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32話.雨猫、衝動に抗えない

「ただいま」


「お、おかえりなさい!」


何となく陽葵の所に来る時は「お邪魔します」じゃなくて、「ただいま」と言ってしまう。そちらの方がしっくりくる気がするのだ。陽葵の家に入り、つけていたサングラスとマスクをはずす。


すると感じる視線。じっと見つめてくるのはこの世で1番愛おしい人だ。その熱い視線を受けると自然と笑顔になる。ポカンと表現するのが正しいか分からないが、どこか心ここに在らずで見つめてくる姿はとても可愛い。


「そんなに見つめられたら照れるよ?……ほんと可愛い!よし……!」


その可愛さに陽葵の腕を自らの方へ引き寄せ、抱き寄せる。ふわりと香るのは花のような、少し甘い香り。腰の辺りに手をあて、離さぬように腕に閉じこめる。閉じ込められた陽葵は、突然の事で驚いたのかアタフタしている。


その反応がやはり可愛い。付き合って少し経つのにまだこの反応だ。黒曜石のような瞳が、緊張からか潤んでいるようなキラキラしているような、そんな風に見えて、ハッとするほど美しい。


「……っ!ゆ、ゆうくん!?」


「ただいまのハグ〜。陽葵不足だったから、充電、充電!」


陽葵の肩のあたりに顔を埋める。仕事で疲れたことも、嫌だったことも全て忘れられるような気がする。さらに近づいた距離で、ドクドクと聞こえるのは生きている証。それはきっと、常時よりも少し早くて、その音さえ愛おしい。


「陽葵、顔真っ赤だよ?」


肩口から顔を離すと、耳まで林檎のように真っ赤にした顔が目の前にあった。薔薇色とは対称的に吸い込まれるように真黒な瞳。可愛いし、美しい。愛おしさが溢れる。ずっと見ていたかったけれど、その願いは叶わず、陽葵はふいっと視線をそらす。


「むむむ……」


そう思っていると、陽葵はどこか悩むような唸り声を挙げたかと思うと、ばっとこちらを見上げた。何かを決意したような瞳がこちらを射抜く。


「なーに?」


そう尋ねると、近づいてくる陽葵の顔。え、何!?


……っ!?


刹那、触れた唇。間近に見える、閉じられた瞳。その縁を彩るのは瞳と同じく漆黒のまつ毛。肩できゅっと握られた手はどこかふるふると震えていて。ドキリと心臓が音を立てた。


控えめな「ちゅっ」という音とともに、陽葵は顔を離す。陽葵の真っ赤な顔に呼応するように、僕も体温が上がるのがわかる。


彼女から目が離せない。


気づいたら、彼女のことを更にきつく抱きしめていた。伝わる体温。


手離したくない。

離れたくない。

彼女が離れていかないように、全部自分だけのものにしたい。

全部、全部僕のものだ。


僕の中でなにかが弾けた気がした。その衝動に抗うこともできず、彼女の顎のあたりを右手で持ち上げるようにして上を向かせる。


潤む黒い宝石が、その熟れたような唇が目に毒だ。それに誘われるように僕は彼女の唇を奪った。


「……んっ!?」


お互いの熱を確認するように何度も触れた唇は、柔らかくてどこか甘美だった。それが、僕の中を巡る血液を沸騰させる。


「ねぇ、……陽葵……僕を誘ってる?」


「え、あ、え!?何言ってるの……!?」


少し息が上がったらしい陽葵は小さく肩で息をしている。そんな彼女の耳元に口をよせ、囁く。もう既に真っ赤だったのに、さらに赤くなる目の前の愛おしい人。


「いいよね?」


と、その時。


ぐーっ……


おおよそ雰囲気に似つかない、間の抜けた音が鳴った。発信源は僕のお腹。突然のことに固まった僕に、小さく吹き出す音が聞こえた。途端に霧散する甘い雰囲気。


は、恥ずかしい……。


「……っ……」


クスクスと笑っている陽葵。その顔はもうすっかりいつも通りで。なーんで、僕はこうも締まらないのかなー。


「陽葵、笑いすぎ」


「ごめん、ごめん!……はははっ……!」


謝りつつも笑いが止まらない陽葵に、釣られるようにして僕も笑いが込み上げた。抱きしめあったままお互い声を出して笑うというなんとも奇妙な行動。


ひとしきり笑ったあと、僕が陽葵から腕を離すと、陽葵はいつもの可愛い笑顔で、


「ごはんにしよっか」


なんて言うから、ちょっとからかいたくなる。さっきお預けをくらった、はたから見たら全く見当違いの意趣返しの意味を込めて。


「なんなら陽葵でもいいのになー」


「バカ言わないのっ!どーして、あなたはこうも簡単に……」


そう言うと、ほら、顔を真っ赤にして。本当に可愛い。その反応を見れるならいじわるしちゃうのはしかたない事ではないだろうか。


「照れることを言うのって?そんなの、反応が可愛いからに決まってんじゃん」


「かわっ……」


「うん、とても可愛い」


「……っ!そ、そんなこと言っていないでご飯だよ、ご飯!用意してくる!」


そう言ったあと、顔を真っ赤にしたままドアの方へと一目散に駆け出し、バタンと勢いよく閉まる。ちょっとやりすぎたかな?なんて思っていると、先程陽葵が入っていったばかりのドアがガチャりと再度開いた。


そっと顔を出した陽葵は、


「ちゃんと、手洗いとうがい、すること!」


とだけ言いおいて、再度ドアの向こうへと消えた。盛大な照れ隠しに、ふふっと笑う。


「はーい、ちゃんとするよー」


そう、ドアに声をかけてから、洗面台へと向かったのだった。

規約読んだけど、R15がどのくらいか分からなくて、こんな風になりました。このくらいなら大丈夫……なのかな??大丈夫でしょう!!多分!!


読んで下さってありがとうございます。

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