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25話.わたし、掴まなければいけない

 強引に結希さんをお風呂に押し込む。その時、ふと思った。なんか、あの日みたいだなぁって。あの出会った日もあなたは雨でびしょ濡れで。私の家に連れて入って。そう思うと少しおかしくなった。


 結希さんがお風呂に入っている間に自らも濡れた服を部屋で着替える。お風呂は後でいいだろう。幸い下着までは濡れていなかったし。


 それから、ポットでお湯を沸かし、お茶っ葉も用意しておく。結希さんが上がってきたら飲んでもらうためである。また風邪をひかれちゃ困る。少しでも身体をあっためないと。もう夏だといって侮っちゃいけない。夏風邪は長引くって有名だからね。


 そんなことを思いながらキッチンでお茶を準備していると、その間に結希さんがお風呂から上がってくる。タオルで髪の毛を拭きながらリビングにやってくる結希さん。その様子を見ていると、数日前までのことを思い出す。


 結希さんの様子をじっと見つめていたようで、気がついたら結希さんは不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。リビングとキッチンは丁度このシンクなどでわかれている感じなので、キッチンの中側とリビング側で目が合う。


「どうしたの?」


「こういうの久しぶりだなって。あー、久しぶりって程じゃないか?」


 結希さんの問いに自分が思ったことを伝えると、結希さんはクスッと笑った。


「たしかにそうだね、なんか懐かしく感じる。たった数日前なのに」


 そうだよ、数日前なんだよ。私にとってはもう数週間も前くらいなイメージだったのに。


「ねー。あ、今お茶入ったから!ちょっとテーブルのところで待ってて」


「え、ありがとう!陽葵さんもお風呂に入る?」


「あー、ううん、後でいいや。そんなに濡れていなかったし」


 私は、テーブルのところに向かう結希さんとそういうやり取りをしながら、ポットから湯呑みにお湯をいれて、湯呑みを温めると同時にお湯を冷ます。それからお茶の葉の入った急須に湯呑みからお湯をゆっくりうつし、少し待ってから交互に私と結希さんの湯呑みにお茶を注いだ。


 その注いだお茶をテーブルの方へと持って行き、先に席に着いていた結希さんの前とその向かいの席に置く。


「ありがとう!」


「どういたしましてー」


 そう言って自らも結希さんの向かいの席に座る。急須もテーブルの上に一緒に置いてある。結希さんは私が席に着いたのを見計らって、目の前の湯呑みを持ち上げて口をつけた。コクリと音がなる。


「陽葵さんはお茶を入れるの、上手だよねー」


「そうかなー?でも、ありがとう」


 その会話をしてから、少しの沈黙。ただお茶をのむ音と湯呑みを置く音が響くこと数分。


 言わなければいけない事があるのは私の方なのに。会いたいってメールを送ったのは私の方なのに。


 でも、口は動かなくて。何故だろう。何かがつっかえたように押し黙ることしかできない。緊張しているのか、怖いのか。


 その沈黙を破ったのは結希さんの方だった。「あのね」と声をかけられる。その声に返事をしながら湯呑みから視線を上げて、結希さんの方を見る。


「さっきは言おうとしたけれど言えなかったからこれから言うね」


 その瞬間空気がガラリと変わるのを肌で感じる。真剣な瞳がこちらを見る。とろけるような琥珀の瞳に見つめられて目が離せない。


 ふっと結希さんは息を吸い、


「僕、蒼羽 結希は結月陽葵さん、君のことが好きです」


と言った。私は思わず息を飲む。結希さんへの好意を自覚して、メールを送って、その返事が私の家の前にいるだったから、もしかしたら……と予想はしていた。それにさっきからの様子だって……。「僕も君が頭から離れない」と言う言葉だって。


 でも、実際に言われると信じられなくて。私と結希さんは、同じ気持ちを抱いてるってこと……?


 きゅーっと心臓が縮まるような感覚がする。少し苦しいくらいの締めつけ。それに合わせてドッドッドッと音も立て始める。脈打っているのはそこのはずなのになぜかそこよりもっと近くで脈打ってるような感覚。


「全然上手く言えないけれど、その笑顔が、強引だけど優しいところが、明るくてノリがよいところが……ううん、それだけじゃない。その君の……全部が大好き」


 宝物を扱うかのように優しい、慈しむような声音で続ける結希さん。そこで一度言葉を切り、それからふわりとした笑顔を浮かべる。


「だから、これからも僕と一緒にいてくれる?……僕と付き合ってくれませんか」


 その言葉は真綿のようにふわふわしているように感じる。優しい柔らかさ。自分の耳で聞いたのにどこか遠いところで話しているような気持ちになる。


 好きな人から告白される。こんな……幸せなこと、あっていいのだろうか。これは現実だろうか。


 目の前には返事を待っている想い人の姿。この真綿を掴まなければならないと思った。きゅっと自らの手を握り、それから結希さんの方を見つめる。


「………はい……私もっ……結希さんが好きです……っ!よろしくお願いします」


 そう言葉を紡いだ。口が乾いているのか何なのか、出た声はどこか途切れ途切れでか細いもの。でも、ちゃんと伝わったようで目の前の人は花を浮かべるような笑顔を見せた。


「これから恋人としてよろしく、陽葵さん!」


 この人と……恋人になったんだ……。どこか遠い世界での事のように感じるけれど、恋人、なんだ……。そう理解すると、勢いよく身体の熱が上がっていく。沸騰しそうだ。結希さんの方を向いていられなくて思わず俯くと、


「ねぇ、陽葵」


「……っ!?」


 今……私の名前、呼び捨てで……!


 驚いて思わず顔を上げる。思ったより近くに結希さんの姿があった。いつの間にか顔を覗き込まれていたらしい。椅子から立ち上がってテーブルに左手をついている。ちょうどテーブルを支えに身体をこちらに乗り出すように前かがみになっているのだ。


 あまりの近さにたじろぐも、結希さんはそんな様子を気にせず、


「キス、してもいい?」


 呟くような、掠れるような声だった。艶っぽさと甘さが溢れたような声。目の前には溶けるような琥珀の瞳。その瞳に、声音に当てられてコクリと頷く。


 すると、近寄ってくる美しすぎる顔。キラキラと美しく眩しく光った瞳、細やかな肌と長めのまつ毛、スラリと通った鼻筋、その全部が間近に見える。


 キュッと手を膝の上で握り、ギュッと目をつぶった。自分が動揺しているのがわかる。


 こんだけ戸惑うとか中学生かもしくは高校生か!と自分でも思う。でも、今までそんなに経験がないから……仕方ないじゃないか。他人をこれ程近くで見たことなど無いに等しいから、緊張するのだ。


 刹那__


 唇に触れた体温。柔らかな感触。そして、チュッという音。


「………っ……」


 軽い口付けだった。たった一瞬触れただけ。それなのに、ぶわっと身体中に広がる温かさ。頭からつま先まで火照っているような感覚。好きな人に触れられるってこういうことなんだ、と変に冷静に考えられる。


「陽葵」


 また、宝物を扱うかのような声。優しく名前を呼ばれる。それがとても嬉しかった。


「結希さん……」


 つられるようにそう呼ぶと、結希さんはゆっくりと首を横に振った。そうじゃないよ?と幼子を諭すかのように。


「僕のことも……ね?呼んでみて?」


 その言葉にたじろぐ。……え!?これは、呼び捨てでってことだよね?


「ゆう……くん」


 耐え……きれなかった。呼び捨てはハードルが高かった。モゴモゴとそう呼ぶと、結希さんは目をぱちくりと瞬かせたあと、向日葵のような笑顔を見せた。


「それもなんかいいね。これからはそう呼んでくれる?」


 嬉しそうな結希さん……あらため、ゆうくんに、私はコクリと頷いたのだった。それに満足したのか、ゆうくんはこちら側に乗り出していた体勢から椅子へと戻っていく。


 それによって、少しさっきの甘いような小っ恥ずかしいような雰囲気は霧散する。


「あ、あと!言っておかなければならない事があるんだ」


 ゆうくんは椅子に戻り、少しぬるくなってしまったであろうお茶を1口飲んでからそう言った。私が促すように首を傾けると、ゆうくんは話を続ける。


「あのね、僕の職業なんだけれどね」


 ああ!そう言えば何しているかちゃんと聞いた事、なかったんだった。聞かれたくいんだと思っていたし。


 予想ではホスト、だけれど。女の子の扱い、慣れているし。でも、答えはそんな予想の遥か斜め上を行く。


「僕、アイドルやってるんだ!」


 ………え?


 えぇぇぇ!?

2章へつづく……


はぁー、書いてて小っ恥ずかしくなったよー。恋愛なんて書くの久しぶりすぎて!(いせこくはまだ告白とかいってないので書く機会がない……)


ほんで描写、むずっ!


こんなんでええんかなぁー……。

どう思いますー?←


そして、最後の最後にとんでもない爆弾を落す結希さんとそれに驚く陽葵さん。


さてさてどうなる事やら。


これにて1章は終了です!!ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。


本当にありがとうございます!


この後は少しの番外編を挟んだ後、準備が出来次第2章へ参ります!これからもよろしくお願いします!!


番外編のスケジュール予定

10月1日 番外編1

10月4日 番外編2


です!!



結希と陽葵をデジタルでちびキャラにして描きました( *¯ ꒳ ¯*)

挿絵(By みてみん)

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