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15話. 雨猫、柔らかい気持ちを抱く

 起きるともうすっかり太陽が頂点近くまで上っていた。借り物である布団の横に置いてあったスマホで時間を確認すると11時を回っていた。というよりは12時に近い。


 あー、朝ごはん、僕の担当なのに寝過ごしちゃったよー。そう思い、ふぅとちいさくため息を吐く。ぐっすり眠ってしまった……。申し訳ない……。謝らなきゃだ。


 うーん、と大きく伸びをしてから起き上がる。パジャマ代わりにしているTシャツとスェットを脱ぎ、服に着替える。


 ちなみにこれらの服は撮影やら何やらで使わせてもらった衣装類である。僕の事情を知ったスタッフさん達が渡してくれた。それを有難く使わせて貰っている。


 買いに行かなきゃなー、服。ちょうど給料、入ったし。


 それから、扉を開けて出ていき、リビングに繋がる扉を開けると、ちょうどソファに座ってテレビを見ている陽葵さんが見えた。


 テレビ内ではちょうど『Colors』のニューシングルのMVが流れていた。コウがウィンクをするところがアップで映し出されている。


 それをじっと見つめる陽葵さん。


……何だろう……心がモヤッとした。


 どう形容していいか分からないけれど、そう、何となく心の中に煙が舞い込んで来たような……。


「陽葵さんは……コウが好きなの?」


 気がついたら言葉が漏れていた。その声に驚いたように振り返る陽葵さん。


「あ、おはよう、結希さん!……あ、『Colors』?私じゃなくて、私の同僚がファンなんだよねぇー」


 その言葉を聞いて、なぜだかホッとした。どうしてだろう。


 それから、陽葵さんはポンと手を叩いて、


「あ、朝ごはんいる?もう昼食の時間だけれど……」


 と言った。


 あ!そうだった!


「ごめん、朝ごはん、僕だったのに……」


 申し訳ない。眠りこけてました……。僕が謝ると、陽葵さんは首を横に振った。


「いや、大丈夫よー。お仕事、大変だったんでしょ?」


「ごめん、ありがとう」


 僕が言うと、陽葵さんはこくんと頷いてから、


「それで、お腹は?」


と再度聞いてくれる。


「そう言えばめっちゃお腹空いてる……」


「りょーかい!ちょっと待っててねー」


 手でグーサインをしてから、パタパタとキッチンへかけていく陽葵さん。


 なんかこういうの……


「いいなぁ……」


まるで……


「…ん?なんか言った?」


 どうやら、声に出ていたらしく、聞き返される。


「ううん。ただ、なんかね、こういうの……いいなぁって……」


「こういうの?」


 お鍋を温めながら尋ねる陽葵さん。そして温めているその間に冷蔵庫から鮭を取り出し、フライパンへと入れる。その様子を見ながら、しみじみと、


「起きてきたら、「ご飯いる?」みたいな……」


と言うと、陽葵さんは少し悩むような素振りを見せたあと、


「ふーん、そういうものなのか……じゃあ、毎回言ってもいいよー?」


「んー、なんか、そういうことじゃないような……」


 うん、まあ、嬉しいのは嬉しいけれどね。


 焼き鮭のいい匂いが漂ってくる。そして、ご飯の匂いも。


「じゃあどういうこと?」


 クエスチョンマークを沢山頭に乗せて尋ねる陽葵さん。その瞳はこちらをじっと凝視している。そんなに無垢そうな声音で尋ねないで……。


 慌てて視線を反らす。


「………な、何でもない……」


 言えるわけないじゃないか……その言葉がいいと思ったんじゃなくて、このやり取りがまるで恋人みたいだなって思った……なんて。


 それがどこかこそばゆいような、温かいような気持ちを抱かせた……なんて。


 それを嬉しく思った……なんて。



 ★


「いただきます!」

「いただきます!」


 2人の声が響く。向かいに座った陽葵さんは味噌汁とご飯を目の前に置いている。どうやら昼ごはんをそれにすることにしたらしかった。


 それでいいの?と聞いたらいいの!と返ってきた。朝昼同じメニューでいいのかな……本人がいいならいいけれど……。


「あ、シャケ、塩濃いかも。ゴメンね」と言われたが、そんなにめっちゃ濃いと思いはしなかった。


 もぐもぐと朝ごはん兼昼ごはんを食べながらふと先程の朝のことを思い出す。


「あのね!午後から服とか必要なものを買いに行きたいなって思っているんだけれど……」


 そう切り出すと、陽葵さんははっと大きく目を見開く。


「そうだ!服のこととか忘れてた!ごめん!」


 陽葵さんがぺこりと謝るが、陽葵さんの謝ることではない。住ませて貰っているだけでも感謝しかないのに、そんなことまで面倒見てもらったら申し訳なさすぎる。しかも、部屋から布団から歯ブラシ、食器まで借りているのに。


 そう伝えると、


「部屋は同僚が泊まりに来る時に使ってもらってるし、布団もそうだから大丈夫だよ。歯ブラシや食器は余分に買っておいた分だし」


と事も無げに言われた。優しすぎる。陽葵さんはそう言ってからコテリと顔を傾ける。


「でも、服、この1週間、どうしてたの?」


「あー、会社の人に借りてた?」


 間違ってはいないはず。多分。正しくは事務所の人とか現場のスタッフさんとかだけれど。


「そうなんだ!優しい人もいるんだね!」


 いや、優しい人の筆頭は目の前にいる貴女ですけれども。


「うん、まあ……。でも、ずっと借りっぱなしはダメだなと思って……」


「なるほどです」


「それで、この辺、前住んでいた所からちょいと距離あるから……」


 お店、教えてくれたりなんかしたら……と思っていると、陽葵さんは納得したように頷き、


「あ!お店ね!いいよ、一緒に行こ!オススメする!」


と言った。


 え、一緒に来てくれるの!?いいの!?と思わず驚く。その勢いでお箸置いたからかカチンと音がなってしまった。


 陽葵さんはゴクリと味噌汁を一口飲んでから、頷く。


「うん、どうせ暇だし」


「ありがとう!!」


「ううん、ぜんぜーん!」


 ふわりと笑う陽葵さん。有難くついてきてもらおう。


 それから、「あ、そうだ!」と思い出す。給料入ったからには、


「あ!これ、食費と家賃ね!」


 封筒に入ったお金を渡す。約束したからね。それに、ヒモ男にはなりたくないし。すると、


「え!?大丈夫ですよ!」


 と驚く。


「いいから!僕、お世話になりっぱなしは嫌なの」


 だから、ね?と言うと、陽葵さんは、おずおずと封筒を受け取り、


「あ、ありがとう。じゃあ……わたくし、結月 陽葵は、預かったこのお金をちゃんと食費と家賃に使わせていただきます」


と少々恭しく封筒に額を付けて言った。その姿に思わず笑ってしまう。口の中、何も入ってなくて良かった、と心底思った。


「何その大げさ感!」


「だってー」


「一緒に住んでいるんだから、これは当たり前だよ?」


 そう、正当の権利だからね。こういうのは、情とか何とかで流しちゃいけないんだよ。お金関係の問題は人間関係を壊す1番の原因だから。壊したくない縁ほどしっかりしなきゃいけないと僕は思うんだ。


 それから、ご飯を美味しく頂いてから着替えをし、ショッピングに行く準備をする。


「じゃあ、行こ!」


 陽葵さんが言うから、僕は額に手をかざし、


「案内頼みました!陽葵隊長!」


 と言うと、陽葵さんは真剣な顔を作って


「了解!結希隊員!!」


 それから、2人、どちらからともなく吹き出す。


「何ごっこ?」


 陽葵さんの問いにうーんと考える。


「なんだろう?冒険隊?」


「なるほど!今日は結希隊員がショッピングモールを探検するの巻!だね」


「だね」


 よし、そんなこんなで、ショッピングモールを探検に出発だ!!

またもやご飯シーン……食べてばっかだな苦笑

次回はなんと!ご飯シーンじゃありません!!(多分)


次回の投稿は【9月21日8時】です!!

よろしくなのです(*´・ч・`*)


面白いなぁと思って頂けましたら、評価などをして下さると泣いて喜びます<(_ _)>

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