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21話.あたし、悩む

ここでの「あたし」は、お馴染み(?)の新堂みゆきです

 ぼんやりとした雲としとしとと降る雨はこの季節の少し前の季節の代名詞である。梅雨はもう明けたとの事だったにも関わらず、ここ数日、こういったぼんやりとした天気が続いていた。


 会社の窓から視線を外すと、そこには、そんなぼんやりとした天気と同じような瞳をした同僚がいた。同僚は、壁に自分からぶつかりに行っている。


「ひま!!目の前!壁!」


「え、あ!ごめん!ありがとう」


 慌てて声をかけるとはっとした顔をする陽葵。


 この所、あたしの同僚で1番仲のいい、この、結月陽葵はここ数日ずっとこの調子なのだ。この、ぶつかりかける件だってここ数日で何度声をかけたかわからない。


 もっとも、ぶつかる先は壁だけでなく柱であったり扉であったりもするのだが。とりあえず、目を離したらどこかに頭をこんにちはしようとしているのである。明らかにぼけーっとした様子の陽葵は、危なっかしくて見ていられない。


 これからデザイナーさんとの会議だってのに、ほら、また……。


「ひまー、手ぶらでどこ行くのよー」


 今度は次の会議に何も持たずに会議室に向かおうとしている。必要な書類の入ったファイルは机の上に置きっぱなしで、スタスタと歩いている。なんだろう、この上の空感。今までそんなこと無かったのに。


「あ……!」


 あたしの声にひまは声を上げる。驚いて自分の手を見てから困惑した様子のひま。「あれー?」と顔に書いてある。どんだけぼけーとしていても、思ったことが顔に出たりするわかりやすさは変わらないらしい。


 あたしは、ひまの机からファイルを持ち上げるとひまの目の前に差し出した。


「ほれ、これよ」


 ひまはそれを受け取ると、自らの胸の辺りに抱えるようにして持った。


「ありがと」


 そう言って少し微笑むひまに確認とばかりに、ぴんと人差し指を上向きに立てて、


「んで、会議室は?わかってる?会議室は隣のカンファレンスルーム03よ。ちなみにあたしもだけれど」


 言うとひまはうっと1度言葉に詰まった後、目を泳がせる。これはわかってなかったな、ということが1発でわかる表情である。本当にわかりやすい。だが、


「わかってるよー!?大丈夫、大丈夫!」


「ほんとにー?」


 あたしが重ねて問いかけると、また言葉を詰まらせる。それから素直に、


「ごめんなさい。部屋番号確認していませんでした」


とのたまった。ほんとに大丈夫か、これ。何かあったのか……というのは聞くまでもない。火を見るよりも明らかである。そして、こんなにも仕事に集中出来ていないひまは珍しい。ひまはパソコンは少々苦手だが、それ以外は仕事が出来る。


 また機会をみて話を聞くか。


 ★


 でも、そんなポヤポヤぼけぼけしたひまでも、会議室に入る前に空気を変えた。目がキリリとし、足取りもしっかりしている。違う課との会議はやはり気合いが入るらしい。パチリと自らの頬を両手で叩き、ふっ!と1つ息を吐く。


 我が企画の班員である倉本はこの案件の違う取り引きで席を開けているため、今回の会議に参加するのはあたしとひまだけだ。


 まあ、会議って言ってもデザイナーさんとの会議だからそこまで意見のぶつかり合い!とかにはならない……はず。こちらはデザインのことは分からないから、コストの面やその他の要望を伝えるだけになるとも思う。餅は餅屋だからね。


「御足労いただき、ありがとうございます。担当の結月陽葵、並びに新堂みゆきです。どうぞよろしくお願いします」


 ひまが挨拶をすると、腰まであるだろうサラサラの髪をハーフアップにした気品のある女性が立ち上がる。


「お初にお目にかかります。宇佐美 凛 (うさみ りん)と申します。よろしくお願いしますわ」


 そして、会議は予想通り、滞りなくすすんだ。相手方のデザイナーさんは名前の通り、凛とした雰囲気を纏った人だった。言葉遣いもとても丁寧。お嬢様みたいだ。


 物腰優しいが、芯は通っていて、しっかりと自分を持っている。自分の作品に誇りを持っているが、それでいて相手の意見を聞かないなんていう傲慢なところはない。


 似たようなところもあるのだろうひまと大層気があっていた。まあ、ひまとは違って「見かけ倒し清楚」じゃないけれど。ちゃんと清楚な人だった。


 それをひまに言ったら「見かけだけって何よ!知ってたけど!」と怒っていた。反論する勇気があるくらい気持ちが上向きになったようで、よかったよかった。


「ありがとうございました!」


 あたしとひまでデザイナーさんに向かって頭を下げる。すると、向う側さんも優しい笑顔で、


「こちらもとても楽しい会議でしたわ。ありがとうございました。作品が出来ましたら持って参りますね」


と頭を下げて言ってくれた。いい会議だった。とても有意義だった。とてもいい商品が出来そうだ。きっと、『Colors』にもピッタリの!!


 それから凛さんを見送って、あたしとひまで部屋に戻ることにする。


 ひまは歩きながら窓の外の雨を見て……何かまた考え込み始めた。こりゃまた、ぼけぼけ再開か?不安定なかんじか?


 ひと仕事終えたので仕事スイッチがまた切れたみたいだ。仕事を始めるとまた仕事スイッチが入るんだろうが、逆を言えばそれまでは自分から柱にぶつかっていくようなこのぼけぼけひまさんなわけで。このままじゃいつか頭か首かが骨折するぞ。


 大きくため息を吐き、


 ……よし、今夜辺り話でも聞いてやるか。


と思っていたら、


「みゆー」


 当の本人から声をかけられた。

次の投稿は【9月27日8時】です!

よろしくお願いします。゜(゜´Д`゜)゜。

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