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36話.狐、ひっそりと想う

狐=同僚の倉本です。

化かすのとか得意そうなので……。

俺、倉本 奏汰が社食に入ると、同僚の結月 陽葵が同じく同僚の新堂 みゆきと笑い合いながら昼食を食べていた。社食は広いし、お昼時だから結構混んでいるのに、1番に結月を見つけられる自分に苦笑する。


好きな奴ってのは、すぐ見つけられんだよなぁ……。不思議だな。


驚いたのか大きな瞳が落っこちそうな程目を見開いたと思ったら、次は楽しそうにカラカラと笑う。表情が豊かだ。可愛いと思う。まぁ、本人にはそんなこと、言ったことないが。


「まーた、新堂のマシンガントークに付き合わされてんのか?」


そうやって、少しからかうように言うのが精一杯だ。可愛いなんていうのはおろか、優しい口調ですら話せない。こいつを前にすると、どうしても口調が冷たくなったり、意地悪なことを言ってしまったりする。


「倉本……」


そう言って不機嫌そうに眉を寄せる結月を見ても可愛いと思うのだから自分でも重症だと思う。威嚇してくるが、全くもって怖くはない。それを指摘したら、またいつものように可愛く、キャンキャンと吠えて怒るだろうか。


そもそも、俺がこいつと出会ったのは入社前の説明会の時。隣に座ったのが、ちょうど彼女だった。とても美しい人だと思った。サラリと流れる黒髪は艶めいて、白い肌に輝く一際大きな漆黒の瞳はこぼれ落ちそうなほど大きい。


今思えば一目惚れだったのかもしれない。だって、彼女を見た時、俺は縫いとめられたように体が動かなくなったから。ドキドキと高鳴る心臓は、なにかに掴まれて揺さぶられるように苦しかったから。


恋に落ちるってこういうことなんだなって何となく頭の片隅で思ったのを覚えている。


「よろしくお願いします、結月 陽葵です」


その後行われた少人数グループでの自己紹介で隣に座っていたから、同じグループになった。そして、その時初めて知った名前。どこか緊張したように白い頬に赤みがさし、遠慮がちに微笑む彼女はとても可愛らしかった。彼女だけ僕の世界にいるみたいに、くっきりその姿を覚えている。


その後も誰か自己紹介する度に、小さく礼を返していて、律儀だなと思った。その度に伏せがちになる目と、サラリと揺れる黒い髪が目に毒だ。


「倉本 奏汰です、よろしくお願いします」


自己紹介の俺の番が来た時も彼女は小さく会釈した。それからじっと彼女を見ていた俺と会釈から顔を上げた彼女の瞳はパチリとかち合う。途端、綻ぶように笑った彼女に目が離せなかった。


まあ、その後関わっていくうちに、そんな見た目に反してお淑やかな女ではなく、元気で表情が豊かであることを知った。でも、むしろ全力で泣いて全力で笑って、全力で怒る。全力で生きているそんな彼女を美しいと思ったし、素敵だと思った。そして、そんな風に彼女の表情を引き出すのが自分であったなら、なんて思ったことは1度や2度じゃない。


そんな風に過去の回想に浸っていると、先程まで嫌な顔をしていた結月が、今度は心配そうな顔でこちらを覗いているのが見えた。


「倉本……?大丈夫??」


「大丈夫。お前の馬鹿そうな面に驚いていただけだから」


気づけばほら、また言ってしまう。みるみるうちに結月の眉が寄せられ、口がへの字に曲がる。


言われんのわかってんだから、心配なんてしなければいいのに。律儀に心配してくれる。なんて思うのは俺の単なる八つ当たりか。だが、こいつは、本当に根っからのお人好しなんだと思う。そういう素直なところとか、優しいところも本当に可愛いと思う。言えないけれど。


「心配した私が馬鹿だったー」


ふんっとそっぽを向く結月。眉間にはだいぶシワが寄っている。その眉間に人差し指を置き、グリグリとしてやる。


「お前はいつも馬鹿だろ。そのうち、ここに綺麗なシワが刻まれるぞ」


「なんですって!?というか、誰のせいだと!」


ブンブンと両手を動かしながら必死に訴える結月。その横で結月の隣にいる新堂がため息をついたのが見えた。


「あんたら、ほんと何やってんの?」


呆れたような声。新堂 みゆき、こいつには色々見透かされている気がする。表立って何かを言うことはないし、積極的に関わることがないが、色々と。


多分結月の事がとても大切だから、何も言わないのだと思う。彼女の気持ちを第一に考えているから。きっと、彼女に好きな人が出来たらアプローチの手伝いを全力でするだろうが、彼女を好きな人の手伝いをすることはないだろう。


まあ、それ以前にあまり個人的な関わりがないが。


「だって、倉本が酷いこと言うんだもん」


「本当のことを言っただけだろ」


両方の頬をリスのように膨らませて、怒る結月。


笑わせたいけれど、怒らせたい。

笑わせたいけれど、泣かせたい。


そのくせ、困っていたら放っておけなくて手助けしてしまう。


本当に、恋とはなんて厄介で複雑な感情なのだろうか。


……恋人とかいんのかな。

倉本は陽葵の恋愛事情は知りません。

みゆきはなんとなく察していますが、陽葵の気持ちが1番なので何も言いません……。そして、それを倉本も分かっています。

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