2話.わたし、驚く
意識が朝日の端を捕まえて、意識を浮上させようとする。まだ微睡み足りないと喚く意識を無理やり覚醒させる。今日も今日とて会社だからだ。眠さと戦うこと数秒。重たい瞼をうっすらと押し上げる。
本当はもう少し寝ていたい。
目をうっすらと開けると、透き通るような琥珀色2つとかち合う。美しい色のそれ。
「……え?」
思わず声が落ちる。
覆うのは無言の時間で、思考回路が固まる。なに、この綺麗なもの。
「おはよう…?」
目の前から寝起きの、どこか掠れたような声が聞こえる。その琥珀色は人だった。人の瞳だ。
「きゃあああああ!!!」
眠気が一気に覚めた。劈くような悲鳴をあげる。
え、何故、私の家に人がいるの!?
私、一人暮らしだよね?
というか、誰!?
頭の中を疑問が勢いよく駆け巡る。
グルグルと記憶の渦を辿り、そしてようやく、「そうだ、そうだった」と思い出す。私は、道端で倒れていた男性を連れて帰って来たんだった。
思い出したら、「自分、何してるんだ」という気持ちが強くなって来てカクリと頭を下げると、その頭をバフっと柔らかいものが受け止めてくれる。
それは、布団だった。そうだ、私、ベットで眠る彼の看病していたはずだった。どうやら、途中で突っ伏して眠ってしまったらしい。
1人で納得し、うんうんと頷いていると、
「あの、ここはどこか聞いてもいいですか……?」
戸惑ったような声が聞こえた。そりゃそうだよね。彼にしてみれば、目が覚めたら知らないところにいて、知らない女がいて、その女がいきなり叫び始めたら驚くよね。
反省しつつそちらを向くと、美しく整えられた亜麻色の眉がどうしていいかわからない、といったように八の字に曲げられ、透き通るような琥珀の瞳はゆらりと揺れている。困っているのに、目に悪いほどのキラキラオーラが周りを囲んでいるように見える。
昨日連れて帰って来た時も綺麗だ、うつくしいと思ったが、今正面から相対してみてわかった、この人、類まれなるイケメンだと思う。
なんて考えている場合ではなかった。
「ここは、私の家です」
それから私は彼に昨日の経緯を話す。倒れていたことと熱のことを。話をすると、目の前の彼は自分の額に右手を当てて、少し目を伏せる。声に出してその姿を表現するのならば、「あちゃー」が適切だと思う。
それから、彼は少しの間そのままでいたが、すっ視線をこちらに向けて、
「そっか、それはごめんなさい、そして、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ勝手に連れてきてごめんなさい。もう、熱は大丈夫そうですか?」
「はい、それは大丈夫そうです。ありがとうございます」
それから彼はふわりと笑った。それこそ花が綻ぶように。そんな彼にこちらの体温が上昇する。イケメンの笑顔の威力、凄い。血液がくるりと回って頬に集中する。……ダメだ、ダメだ。
必死に1人で血液と熱の分散を図っていると、
「ところで、僕のことは知ってたりしませんよね?」
彼は、少し瞳をさ迷わせたあと、こちらを見て問いかけた。
知ってたりってことは、知り合いかな……?と記憶を思い起こしてみるが、思い当たる節はない。こんな美男子に会っていたらすぐに思い出せそうな気がするが。
「どこかでお会いしました?」
「あ、知らないなら大丈夫です!ありがとうございます」
とそこまで会話をして、そう言えば自分のこと何も言ってなかったことを思い出す。これから会うことはないかもしれないけれど、一応名乗っておくべきだよね。
「私、結月 陽葵 です」
そう名乗ると、彼は少し歯切れ悪そうに、瞳を左右に動かしたあと、
「あー、僕は、蒼羽 結希、です」
蒼羽 結希さんか。綺麗な人は名前も綺麗なんだなぁ。結ぶの字が同じだがら少し嬉しい気がする。それに、希望を結ぶ、なんてとても素敵だ。そう伝えると、結希さんは、少し驚いた顔をしてから、笑って「ありがとう」と言ってくれた。
その笑顔に少しだけ、ほんの少しだけ心臓がきゅっと音を立てる。……なんだ、これ?このまま直視していてはいけない気がしてそのまま、ふいっと視線をそらす。
その時、ぐぅ〜っと小さく音が鳴る。その音が鳴った途端、ほんのりと顔を赤く染め、ふいっと視線をそらした結希さん。
「……あー、ご飯食べます?」
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