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10話.わたし、感謝する のち 狼狽える

 課長との話を終え、仕事場へと戻ってくると、みゆが苦笑しながら近づいてくる。きっと、私が盛大に眉をひそめているからであろう。


「どうだった?」


「それが、課長に会った瞬間、申し訳程度に声下げて、「ごめん、ごめん!資料、家に持って帰るの持って帰るの許可するから……。あ、もちろん、社外秘とプライバシー関係はダメだけど」よ!そんなのほとんど持って帰れないわよ!おかげで残業+休日出勤よ!」


 怒りのまま、課長に言われた言葉をそっくりみゆに伝えると、みゆは、小さくため息を吐いてから、優しく笑う。


「休日出勤は明日?」


「うん」


 私が頷くと、みゆは私の肩をポンポンと叩いた。そして、


「りょーかい」


 その言葉の意味を一瞬理解出来ず、みゆの方を無言のまま見やる。じっとみると、みゆは「ん?」と首を少しだけ傾けて言った。脳がゆっくり回転して、答えに行き着く。


「みゆも来てくれるの!?」


 私がみゆの手をぎゅっとつかんで言うと、みゆはふふと小さく笑う。


「そりゃね。1人に任せられないでしょ。道連れてあげるよ。あんたも来るよね、倉本」


 みゆがイケメンだ。その時私は猛烈にそう思った。それと同時に、みゆさん、新しい言葉作ってない?とも思ったが。


 話を振られた倉本は一瞬面食らった顔をしたが、こちらから視線をそらし、ボソリと、


「……しゃーなしな」


「ありがとうーー!!持つべきものは素敵な同僚だぁぁ!!」


 さっき、卑怯者って思ってごめん!の思いも込めつつ、みゆにぎゅっと抱きつく。みゆがトントンと私の背を叩いてくれるのを感じていると、呆れたような声音が降ってくる。


「あんたって、見た目はか弱き乙女って感じなのに、中身は全然よねー」


「悪かったわね、見た目と中身が伴ってなくて!」


 どうせ私は見掛け倒しですよぅ!とむくれると、


「まあ、あたしはそういうところ、結構好きだけどね」


 みゆ、やっぱりお主はイケメンだ!!私はこの時、みゆに惚れた……!


「私、みゆに惚れたわー」


「そんなこと言ってないで、ほら、仕事する!」


「はーい。あ、結希さんに連絡しておかなきゃ」


 今日の夕食の当番、結希さんだもの。遅くなるのに作って貰ったり待ってもらったりしたら申し訳ない。そう思いつつSNSアプリで今日は残業で遅くなること、夕食は待たなくていいこと、そしてごめんなさいと書いて送っていると、


「おー、さながら恋人じゃん」


と覗き込まれる。


「ち、違うわよ!夕食、1日交代で当番制なの」


 バッと思わずスマホを隠しながら言うと、ニヤニヤとした目で見られた。


「ふーん」


 恋人……ねぇ。結希さんが……?と考えて慌てて首をふる。あんなキラキラな人が私の恋人とか、


「あんな綺麗な人が恋人とか、恐れ多すぎるもの」


 もったいないよ、私には。もったいないお化けでるよ。


 それにしても、みゆはどうしても私と結希さんをくっつけたいのか?!


 ★


 残業してある程度仕事を終わらせると、その日は解散になった。また、明日続きをする予定だ。


 もうすっかり日も落ちて、たくさんの街灯が照らす街を歩く。夜なのに赤々とした光が照らしていて、人々はまだまだ眠らないようだ。この街は本当に眠らない街だと思う。


 そんな騒がしい街並みから少し歩くと、閑散とした住宅街へとたどり着く。さっきとは打って変わって静かだ。


 静かな中にある自分の家に入り、手洗いうがいをした後、リビングルームへ入ると、電気はついたままだった。仕事で夜遅くに出ていくこともある結希さんだが、仕事が無い日は早く眠ることも多い。まだ眠っていないのだろうか、と不思議に思いつつも電気がついたままのキッチン兼リビングルームに入る。


「……あ……」


 すると、テーブルに伏せている結希さんが見えた。近づくとスースーと寝息が聞こえる。眠っているらしい。


 琥珀色の瞳は伏せられ、長いまつ毛がそのまわりを彩る。目を閉じているからか、いつもより幾分か幼く見える。そして、日焼けを知らないような白い肌。美しすぎる横顔。


 思わず、ドキッとした。心臓がはねた。なんて綺麗なんだろうと思った。吸い込まれるような、この世のものとは思えないような美しさ。胸がきゅと掴まれるように苦しくなる。


って、何!?なんで、私、こんなにドキドキしているの!?と思考を中断して、慌ててブンブンと首を振る。何考えてんの、私。


 あ、あれだわ!みゆが変なこと言うから!!意識しちゃうじゃない!!


 若干八つ当たりのような言い訳をしてから、どうしようか、と悩む。このままの体勢、つまり椅子に座って寝たままだと、季節柄、風邪をひくということはないと思うが、身体が痛くなってしまうだろう。


 そう思って起こそうか迷っていると、


「……ん……」


 小さく声が聞こえる。どうやらこの間に起きてしまったらしい。


「あ、結希さん!」


 結希さんは、ぼーっとしたままムクリと上半身を起き上がらせる。


「お、おはようございます?」


 私は、なんと声をかけていいか分からず、何とも場違いな言葉を発した。すると、私に気づいたらしい結希さんは、こちらをみる。


 そして、近づいてくる顔。見つめられる瞳。


 え、なんで?


 まだしっかり覚醒していないのか微睡んだような琥珀色が近づいてくる。吸い込まれそうなほど澄んだ瞳。


 え、なんか近くない!?


 やっぱりみゆが変なことを言ったせいだぁぁ!!

次回の投稿は【9月16日8時】です!

よろしくお願いします<(_ _)>



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