29話. わたし、可愛い人と話す
輝くような晴天。太陽が照りつけており、どこか元気を貰える。今日は、例の商品の第1号試作デザインをデザイナーの宇佐美さんが持ってきてくれる日だ。いい日になりそう、なんて天気で左右される私。
自分の部署に入り、「おはようございます」と挨拶をする。何人かから返事が帰ってくる。自分の席に着くと、向かい側の席から先に来ていたみゆがこちらを見た。
「あ、おはよー、ひまー」
「おはよー、みゆ」
「元気か?」
「おう、元気よ。……なんの確認〜?」
「いや、何となく〜?元気ならよかった」
急に元気さの確認をされ、笑いながら答えると、みゆもニコニコも笑いながら言う。それから、みゆは1度机の方に向き、机に貼ってあった付箋を外す。そこには、デザイナーの宇佐美さんと約束の電話をしたメモが書かれている。それを見ながらみゆが、
「そーいや、今日よね、例のデザイン見れるの」
「そうね!めっちゃ楽しみにしてきた」
「ね!ね!」
2人してワクワクしながら会議室の準備をした。宇佐美さんとの約束の時間は11時だ。
そして、約束の時間。その少し前に宇佐美さんはやってきた。サラッとした髪に凛とした佇まい。彼女が現れただけで周りがパッと華やぐ。相変わらず美しい人だ。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
スっと一礼する宇佐美さん。声まで美しいんだから、完璧とはこの人の為にあるんじゃないかな。
「おはようございます!よろしくお願いします」
私達も挨拶をし、その後席に着いた。そして、やはり会議は和やかに進んだ。宇佐美さんは新鮮かつ繊細なアイデアの持ち主で、当たり前かもしれないけれどとてつもなくセンスがいい。試作品もとても美しい作品だった。
だが、私やみゆの意見を取り入れたいと、素人である私たちの意見も聞いて、上手に形にしてくれる。その場でスケッチまでして見せてくれた。今どきはスケッチブックではなく、タブレットだ。
「もう少し華やかなイメージにしたいのですが……」
「そうですわね、ここはもう少し華やかさを足すために花を入れてみるのはどうでしょうか」
そう言いながらすすっとその細い指を動かし、美麗なイラストを描いていく。
「わぁ!素敵!!」
私とみゆはその手から生み出される美しい絵に感動し通しである。そして、宇佐美さん自身もアイデアがどんどん浮かぶらしく、「こんなのはどうですか?」と次々言ってくれる。
そして、気づいたらだいぶ時間が経っていた。お昼時だ。
「もうこんな時間ですね。すみません、どんどん言ってしまって」
「そんな、こちらこそ申し訳ありません。皆さんの意見を聞いているとどんどんアイデアが浮かんでしまって……」
宇佐美さんが申し訳なさそうに言った。そんな姿も様になる。そのあと、もうお昼だねという話になり、
「あの、よろしければ、お昼、ご一緒しませんか?」
とみゆが言ったことにより3人でご飯に出ることとなった。行き先は毎度おなじみ食事処『つばき』。昼は食堂、夜は居酒屋といつでも大抵開いている。お値段もリーズナブルでお財布に優しい。そう紹介すると、宇佐美さんは目をキラキラとさせた。
「まぁ、食堂ですの!!行きたいです!!」
その後、少し大きな声を出したことにばつが悪くなったのか、宇佐美さんは頬を赤く染めた。それからはすました顔をして一緒に食堂へ行ったが、何かを見る度に……例えばテーブル席であったり割り箸、水を自分で足すためのピッチャーなどなど、目を輝かせては、すぐに真顔に戻る。本人は隠せているつもりみたいだが、もしかしなくても、
「宇佐美さんは食堂に来るのは初めてですか?」
そう聞くと、宇佐美さんは分かりやすくバババッと顔を赤く染めた。それからワタワタと先程の仕事のイメージからかけ離れた動きをする。
「え、え!?な、そ……どうしておわかりに?」
「目がキラキラしていたから?ね、ひま」
みゆの問いにうんうんと頷く。驚いた姿も可愛いとかすごいね、なんてことを思う。美人ってこういう人を言うんだろうな。
「本当ですか!?とても恥ずかしいのですが……おっしゃる通り、実は私、こういった所にくるのは初めてなのです」
「そうなんですね〜」
そう言いつつ、「そっかー、それなら楽しんで貰わなきゃだね」と思って、みゆをちらりと見ると、みゆもこちらを見ていて、パチリとウインクをしてきた。言葉はないが同じことを思っているらしい。
「……あれ、引かないんですの……?」
「……なぜ……?」
「どこに引く要素が……?」
その美くしいかんばせは下を向き、顔は見えないが、膝の上に置かれた手がキュッと強く握られて震えているように見えること、それから声が震えていることから彼女の不安が伝わってきた。
何を不安に思っているか分からず、とりあえず問いには答える。何に引くのだろう?誰にでも初めてはあるものでは??
「私、よくものを知らない人だと言われるのです……」
「そうなんですか。でも、わたしも知らないこといっぱいありますし、知っていることと知らないことって人それぞれなのでは?」
だって、詳しいこともあれば詳しくないこともあるでしょ?たしかに食堂に来たことない人は珍しいかもしれないけれど、いる分にはいるでしょう。それに、宇佐美さん、他のことで知識色々あったし。
そういう思いで言うと、みゆも隣でうんうんと頷いている。
「あたしは宇佐美さんの初めてにご一緒できて嬉しいですよー」
「ほんとですか?」
光を取り戻した宇佐美さんに、ニッコリ笑いかける。
「せっかくの初めて、楽しみましょう」
それから、宇佐美さんはうずうずしていたらしく、色々なものを見て目を輝かせていた。もう隠さなくていいと分かった宇佐美さんは、本当に楽しそうだった。
「え、あたたかい!これはなんですの?」
おしぼりをもってキャッキャと言い、
「割っていいんですの?!どう割るんですの!?」
割り箸に格闘し、
「これは唐揚げですわよね!知っていますわ!……美味しい!」
唐揚げの味に感動していた。
そんな宇佐美さんを見て、少し子どものようだ、なんて思ったのは秘密である。
結論、宇佐美さんは、素直で可愛い人だった。