34話.わたし、質問をし合う
そんなこんなで始まった私とゆうくんの質問コーナー。ソファに隣同士で座っているから、お互い少し相手の方を向いて、斜めに座る。
「じゃあ、始めていきましょう……っ!?」
「手を繋ぐぐらいいいでしょ?」
私の言葉が少し詰まる。詰まったのはもちろん目の前の人が原因。不意に手を握られたからだ。驚いてビクりとした私と、それとは対照的に平然としたゆうくん。握られた手が何となく熱い。
手汗とかかいてないかな、大丈夫かな、なんて乙女らしさの欠片もないことを心配する。だが、コテンと首を傾けながら言うゆうくんに、否とは言えず、おずおずと頷いた。
だが、少しすると何となく落ち着いてきた。ゆうくんの手はほんのり温かくて安心する体温だ。その温かさがこちらにもでんせんする。相手を落ち着かせる体温。
「あったかいなぁ」
「たまには手を繋ぐのもいいよねー。まあ、陽葵さえ良ければ毎日でもいいけれど」
「では、私から聞いていこうと思います」
「どうぞ、どうぞ」
ゆうくんの言葉の後半をサクッと無視しつつ、始めようと言うと、ゆうくんはクスッと笑ったあと、空いている方の手をこちらに向けて先を促した。
「じゃあ、最初は無難に……好きな食べ物は?私は唐揚げです」
甘いものが好きで辛いものが苦手なのは知っているが、詳しく知っておきたい。
「甘いものは基本なんでも好き!和菓子も洋菓子も食べるよ。料理で言ったら生春巻き!あと、パエリアと味噌汁も好きかな」
見事に種類バラバラだね。なるほどなるほど、と心の中でメモをする。普通の春巻きじゃなくて生春巻きが好きなのか。生春巻きとかあまり食べないからイメージないな……。
「なるほど!今度作ってみるね」
「ほんとに!?ありがとう!じゃあ誕生日とかに作ってくれたら嬉しい」
「うん、そうしよう!楽しみにしてて!」
これで、ゆうくんの誕生日お祝いメニューが決まった!とても嬉しそうにニコニコしているゆうくんをみて、よし、作り方しらべて練習してみよう!!なんて決意をする。せっかく作るなら、美味しいものを食べてもらいたい。
「じゃあ、今度は僕か……逆に苦手な食べ物はある?僕は辛いものが全般食べられない……!!特に唐辛子系が無理!!」
「私はパクチー。あのなんとも言えない不思議な味が苦手なの」
「あー、パクチーねー。確かに好き嫌い分かれる食べ物だよね。独特だし」
そうなのよね。独特な味。それがクセになるって人もいるんだろうけれど、私はだいぶ苦手だ。どうしても合わない。レストランとかで「パクチー」の文字があると、その料理がどんなに美味しそうでも頼まないな……。
まぁ、それはさておき。ゆうくんは辛いものが苦手なのは知っていたが、唐辛子系が苦手なのか。きっかけとかあるのかな?
「そういえば、ゆうくんはどうして辛いものが苦手なの?辛いものが苦手になったきっかけとかある?それともただ味が苦手なだけ?」
「きっかけ、あるよー。あのね、小さい頃、パーティに連れていかれてね。立食形式だったんだけど、クラッカーの上に真っ赤なものが乗ってたの」
「うんうん」
「それを可愛い!と思った、何も知らない当時5歳の結希少年は、ぱくりと口に入れるわけですよ。そしたら、辛い、辛い!!本当に舌が燃えてるかと思った」
当時を思い出したのか、ゆうくんの口がへの字に曲がり、眉が寄せられる。不謹慎かもしれないが、小さい頃のゆうくんを想像して笑ってしまった。赤くて可愛いから口に入れちゃうゆうくん少年可愛かっただろうな。
「後から知ったら、その赤いものは豆板醤だったらしく……ちょっとトラウマになってしまったというか……辛いものをみると拒絶反応が出ます」
何でも豆板醤とえびなどの海鮮が一緒になった料理がクラッカーの上に乗っていたらしい。5歳に豆板醤は辛いね。結構な驚きだったし、そりゃ苦手にもなるか。
「そっかー、それは苦手になるねぇ」
「でしょー?」
ケラケラと笑うゆうくん。その後もどれだけの衝撃だったか教えてくれた。説明の時、身振り手振りがついてちょっと可愛いと思ったのはわたしだけの秘密である。だって、小さい子みたいに必死なんだもん。そんなに衝撃的だったんだね。
「じゃあ、次私かー。趣味!!私は、読書とジグゾーパズル!それから、ゲームかな」
「そうなんだ!結構集中するものが好きなんだね。どんなゲームをするの?」
「戦う系が多いかも。自分で言うのもなんだけれど、結構強いと思うよ〜」
「へぇー!今度見てみたい!」
私の言葉にゆうくんがぱぁっと目を輝かせながら言う。先程の翳りのようなものはもう彼の表情には無い。
「一緒にやってみたいじゃなくて?」
「いやだ、僕、ゲームは弱いもん」
「そっかー、残念。じゃあ、ゆうくんの趣味は?」
「僕はねー、映画、ドラマ鑑賞かな!勉強も兼ねて色々見てる。特に探偵ものが好き。あと、音楽も聞くかな」
趣味と実益が兼ねられている。ゆうくんのプロ意識だね。ゆうくんはブンブンと首を振って、「いや、そんな高尚なものじゃないよ〜」と言っていたが。
そんな感じで質問コーナーは続いていく。ほのぼのとした空気感で流れていく二人の時間は幸せだなぁと素直に思った。
だが、いつもニコニコしていたゆうくんが一瞬どこか辛さをうったえるような、悲しみのようななにかが現れた表情をした時があった。本当に一瞬だったけど、確かに見えた。
そして、それは、私が、「何人家族?」と聞いた時。
その後、なんでもないように、「父と母と俺の3人かなぁ」と答えていたが、なにかに耐えるような先程の表情が頭に焼きついて離れない。
なんでそんな表情をしているの、とか気になって聞けたら良かったのかもしれないけれど、でも、踏み入ってはいけないような気もして。結局何も聞けなかった。