113話.雨猫、狼狽える
「これは確信じゃないし、証拠がまだしっかり出たわけじゃないんだ。誰にも言っちゃだめだよ」
アヤが次の言葉を放つ。その言葉に僕達は頷く。人払いをしているから、周りに誰もいないことは分かっているが、アヤは軽く視線を周りに向けて確認してから、小さな声でその名を言った。
「……月見里 悠悟」
月見里 悠悟は押しも押されぬ人気俳優だ。この前僕も「迷探偵Aの珍道中」というドラマで共演させてもらっている。気さくに話しかけて緊張を和らげてくれたり、演技の相談に乗ってくれたりととても優しくて素敵な先輩だ。
「……え」
僕の口から思わず声が漏れた。驚きと困惑、それが1番近い感情だと思う。
「あのね、僕、思ったんだ。僕も含めて芸能界から追い出された人達ね、数ヶ月前に月見里 悠悟と絶対共演してるの」
アヤが真剣な瞳のまま言う。でも、その瞳はやはり不安そうで少し揺らめいてみえた。
月見里 悠悟は有名俳優だから、どこにだって出ている気がする。そう思っていると、僕の思いを具現化するかのようにユカリが、遠慮がちに小さな声で言った。
「あの……月見里さんは人気だから、色んなドラマに出ていると思いますが……」
僕も同意するように頷き、コウは賛成も反対もせず様子を見るように首を少し傾けてじっとアヤを見ている。
「うん。僕も最初、どうしても彼とそれが結びつかないし、たまたまだったのかなって思っていたけれど、どうしても違和感があって。勘みたいな。だからね、マネージャーに調べてもらったんだ」
「私、アヤに言われて、調べたんだ。この子の勘は昔から当たるからね。そしたら、あの人が情報屋かもしれないってことに繋がった」
どこかの刑事ドラマみたいな展開に驚く。そんな単語、普段から聞くようなものじゃない。僕はぽかんとしたまま、美月さんの言葉を繰り返す。
「情報屋……?」
「そう。芸能界にいるから芸能情報を集めやすい。つまり、それらを集めて売ったり、依頼されて情報を集めたりしていると思うわ」
美月さんが言う。それから、美月さんは説明を続ける。月見里 悠悟の裏の顔だった。
よく受ける依頼は誰かの失脚を望むものが多い。依頼主はライバル会社であったり、上の退場を願う後輩だったり。
金髪にサングラスという全くイメージと違う人物になりきって、そのターゲットの情報を集め、真実と嘘を上手く織り交ぜて世間に伝える。匿名性っていうSNSの特徴をつかって、一気に噂を広める。
多分最初に取っ掛りをつくる批評家もグルか、もしくは月見里さん本人かもしれない。
「情報屋であると同時に”失脚屋”みたいな感じでもあると思うわ。まぁ、まだ調査の段階だし、決定的な証拠がある訳じゃないんだけどね」
そう言ってから、美月さんはふぅと大きなため息をついた。真実を知って驚く同時に、美月さんの情報網にも驚く。どうやってその情報を調べたんだろう。
「それは、秘密かな?まぁ、長年芸能界に関わっているし?敏腕マネージャーだし?そこそこ人脈はあるのよ」
ふふふと含み笑いをする美月さんに、この人は敵に回したら怖いな、と感じる。味方だったらとても心強いが、敵になったらそれこそ芸能界を追い出されそうだ。月見里さんみたいなことをせずともきっとさようならだ。
「きっと、今、あの人はアオくんの周りを調べてまわっているんだ」
アヤが言う。アヤの言葉に美月さんはこくりと頷く。
「依頼があったのか、そうでないのかは分からないけれどね。それで、陽葵さんにもいきついたんじゃないかしら」
それは、それは、次の標的に僕がなっているということだ。僕を誰かが引きずり下ろそうとしているということだ。そして、それはひいてはColorsにも迷惑をかけるということで。
僕が陽葵と一緒にいることで、その引きずり下ろすネタを相手側に提供しているってことでもある。よくある熱愛報道ってやつだ。そして、僕と陽葵が付き合っているのは事実で。
アヤの件やKotoha さんの件とは別物だ。否定も何も出来ない。だって、正真正銘事実しかないのだから。
いま、僕のせいでColorsは岐路に立たされているのだ。
「僕のせいで……みんなが……」




