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100話.雨猫、いたたまれない

陽葵とデートに行った次の日から、僕は父と話をした。父はどうやらお仕事は当分ないらしく話し合いがいっぱいできた。


後から聞いた話では僕たちが来るからわざわざ休みにしたんだとか。来るのが楽しみだったんだと少し照れながら話してくれた。あの厳格な父が少し頬を染めていて意外すぎて驚いた。


話し合いは、最初は緊張したけれど、お父様の不器用さはノアさんから聞いたので、ちゃんと、聞こうと思った。


僕の気持ち、寂しかったことや辛かったこと、嫌だと感じたことも全部全部お父様にぶつけた。最初は失礼になるし、傷つけるかもって思ったけれど、父にはこれくらいしないと伝わらないと気づいたし、父もそれを望んでいたみたいだから。


父は僕の気持ちに寄り添ってくれた。すまなかったと謝るべきところは謝ってくれた。


その分父の気持ちも聞いた。僕やお母様のことがとても大切だということ、それと同時に心配であること、僕とどう接していいかわからず言葉や手紙があんな風になってしまっていることなど。


それから、ノアさんからあれはちょっと言い方がきついし、気持ちが伝わっていないと怒られたことも教えてくれた。


僕も謝るところはしっかり謝った。誤解していた部分も多いから。


お互い言葉に詰まったり、上手に言えないこともあったけれど、ちゃんとお互いの言葉と気持ちが相手にちゃんと伝わるように何度も確認しながら話し合いをした。


その分時間もかかったけれど、自分たち親子はこれでいいのかもしれないと思った。


それから、陽葵の話もした。実は僕が愛する女性を見つけてきたことはとても嬉しかったらしい。でも、その子のことをよく知らなかったから知りたいと思っていたらしい。


全然伝わっていなかったよ。むしろ反対されたと思っていた。


「愛する人が出来るのは幸せな事だ」


そう、父がなんとも言えない慈愛に満ちたような表情で言っていたのが印象的だ。お母様とのことを思い出しているのかもしれない。本当に優しげな表情で、お母様のことをとても大好きなのだろう。


今は絶縁状態だけど、お母様とお父様の仲もどうにかならないかな、少しと思った。


そして、話し合いの後、陽葵のことをちゃんと紹介することになった。


「私は、どう接すればいい?どうしたら怖がられないんだ……」


その話をした後、お父様がそう言って頭を抱えていた。そもそも初手であの対応なんだから、第一印象はあまりいいとは言えないかもしれない。陽葵はそんな風に人を判断する人ではないけれど。


「……怖い顔をやめて貰えればいいかなと」


「こうか?」


「それ笑顔のつもり……?もっと、その柔らかさを!」


僕のアドバイスにお父様は笑顔を見せる。だが、硬いし逆に怖い。不自然だし。目が笑っていない、というのはいういう笑顔を言うのだろうか。


「こうか?」


お父様は僕の言葉にむむむっと声を上げ、それから、一際口角を上げて、目を細くした。でも、わざとらしく、そしてまだ硬い。


「まだ硬い!仕事の時どうしてるの!?」


「それは社交スイッチが入っているんだ」


しょぼんと肩を落とす父。その後、僕による笑顔講座が必然的に始まった。だいぶ手強かったことをここに記しておきたい。



イギリスでの最後の夜。僕たち3人の晩餐会が開かれた。食事の部屋にある大きなテーブル。縦にずっと長く、部屋の真ん中に置かれている。小さい頃はここで食べたこともあっただろう。父と食事をともにするのは何年ぶりだろう。


陽葵は映画の中みたい!とはしゃいでいた。楽しそうで何よりだ。


中央の席に父、その父の右側に僕、左側に陽葵が座った。席に座って料理を待つ。すると、急に陽葵が慌て始めた。キョロキョロと目線が忙しない。


「どうしたの?」


「ごめんなさい、私、テーブルマナー……わからないかも……」


しゅんとする陽葵。確かに難しいと思うかもしれない。すると、中央に座っていたお父様が口を開いた。


「……大丈夫だ。美味しく食べるのが1番だからな」


こういったことに寛大な人らしい。とはいえ、一応困るかなと思って、カラトリーを使う順番だけは伝えておく。


「ありがとう、ゆうくん」


「大丈夫、不安だったら、なんでも聞いて!」


そう伝えた。自由に食べろと言われても気になるだろうし。大丈夫だと言われても間違っているとか知らないとかの状態は不安だと思うし。


その後、食事自体は和やかに進んだ。適度に話をし、食事を食べる。


特に盛り上がったのは、大変不満ではあるし、いたたまれないが、僕の小さい頃の話だった。普段無口な父が饒舌に話していて驚くと共に、自らの過去を暴露されるのは些か気恥しい。


「小さい頃の結希は今より引っ込み思案だったな。恥ずかしがり屋とでも言おうか。初対面の相手の前ではよく柱の影などに隠れておったな」


「ゆうくんの小さい頃の話を聞きたいです」という陽葵の言葉に、お父様がふうむと思い出すように悩んでからそう言った。


「そうなんですか〜!今とは印象が違います」


陽葵の目がキラキラしている。すると、お父様はまたうむと悩み始めた。


変なこと言わないでよ!変なことはダメだよ!恥ずかしいから!!!と心の中で戦々恐々としていると、お父様は口を開いた。


「あとは、そうだな。勉強はそんなに得意ではなかったな。私は小学一年生の時のことしか分からないが、テストなどは点数が悪すぎてよく隠していたな。庭に埋めていたこともあったかな」


「そ、それは!恥ずかしから言わないで!!」


「ははは!もっと色々な話があるぞ」


僕が叫ぶが、お父様は今までに無いくらい楽しそうに笑いながら言う。僕の言葉は無視らしい。陽葵もさらに目を輝かせている。


「聞きたいです!」


大変いたたまれない気持ちになった食事会であった。

記念すべき100話!

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

これで4章は終了になります。

数話、番外編を挟んでから5章(最終章の予定です)へと移ります。

よろしくお願いします。


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