104話.りす、お願いする
りすはアヤさんのことです。
リハーサルが終わった後、打ち合わせがあった。そこにマネージャーがいたので、その打ち合わせ前、少し話すために僕、アヤは彼女を呼び出すことにした。
さっきの月見里悠悟さんの件、少し気になったのだ。単なる勘でしかないし、証拠は何も無い。でも、僕のこの勘は人一倍当たる自信がある。根拠はないけれど。
打ち合わせの準備のためか書類をトントンと整えているマネージャーを見つけ、声をかける。
「マネージャー!」
「あら、お疲れ!リハ、終わったようね」
声をかけると、ニコッと笑うマネージャー。そのマネージャーを部屋の端へといざなうようにちょいちょいと呼び寄せると、持っていた書類の束を棚の上に置いてから、不思議そうな顔をして寄ってきた。
「ん?どした?」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「ほう、お願い?」
僕のそばにやってきたマネージャーにそう言うと、マネージャーは眉を寄せて、訝しげな顔をした。
「うん。月見里 悠悟についてちょっと調べてほしいんだ」
「あぁ、あの人気俳優の。どうして?」
僕が少し悩んでからそう言うと、マネージャーはさらに訝しげな顔を深める。首が横に傾いている。クエスチョンマークが頭の上に散乱しているようにすら見える。
ここから話すのは僕のなんとなくの、勘。確証があるわけじゃない。でも、長い間ちょっと気になっていたこと。
「確信している証拠があるわけじゃないけれど、スキャンダルとかの事件が起こる時、彼が一緒にいることが多い気がするから……」
「確かに一度スキャンダルというか、批評被害にあったあんたの勘は期待できると思うけれど。でも、相手はあの大物俳優よ?」
僕の批評被害というのは、今から8年前、僕が9歳の頃のことだ。3歳の頃子役でデビューしてから、9歳まで俳優をやっていた。だが、9歳のあるドラマに出演してから、批判批評が殺到し、心が疲弊した僕は一度芸能界を去ることにした。
演技が下手だ、配役にあっていないなどの評価は別に気にしなかった。自分がもっと頑張ればいいと思っていたから。
でも、人格を否定され、人として否定されて、9歳の僕は耐えられなかったんだ。
そんな僕の勘。きっと当たっているはず。月見里 悠悟は何かを隠している。そして、きっとそれは、『Colors』を脅かす何かだ。
「うん……」
僕が頷くと、マネージャーは腕を組み、神妙な顔をしたまま考え込む。敏腕マネージャーと名高い彼女なら調べてくれるはず。ただ、同業者の有名人を相手取るのは危ない橋を渡ることではある。
どういう反応が帰ってくるかわからず、少し怖い気持ちで待っていると、予想に反してマネージャーは声の調子を上げて明るく言い放った。
「んー、仕方ない。可愛く「お願いします、大事な大事なお姉様」って言ってくれたら動いてあげないこともないかなぁ」
そのあっけらかんとした言い方に、毒気を抜かれてしまう。だが、言われた内容に眉を顰める。くねくねと少し身体をくねらせて言ったそれは、僕の真似だろうか。
いくら実の姉だとしても、今は仕事中なわけで。お姉様なんて、公私混同ではないだろうか。
「今は仕事中!公私混同!!」
「ん〜?仕事なら、いつもの小悪魔かわいい系でいけるじゃん」
僕の言葉に、マネージャーは面白そうに眉を上げて返す。
「う……家族にやるのは何か違うの!」
それはそうだし、アイドルの時はなんだろう、スイッチが入ってるから!僕とマネージャーが家族で、相手が実の姉ならば、これはだいぶ恥ずかしい。
「そちらこそ、公私混同〜。いいー?アイドルマシマシでするのよ?」
確かに、言われてみればそうなような気がしてきた。ニヤニヤとこちらを見やるマネージャー改めねぇさんは、今か今かと僕の言葉を待っている。
姉に口では勝てない、知っていた。
それなら、もう史上最強小悪魔アイドルと言われる僕の渾身のお願いボイスを聞かせてやろうじゃないか。
「……お願いします、大事な大事なおねぇさま!!」
「お姉様、大好き!はいどーぞ」
「え?」
「りぴーと あふたー みー?お姉様、大好き!」
呆気にとられる僕に、マネージャーはうふふん、と笑いながら言った。なにこれ、姉バカ?ブラコン?もうこうなったら、なんでもやってやろうじゃないか!
「……おねぇさまっ!大好きだよぉー」
「まぁ、それでよし。最近仕事でしか会わないし、全然構ってくれないからおねぇちゃん、寂しかったんだよねぇ」
「ソウナンデスネ」
「とりあえず、わかった。月見里悠悟さんね」
僕にも羞恥心くらいはあるんだ!恥ずかしいんだけど。朱宮 美月め!
Colorsのマネージャーの朱宮 美月は、アヤ(朱宮 樹)の実のお姉ちゃんです。
アヤさんの過去についてはまたどこかで話にしようと思っています。Colorsの過去編を別の物語として書くつもりでいるのでそこで明らかになるはずです。




