早く着いてしまったようで、部屋に案内された彼らと宇佐美さんがすれ違うことになった。
「あら……!」
「あ!」
ゆうくん達が案内されているのを見ていたら、宇佐美さんが小さく声を上げ、その後ゆうくんも小さく声を上げた。