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1話.わたし、出会う

 空を灰色に染めた雲から無数の透明な粒が生み出され、世界を色の薄い水彩画のように彩る。そんな雨粒は地面に吸い込まれるように消えていくか、あるいは人々が差す色とりどりの傘に跳ね返るかのどちらかだ。


 世界がどこか幻想的に見える。でも、どこか物悲しく見えるのは何故だろうか。


 それに呼応するようにどこかで消防車のサイレンが鳴っている、気がする。


 そんな物悲しい気持ちを少しでも浮上させるべく、お気に入りの赤い傘をさし、いつも通り仕事からの帰り道を一人歩く。


 私の家は、仕事場のある駅から2駅向こうにある。そして、駅から徒歩12分と少し遠めではあるが家賃は安めの為結構気に入っている。


 ちなみに仕事場は、ある美容系の会社である。私は、企画課の社員。下っ端の下っ端だけれど。


 12分の道を歩く。あと2、3分くらいで我が家に着くはずだ。生憎と出迎えてくれる家族はいないが。23歳独身だ。


 相変わらず傘の外では透き通るような雫がこぼれ落ちている。ふと、そんな雫を見ると、その端に不意に亜麻色が反射して映り込んだ。


「…………え?」


 さーっと周りを雨音が取り囲む。それ以外何も聞こえないような気もしてくる。世界がぼんやりとする中、一際その亜麻色が輝いて見えた。


 その亜麻色は人だった。亜麻色の髪を持つ男性が道の端に座り込んでいたのだ。


 俯いていて顔は見えないが、綺麗、だと思った。


 傘もささず、雨にびしょ濡れになったまま閑散とした道の端にただ座っているだけなのに。思わず声をかけるのも躊躇うくらいに凛としていた。

 

 男性はこちらには気づいていないようで、ただただ静かに座っているだけ。このままここにいれば彼はきっと風邪をひいてしまうだろう事が容易に想像できる。


 大丈夫だろうか。声をかけづらいが、見つけてしまった以上、無視をすることもできない。


 私は、ゆっくりと彼に近づき、思い切って、


「……あのっ!」


声をかけるが、そちらからは反応はない。それどころか、こちらを向きさえしない。眠ってしまっているのだろうか?そう思いながらもそんな彼にそっと自らの赤い傘の半分を傾ける。


 すると、亜麻色はそのまま、


 __バシャ………ッ


「え、ちょっと!お兄さん!?」


自らの目の前で、地面に出来た雨だまりの中へと倒れたのだった。


 一瞬驚いたものの、人は驚きすぎると冷静になるらしく、男性の方へとしゃがむと、そっと腕をとり、脈をはかる。生きてはいる。そして、そのとった腕は、燃えるように熱かった。きっと、何時間も雨に打たれていたのだ。


「お兄さん、熱……!」


 このままでは、いけない。それは、医療関係者ではない私にだってわかる。この辺りの病院は……と思い、思考の中を探すが、この辺は、閑散とした住宅街で駅の近くならまだしも、病院などない。そして、この時間だ。今から病院のために駅に戻っても閉まっているだろう。


 どうしたものか。そう思考を巡らせてから、たが、思い浮かばない。そうしている間にも彼は雨に濡れたまま荒い息を吐いている。焦りと不甲斐なさが頭をめぐり、そして、そんな私の頭は突飛ない答えを導き出す。魔が差したのかもしれない。


 こうなれば、連れて帰るよりほかは無い、そう決心したのだ。幸か不幸か家は目と鼻の先だ。徒歩3分だ。


 だが、どうやって連れて帰るか。さすがに女性の私が、男性の彼を背負って帰る、なんてことは到底無理だ。体格差がありすぎる。


 少し考え、そして、一旦、申し訳ないけれど、起こして、3分だけ、歩いてもらおうという答えに行き着く。


「……お兄さん、少し起きて…!3分だけ歩いて!!」


 そう声をかけ、身体を揺すると、男性は、少しだけ薄目を開けた。初めて正面から見た瞳は、透き通っていて、美しかった。だが、見惚れている場合ではない。


「お兄さん、3分だけ歩いて!」


 目覚めたことをこれ幸いと、彼の手を取り、立ち上がらせるべく、まず、自分が立ち上がり、次いで、彼の手を上に引っ張る。彼はわかっているのかわかっていないのか定かではないが、とりあえずそれに従って立ち上がってくれた。どこか覚束無い足取りだが、なんとか大丈夫そうだ。


「これは、誘拐じゃないよ!病人の看護よ!」


 誰にするとでもない言い訳を吐いてから、彼の手を自分の肩に乗せる。近づいたことにより、その燃えるように熱い体温と、少し荒い息遣いがより感じられた。


「ちょっとだけ頑張って……」


 そのまま、あと3分程で着く、自らの家へと引っ張って行く。傘をさしながらは歩きづらいが、仕方ない。彼が更に濡れるよりはマシだ。


 歩くと、目の前に、そんなに大きくもないアパートが現れる。我が家はこのアパートの三階に位置する。301というエレベーターで上がってすぐのところだ。


 私はとにかくエレベーターに、半分夢の中にいるような彼を押し込む。すると、彼はふらりとした足取りながらもエレベーターに乗ってくれた。その後ろから私も乗り込み、三階のボタンを押す。エレベーターはふわっと心臓が浮くようなあの独特な上昇感のあと、チンと音を立てて止まった。


「あと、もうちょっと……!」


 自分より体格の良い、それも半分意識のない男性は小柄目な私にとっては重い。重すぎる。これは、明日は筋肉痛かな……などと場違いなことを考えつつ足を進める。それから、自らの家の鍵を取り出して解錠してから男性とともに部屋になだれ込むようにして入り、一緒に玄関に倒れる。


疲れた。思った以上に疲れた。はぁっと盛大に溜息をつきつつ連れてきた彼を見やると、彼は微睡むような視線をこちらに向けたままだった。熱が出た中だいぶ無理させちゃったかもしれない。


「大丈夫ですか?」


 返答はない。ぼーっとこちら側を見ている。だが、濡れた服のまま寝かせるわけには行かず、彼をたまたま持っていたオーバーサイズのパーカーとズボン、タオルを持たせて、脱衣所へ押し込んだ。


 もしかしたら少々服は小さいかもしれないけれど、仕方ない。そこは我慢して欲しい。下着は……あるわけないので、申し訳ないが同じものを使ってもらう。


 慌ただしくお風呂に放り込んだが、どうやら途中で眠りにおちることも無く順調に終えたようなので、そのままの勢いでベットへ入ってもらった。


「やっと終わった……」


 ひと仕事終えて、はぁと大きく息を吐き、自分もお風呂に入る。それから、熱が出てるようだったので、氷水を洗面器に汲んできてベットの横の小さなテーブルに置き、その氷水に浸したタオルを彼の額に乗せた。


 今晩は看病になりそうだ……。そう思ってベットの横に椅子を持ってきて座る。見ず知らずの人だけれど、助けたんだったら最後まで面倒みないとね。

わー!1話目ですって!緊張です!!

面白そうだなって思ったら、ぜひブックマークよろしくお願いします!


次の投稿は、朝8時予定!


よろしくお願いします。

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