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112話.雨猫、過去を聞く

練習後、アヤに連れられて、僕達は会議室に集まった。その場にはマネージャーの朱宮美月さんもいた。その表情は暗くて、これから先に出てくる話があまり良くないものであることを知らせている。


「本当に言ってもいいのか……物凄く迷ったんだけどね、やっぱり伝えておくことにするね」


口火を切ったのは、その美月さんの隣に座るアヤだった。アヤは恐る恐るといったように言う。その表情は硬いままで、どこか緊張感が漂っている。


「今日ね、集まってもらったのは、さっきアオくんが言っていた男の人の事なんだ」


やっぱりその事だった。僕を含めてメンバーは神妙な顔で頷く。アヤは少し俯き加減で次の言葉を紡ぐ。その隣では美月さんがアヤの肩に手を置く。彼を安心させるような行動だ。


「でも、その前に僕のことを話させて欲しい。関係があるんだ。みんなはもう、僕が子役をやってた時のことを知っているかもしれないけれど」


それから、アヤは自分のことを詳しく話してくれた。


「3歳から「朱宮樹」の名前で俳優をやっていたこと。そのころはチヤホヤされるのが嬉しくて、「お仕事頑張ったね」って褒められるのが嬉しかった。仕事を続ける上で、「自分はずっとこの仕事をしていくんだ」と幼いながらに思っていた。


仕事を一生懸命頑張って、順風満帆な生活を送っていた。そんな中、6歳の時、ある評論家が自分のことを辛口にコメントしたのだった。そのこと自体は構わなかった。自分のダメなところとか甘いところが的確に書かれていて感心した程だったし、これから頑張っていこう!と思えた。自分は原来負けず嫌いのタチだったし、むしろこれからレベルアップの機会だと思っていた。


周りはそれを良しとしなかった。それに便乗するように周りが噂をし始めたのだ。SNSなどでさまざまなことを書かれた。でも、実害はなく、俳優なのだからそんなこともあると最初の頃はあまり気にしていなかった。


でも、黙った黙ったままなことをいいことに、それは酷くなった。書かれることのほとんどが嘘で塗り固められたもので、自分とは程遠いものばかりだった。


いじめもあった。間違った入り時間を教えられたり、全く違うスタジオを教えられたりしたことなど日常茶飯事。その他にもまぁ、衣装を隠されたり土砂降りの中外で待たされたりしたこともあったっけ。


他にもいろいろあったけれど、いちいち覚えていないや。


そして、6歳の僕にはそれが耐えられなかった。僕が通る度に話している周りの人が全部全部敵に見えた。多分全部がそうじゃなかったのだろうけれど、こちらを見る目が全部鋭くて、怖くて怖くて苦しかった。


そのとき有名になった周りの仲間の子役たちにも見放されていたように感じたし、それだけじゃなくて世界が僕を見捨てたんだと思っていた。


だから、僕は1度芸能界を休止しているんだ。『Colors』になる前は僕は廃人みたいだったと思う」


それが、アヤが話したことの概要だった。うつむき加減のまま話すアヤの声は途切れ途切れで、苦しそうだ。それは、当時の彼の苦しい思いなのだと思った。


何となくの概要は知っていた。なにか苦しい思いをしたであろうことも、1度アヤが芸能界を休止していたことも知っていた。でも、本人から語られるそれはその知っていた事実より何倍も重く苦しい。痛々しくさえ見える。


アヤの隣にいる美月さんがアヤのことをギュッと抱きしめた。


「大丈夫だよ、姉ちゃん」


美月さんの手をポンポンと優しく数回叩いてからパッと顔を上げたアヤに苦しみの表情はもうなかった。


「それでね、この前まで忘れていたけれど、アオくんに言われて思い出したんだ。その金髪の男、多分、僕も小さい頃に見たことがあるんだよね」


アヤによればその金髪の男を見たのは、アヤがそうやって批評される随分前のことらしい。数回程度しか見た事がなかったし、期間もあいていたから、直接批評やいじめの件とその金髪の男を結びつけることは今までなかったが、今回僕の話を聞いて、ひょっとしたらなにか関係があるんじゃないかと思ったとの事。


「だから、マネージャーにちょっと調べてもらったんだ」


「あれ、さっきは姉ちゃんって呼んでくれたのに〜」


アヤの言葉に美月さんがブーっと文句を垂れる。真剣な話題を少しぶち壊しているように見えないこともないが、空気を和ませてくれているととれなくもない。当のアヤはその姉の言葉は華麗にスルーをして話を続ける。


「証拠がある訳じゃないし、言ってみれば僕の勘みたいな所があるから、関係が無ければそれでいいと思った」


「でも、私の調べによると、今世間を騒がせている俳優のKotohaさんの件も同じ批評家が絡んでいたし、少し前に金髪の男をみたという証言もあったんだよね」


美月さんが先程と打って変わって真剣な眼差しでそう言った。机を肘をついて手を組み、額にその手を当てている。雰囲気がコロコロ変わりすぎてついていけない。


「陽葵さんが見た金髪の男とアヤがみた金髪の男、そしてさっきの俳優がみた金髪の男が同一人物かと君は疑ったってわけだね」


今まで黙ったままだったコウが声を発した。落ち着いたコウの声は聞いただけでどこか安心する。


「そう」


アヤがこくりと頷き、それからまた少し躊躇うように目線を下にさげる。でもそれは一瞬だけで、すぐに顔を上げる。「話すのだ」といった決意が視線にうつってみえた。


「……それから、その金髪の男についても予測はついているんだ」


「……え?」


アヤの言葉に僕たち3人の声が重なった。

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