16話.わたし、恐縮 のち 楽しむ
結希さんと2人で外に出る。太陽の光が全身を包み込み、心地よい。もう少ししたら、暑くなるだろうけれど、今の季節はまだ暑さが少ない。少し蒸し蒸しとはしているけれど。
これからどんどん暑くなって、蝉の声が響く夏がやってくるんだろうなぁ。
なんて思いながら、結希さんと2人並んでショッピングモールへの道を歩く。目的地のショッピングモールはいつも私が通勤に利用している駅の近くだ。
あの辺は商業施設や商店街などがあり、商売が栄えているのだ。ちなみに昨日、食料品を買ったスーパーもこの商店街の中にある。
隣を歩く結希さんはファッションの一環なのかサングラスを掛けていて、あまり顔が見えないようになっているが、道行く人の目を引いている。オーラが違うのかな、多分。
イケメンだとは思っていたけれど、やはり周りから見ても相当イケメンなようだ。
隣を歩くのに少し恐縮する。私なんかが一緒に歩いていていいんだろうか、と思ってしまう。
「ねぇ、陽葵さん!あれ、みて!」
当の本人は周りの視線なんかは全然気にしていないようで、街中にある色々なものを指さしたりしてとても楽しそうであるが。
「どれ?」
「あれ!あの看板ね、逆さまにしたらニコニコ顔に見える」
と言ってから、自分の頬をグイッと伸ばして「ほら、こんなのー!」とニコニコ顔の真似をしてみせる。
その顔があまりにもその看板に似ているから思わず笑ってしまう。
「ほんとだね!」
と止まらないので笑いながら言うと、結希さんはえへへといたずらっ子のような顔をする。
なんか、こうやっていると周りの視線とか気にしちゃ損な気がする。今、私はこの人と一緒にいるんだから、楽しまなきゃね。
ふっと一度息を吐き、結希さんの方に向き直る。
「よし、結希さん。目的地はあっちだよ!ほら、あのショッピングモール!!」
「お!りょーかい!」
★
「おおー!広いね!」
結希さんのショッピングモールについた途端の感想はそれだった。まあ、ここらじゃ1番大きいショッピングモールだからね。
地下1階と地上4階まであるし。地下1階は主に食品を扱っているし、地上4階も食事屋さんが多いので、今回の目的は主に1階から3階がメインだ。1階や3階にもカフェやらなんやらがあったりもするけれど。
「こんなに広いと迷子になっちゃいそうだね」
「私ね、初めて来た時に迷ったよー。フロアガイド持ってたのに!!グルグル回ってヘトヘトになったよー」
あのとき、何度目かの方向音痴を実感したわ。私って方向音痴だったんだー、知ってたけれど、ってなった。まあ、私はスマホのマップ持っていても迷う人だからね。ワタシ、チズ、ヨメマセン。
「それは大変だったね……」
「あ!でも、心配しないで!もう慣れたから!今日は迷うことはないから!!」
「それは心強いよ。ありがとう」
「ううん!さあ、服を買いに行こー」
どんなファッションが趣味か分からないので、とりあえず無難なメンズの服が売っているところへ案内した。ここなら色々な種類の服があるので趣味に合うものもあると思う。
ちなみに、好きなブランドとかを聞いてみたけれど、「……あんまりブランドとかは興味ないなぁ……」と言われたのだ。何でも、お金を誇示するような服は特に嫌なんだとか。それを言っている時、顔をしかめていたから、相当嫌なんだと思う。
「どういうのが好みー?」
店に着いてから、そう尋ねると、結希さんは少し悩むような素振りを見せる。それから、
「じゃあ、陽葵さん、コーディネートしてよ!君が似合う!と思ったものを着たいな」
とそれはもう素敵な笑顔を見せられた。100点満点の笑顔であった。
「え!?私!?」
「うん!」
結希さんは、頷いてからキラキラワクワクといったような表情でこちらを見る。そんな瞳をされたら、断れるわけないよね。
私が頷くと、ニコッと嬉しそうに笑った。子犬の尻尾が見える気がする。気のせいかな。というか、結希さんは犬属性じゃなかった気がするんだけれど?
ともかく、引き受けたからには頑張らないと!
それから、私と結希さんは2人で服を見て歩く。ひとまず似合いそうな服をいくつか選んで試着をしてみることになった。
「あ、これ、カッコイイかも」
「りょーかいー」
ポンポンといくつか服を選び、それから試着室へと向かう。
1着目。普通のTシャツにスキニのパンツ。普通の服なのに、結希さんが着ると何故か輝いて見える。
「どう?」
「それ、素敵……」
思わずそう呟くと、
「ほんと!じゃあこれ、買おっと」
え、即決ですか!?私の意見だけで決めていいの!?
その後も、私が「それいい」と言ったものは、
「これもー」
「んじゃ、それもー」
「これもカッコイイ?じゃあこれも買っちゃおー」
「これ?よーし、おっけー」
「これか!いいね!!」
そんな感じでどんどん服をカゴへと放り込んで行く結希さん。そんなに買うの!?
一言で言うと、驚きし通しのショッピングだった。
いや、私が似合うって言わなきゃいいんだけれど、どの服も本当に似合っていて、似合わないって言葉が出てこなかった。「どう?」って聞かれたら流れるように「似合います」って言わざるをえなかったんだ。
たくさんの袋を両手に持つ結希さん。えへへとこちらに笑いかけて、
「いい買い物したー!ありがとね!陽葵さん!!」
と言った。ちょいと買いすぎな気もするが、本人が喜んでいるならいいか……。
そんなことを思っていると、
「あ、ねぇ、ここ行かない?」
周りの視線に気付かぬ天然、それが蒼羽 結希という男。
そして、反対に向けたらニコニコ顔に見える看板とは……←作者の適当感が滲み出ている
次回の投稿は【9月22日8時】です。
よろしくお願いしますー。