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13話.わたし、仕事に追われる

 来たる土曜日。私は予告通り、仕事に追われていた。机の上には積み重なった資料の山!山!山!パソコンには大量に開かれたウィンドウ。


 いつもはたくさんの社員がいて何かと騒がしい我が企画課の部屋だが、今日はみゆ、倉本、私の3人しかいないため、とても静かだ。ただ、カタカタというパソコンを打つ音だけが響く。


 まあ、時折


「あー、なんで消えるかな!!今、私、ここにペーストしたよね?!やり直し!?」


などという私の声が響いたりもしているが。私は機械音痴という訳では無いのだが、それほど得意ではない。表計算のソフトとかが難しい。それなりには出来るけれど。


 ちなみに、私の席から机の列を挟んで向かい側に座る倉本は涼しい顔でカタカタパソコンを打ち、どんどん仕事を終わらせていく。倉本は機械系が得意なのだ。


 その様子にちらりと一瞥くれてから私もパソコンに向かう。向かい側と言っても真向かいではなく、それなりに距離はあるので、多分こちらの視線には気づかないはず。


 まあ、昨日の残業の介あってか、資料まとめはもうすぐ終わる。あとは、何を作るか話し合って、企画するだけ。そして、企画書を提出と続く。


「ひまー、こっちの資料どうするー?」


 私がパソコンと格闘していると、みゆの声が聞こえた。通路を挟んで向かい側の席にいるみゆが、ローラー付きの椅子に座ったまま滑ってこちらへやってくる。


「市場調査か!あと、お客様アンケート?」


 手を止めてみゆの見せた資料を見る。その資料を読み取り、


「やっぱりこれが需要、高いよね?」


 と尋ねると、みゆも頷き、


「みたいー。みんな、どれがいいか悩んでるんだねぇー。今回はスキンケア関係でいく?」


 それもいいけれど、でも、


「あー、でも、今回は異例で、広告する人がもう決まってるんだよね?」


「うん、異例じゃないかな?」


 そうだ、もう決まっているのだ!まだ、何を販売するかも決まっていないのに!そんなことある!?ないよね?!


 そして、それは、私たちの仕事が早まった原因である。


「そういえば、結局広告の人、誰なんだろ?」


「あ、それ!!凄いのよ!!」


 私の問いにみゆが食い気味に言った。みゆが私の手をぎゅっと握る。それから、瞳をらんらんと輝かせて、


「なんと!!あの、『Colors』なのよ!!ほら、これみて!!販売促進の方から回ってきた資料よー!」


資料を私に渡した後も、


「ほんと、素敵だわー!会えるかな?見たいなぁ!本物!ライブとかでは見るけれど、近くで見たことないし!あ、でも、公私混同はダメか!いけないいけない!しっかりしなきゃ!!そして、みんなに似合う化粧品にしなきゃだわ!頑張るわよ!ひま!!あたし、今ならなんでも頑張れそうな気がするわ!」


と捲し立てるように言い切る。楽しそうで何よりだ。


「でも、なぜ先に決めたのかしら?」


「多分、全員となると、中々スケジュールに空きがないから、取れるとこに無理矢理入れたんだな?」


「別に違う人でもよかったんじゃ……?」


「何言ってるの、ひま!!『Colors』が関わった商品は何がなんでも売れるのよ!それくらい人気なんだから!!」


「はあ、なるほど。圧倒的集客力ってこと?」


「そうよ!!『Colors』の人望が目に見えてわかるわ〜」


 広告塔がよければ一時的には売れるかもしれないけれど、製品が良くなければ長く売れはしないけれどね。いい製品、作らなきゃ。そう思っていると、横から、


「新堂ー、結月ー、手、止めんなよ」


と倉本の声が聞こえた。倉本の言葉に私とみゆはハッと我に返る。


「あ、ごめん、ごめん」

「ごめんー」


 そして、みゆは一瞬時間が停止したように止まってから、首を傾けて、


「えっと、なんだっけ?」


「市場調査とお客様アンケートを見てた気がする」


「そうだった!これ、とりあえずひまに渡しておくね」


 そう言って市場調査の書類とお客様アンケートの書類を私に渡してから、自分の席へと戻った……と思ったらまたこちらにやってくる。


「何度もごめんー。ここ、どうだっけ?」


 パソコンの画面を指しながらそう言うので、私もみゆのパソコン画面を見る。


「あー、それ、関係者機関へのアンケートのとこにあったかなー?多分、資料室ー」


 そう答えると、みゆは「取ってくるー」と出ていこうとする。あー、確かその資料、分かりづらいところにあった気が……。


 そう思い、「その資料結構下の方にあったから取りづらいかもー。一緒に行く?」と聞くと「いや、大丈夫よー」と答え、パタパタと駆けて部屋を出ていった。


 みゆが出ていき、私と倉本のカタカタというパソコンの音が響く。そうして、数分後。


「ちょっと抜けるー」


 倉本が言った。その言葉に倉本の方を向くと、机の上の資料は綺麗に片付いており、自分に振り分けられた仕事が終わった事が伺える。


「りょーかい……」


 仕事が終わったのなら止めることはできないが……恨めしい。いや、恨んでも仕方ないのはわかっているけれど。私がパソコンを使いこなせていないのが原因だし。


 倉本はそう言うと、部屋から出ていく。うー、私も頑張らなきゃ。


 そう思い、仕事を先程より倍のペースで処理していると、


「うへひゃ!?」


 倉本が出て行ってから数分経った頃くらいだろうか、頬に冷たい何かか押し当てられた。思わず変な声を上げてしまう。


 そして、冷たい感触と共に聞こえてきたのは馬鹿にしたような、からかったような声。


「すげーブサイクな声」


 数分前に出て行った倉本である。パッそちらに向き直ると、私の頬に缶コーヒーを当てた倉本が立っていた。


「びっくりしたー……」


「こっちがびっくりするわ。何その色気の欠片もねぇー声」


 プククと笑う


「悪かったわね」


「悪かねぇよ、おもしれぇだけだから。ほら、やるよ」


 倉本はその缶コーヒーを手渡す。


「あ、ありがとう」


 言動はいつも通りだが、行動が意外過ぎて思わず驚いてしまいながらも、笑顔でコーヒーを受け取る。すると、倉本はうっと1度呻くような声をあげた後、ふいっと視線を逸らせる。


「……いや……別に」


 え、何、今日優しいじゃん。言い方厳しいけれど。そう思っていると、


「礼には及ばねぇよ。お前の変な声、聞けたからな」


とこちらを面白いものを見たと言わんばかりの顔をして見ながら言ったのだった。変ってなんだ!変って!!


 それから、「じゃあな」と手をひらりと振り、去ってく。


 有難くコーヒーを頂くことにし、カチリと缶のプルタブを開け、1口飲む。冷たくて、また、やる気が出てきた。よし、頑張ろう!と思ってパソコンに向き直る。仕事を始めようとしたが、


「あれ……書類、減ってる?」


 さっき数十枚あったのに、半分くらいに減っている。え?!


 でも、さっきまでここにいたの、倉本だけだよね。……も、もしかして?!


と思ってバッと隣を向くと、仕事を終えたはずの倉本がまた、カタカタとパソコンに向かっていた。思わず凝視してしまうと、それに気づいたらしい倉本がこちらを向く。そして、


「ばーか」


と口の動きだけで言ってきた。どうやら、私の仕事を手伝ってくれているらしい。


「あ、ありがとう……なのか?」


 バカって言われたのは不本意だけれど。


 優しいのか優しくないのかよく分からん。いや、多分、今までにないくらい史上最高に優しいんだと思う。……多分。

ツンツンなのにさりげなくカッコイイってめっちゃ良くないですか!?(個人の感想です)

どう思います?めっちゃいいと思うんですよ!(個人の感想です)



さて、次回の投稿は【9月19日8時】です。

よろしくですーーヾ(*´―`*)ノ

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