107話.わたし、心配させる
「あー、また負けた!!」
電話越しに残念そうな声が響く。ゆうくんの声である。予定通りゲームをしている。1対1で戦うゲームをしているのだが、先程から私は連勝している。
ビデオ通話にしている画面を覗くと、ゆうくんは悔しそうな顔をしている。
「だって、私、ゲーム、好きだもん。前にも言ったかもだけれど……」
何を隠そう、私の趣味はゲームとパズルと読書である。殊にゲームは1度手に入れると極限までやり尽くさなければ気が済まない。全てをクリアした上でさらにいい方法や効率の良い方法を探し出すのがとても好きだ。見つけ出した時の嬉しさはものすごい。
「うん、見ていて充分わかった。そして、僕はゲーム、弱いです」
ゆうくんの苦笑したような声が聞こえてくる。少し残念そうだ。私とて初心者に本気で行くほど子どもではない。始める前にどのくらいですればいいか聞いたはずだ。でも、その時に容赦なしでって言ったのはゆうくんの方である。
「本気でしてって言ったの、ゆうくんでしょ?」
「うん、わかってるよ。それにたとえ相手にならなくても陽葵と一緒にできたの、楽しいし嬉しい。でも、負けたのは悔しいからもっと練習する!」
ゆうくんは右の拳をぎゅっと握り、ふんすっと意気込んでいる。人気アイドルに練習の時間が取れるのかどうかは謎だが。
「こうなったら、グループのみんなも巻き込もうかな!」
大丈夫なのだろうか。みんな忙しそうだけど。芸能人だし、仕事がいっぱいあるだろうし。華やかな世界だが大変な世界であると思う。実際に私が見たわけじゃないから、推測だけれど。
芸能人か。そう言えばこの前の金髪の人も芸能人だったりしないだろうか?どこか光るような何かを持っていたとは思う、多分だけれど。
芸能人のことであれば、その中に身を置いている人に聞く方が早い。そう思って、目の前で「どうやってみんなを誘おうかな」と何やら思案しているゆうくんに尋ねる。
「グループといえばさ、ゆうくんには金髪の知り合いはいる?」
「うん?金髪といえばうちのグループで言えばコウだと思うけれど?」
ゆうくんはそう答えた。優しい笑顔でメンバーの名前を紡ぐゆうくんに、本当に仲間を大切にしているんだろうことが伺える。
確かに、Colorsのコウくんは金髪長髪だったな。みゆの推しである。でも、この前の人は彼ではなかった。もっと短髪だったし、そもそも推しならみゆが間違うはずがないだろう。
「コウくんじゃない人かな。この前、ランチの時、金髪の人と遭遇したの。まぁ、一般人でも金髪の人はいるけれど、オーラが芸能人っぽくてさ」
「うーん?わからないなぁ。でも、陽葵の人センサーは結構有能だから、僕の知り合いじゃないだけかもしれない。芸能界も広いからね」
「そうなんだ」
それもそうか、芸能界みんながみんな知り合いとは限らないよね。それに、情報も少ないし私の勘だから正しいかもわからない。サングラスをした、ネックレスをいっぱい付けた男。変装なのかとしれないし。
「でも、どうして?」
「うん、それがね、その金髪の人にじっと見られたの。気のせいかもしれないんだけどね。それに、何かされたわけじゃないし、単に気になっただけだから」
私が見られた、と言った時、ゆうくんは心配そうに眉をひそめた。私は慌てて左右の手を横に振る。特に何をされたわけでもない。
「それならいいけど。何かあったら言うんだよ?」
「うん、分かった。ありがとう」
「本当に言ってね?」
「わかってるって。それより、もう一戦しない?このゲーム久しぶりにするから、血が騒ぐ!」
「なんの血?」
「ゲーマー??」
先程のことが気になっているだろうけれど、私が話を変えるとそれ以上は聞いてこなかった。それでも、眉がまだ下がったままだ。無駄に心配させちゃったかも。ごめん。




