111話.雨猫、問いかける
陽葵とゲームをした次の次の日。今日も練習のためにスタジオに向かう。
「おはよー、みんな!」
僕がそう言うと、練習スタジオに先に来ていたメンバーが口々に挨拶を返してくれる。コウもユカリもアヤも、もう着いていたようだ。
「アオくん遅くない!?ギリギリじゃん!」
もう練習着に着替えているアヤがプクッと頬を膨らませて言った。可愛く見えてしまうが、本人は至って真剣に怒っているようだ。
「ごめん!」
慌てて謝る。遅刻こそしていないものの、寝坊をしてしまったのは事実だ。
「まあまあ、遅刻はしていないんだから、そんなにカリカリしないで」
僕が謝ると、コウがアヤを窘める。コウに言われるが、アヤはまだプスプスと怒っている。それから、ビシッと僕の方を指し、言い放つ。
「早く着替えてくること!1分でも遅刻したら許さないんだから!!」
「はい!」
ビシッと手を額にあてて、敬礼ポーズをとると、サッと着替えを済ませて練習スタジオまで戻った。ライブまであと一週間。行動に差はあるかもしれないが、想いは同じ。みんなに楽しんで貰いたいってだけだ。
★
「そーだ、みんなは芸能界で金髪の人は見たことある?」
ダンスの合間、休憩時間に僕が問いかけると、メンバーはなんだなんだ?と近寄って話を聞いてくれる。僕の問いに1番初めに反応したのはユカリだった。
「金髪と言えばコウくんは金髪ですが……」
ちらりと隣に立っているコウをみてユカリが言う。僕が最初に言ったのとあまりにも同じで少し笑ってしまう。やっぱりColorsにとって、黄色金髪と言えばコウなんだな。
コウはそれを聞いて自分を指さしながら首を傾けた。声を出さずに「俺?」と言う。表情は驚いたような不思議そうな顔だ。
「わざわざ聞くって事は、コウくんじゃないんでしょ?」
アヤが尋ねる。僕はうんと頷いてみせる。
それから、この前の陽葵のことを相談してみた。芸能人っぽい人、なお確証はないけれど、に見られたような気がすることと、みゆきさんも一緒にいたことなど。
「金髪だけで判断するのは難しいのではないでしょうか……」
ユカリが遠慮気味に言った。コウも眉を下げてすこし困ったような顔を見せ、頷いている。
「金髪の人はいっぱいいるだろうしね。それに芸能界も広いからね」
そうだよね。それだけの情報じゃ難しいよね。そもそも本当に芸能人かどうかも分からないし。でもあの陽葵の様子が気にかかる。杞憂だといいけれど。
僕も含めた3人は心当たりがなく、うーんと悩んでいるだけだったが、1人だけ反応が違う人がいた。先程から一言も話していないアヤである。アヤはなにかに悩むように顎の辺りに左手を置き、少しうつむき加減で下の方を見ている。なにか思案しているように見える。
そのアヤは少し悩んだあと、バッと顔を上げた。その表情はどこか自信なさげでいつものアヤらしくない。言うのを躊躇っているのか、目を左右に動かしてから、少し時間を置いたあと、口を開いた。
「……ねぇ、その人ってさ、アクセサリーをいっぱいつけていなかった?あと、サングラスを掛けている」
アヤのその言葉に僕は目を見開く。だって、その情報、陽葵はそんなようなことを言っていたが、みんなにはまだ言っていなかったはず。
「え、なんで知ってるの?」
「やっぱり……」
アヤがどこか物憂げな顔でそういった。心配になって、コウがアヤの肩に手を置いて尋ねる。
「何か気になることでもあるのかな?」
「ちょっと……でもね、確証というか、詳しいことはまだ分からないんだ。だけど、聞いてくれる?」
迷うように瞳を暫し巡らせてから、意を決したようにすっと顔を上げる。その表情は練習前までのいつもの可愛らしい様子ではなく、目はまっすぐこちらを見ている。真剣な眼差しがこちらを射抜く。
その視線に、心に影が落ち、雨雲が広がるように覆っていく。これから何を話されるのか、どうなるのか、少し不安になった。




