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99話.わたし、破壊力

夕暮れが街を染める。異国の夕暮れは日本とはまた違った美しさがある気がする。日本の夕暮れも好きだけれどね。そんな夕陽を背に、ゆうくんと私は家へと向かう。


家に入ると、ノアさんが待ってくれていた。ゆっくりと頭を下げられる。


「おかえりなさいませ」


「ただいま!」


ノアさんの声に、ゆうくんと私も頭を下げつつ言った。ノアさんはニコニコと微笑みながら私たちの返事を聞き、それからススッと近寄ってくる。


「旦那様ですが、それはもう真摯になさっており、大変面白く……ごほん、失礼致しました、大変感銘を受けました」


真摯になさる、というのはあのぬいぐるみの相手のことだろうか。本当に、話す練習をなさっているということか。


ノアさんはどうにも笑いをこらえているらしい。平静を装っているが肩が震えている。それに、本音が少し出てしまっている。だって一瞬、「面白い」って言いかけたよ、この人。


言い終わったあとも肩を震わせたままいる。相当面白かったらしい。どこかいたたまれない気持ちになる。ゆうくんのお父さん、ごめんなさい。私が提案したばっかりに……。そして、真剣になさるお父さん、健気なのかおちゃめなのか。


「お父様っておちゃめな方なんだね」


私の思考とそのままの言葉が聞こえる。思ってはいたが言ってないので、私ではないぞ?そう思っていると、ついで横からクスッと笑う声が聞こえた。声の主はゆうくんだったらしい。


ノアさんは優雅にほっほっと笑ってから、


「1度見ていただきたいくらいです」


と言った。


ちょっと、いや、だいぶ興味がある。そう思う気持ちが視線にでていたのだろう、ノアさんはちょいちょいとゆうくんと私を呼び寄せる。それから、静かな足取りで進んでいく。ゆうくんと私もその後ろについてゆっくりと歩いていく。


「こちら、旦那様のお仕事場、つまり執務室でございます。おふたりはこちらから見ていてくださいませ」


そう言うと、コンコンとノックをし、それから部屋の扉を開けた。それから、中へ入っていく。彼は扉を閉めたが、完全に締め切らず、私たちが見えるように少しだけ隙間を開けておいてくれる。


中の様子を覗くと、ゆうくんのお父さんのと目の前にぬいぐるみが見えた。本当に練習しているらしい。


中に入ったノアさんと少し話をしたあと、お父さんは、先程までもそうしていたのだろう、猫に向かって話しかけ始めた。それも真剣に。


「結希……その、ディナーでもどうだろうか」


などとぬいぐるみに言ってから、時折ノアさんの方を向き、「どうだろうか?」と問いかけている。


勝手に覗くのは失礼だとは思うが、それでも先程のお父さんとは違う雰囲気を見れてちょっと安心する。きっと、彼はいい人なんだろう。


「……………」


ゆうくんの方を見ると、ゆうくんは黙ったままお父さんの方をじっと見ていた。


ふとノアさんを見ると、ノアさんはお父さんに気づかれないようにこちらに向けてウインクを1つ。それから、優しく微笑んだ。


この人はきっと、本当にゆうくんとゆうくんのお父さんの仲直りを願っているんだなと、思った。



その次の日から、ゆうくんはお父さんの部屋へと向かうようになった。


この旅行は元々移動時間も含めて5日間の予定だったので、お父さんを待ってゆっくりとしている暇はないと思ったらしく、ゆうくんがお父さんの方に突撃していったわけだ。


何を話しているのかまでは聞かない。だって、お父さんとゆうくんの2人で解決するべき問題で部外者である私が入ったらややこしくなる。落ち着いたらゆうくんが教えてくれるかもしれないけれど。その時は寄り添って話に耳を傾けようと思う。


そう思っていた、イギリスに居れる最終日、私はゆうくんに呼ばれた。ゆうくんはお父さんのところに一緒に来て欲しいと言った。ゆうくんの表情は穏やかなので、話し合いは上手くいったらしい。


「来てくれてありがとう。結月陽葵さんだね。ちゃんとした挨拶が遅れてすまない。私は結希の父、アイザック・トーマスだ。よろしく頼む」


ゆうくんのお父さんは部屋に入るなり、そう、優しく挨拶をしてくれた。笑顔は幾分か硬いが、最初の日よりずいぶんと声音が優しい。練習の成果かもしれない。


「結月陽葵です。よろしくお願いします」


「遠いところまで来ていただいているのに、最初の日は困らせてしまったね。すまなかった」


ぺこりと頭を下げると、ゆうくんのお父さんは少しきまり悪そうに微笑んだ。その表情が何となくゆうくんと似ていて、親子なんだなと思う。


そんな、私の隣に立つゆうくんはお父さんに向かってぷんぷんという顔をしている。どうやら、初日の対応にはゆうくんにも思うところがあるらしい。


だが、反対に言えばゆうくんはこんなに気持ちを表情に出せるくらいにお父さんに気を許し始めているということでもあるが。


私はブンブンと顔の前で両手を振って否定する。


「いえ、全然!!」


「結希とまたこうやって話せているのは、あなたのおかげでもあると思う。ありがとう」


ゆうくんのお父さんは優しく微笑んでそう言った。イケおじが笑顔になると破壊力が増すことが分かった。なんだ、この破壊力。可愛いが大人っぽくて、どこか色気さえ感じる。すごいな。


「私は何も!」


「ううん、こうやって話せているのは間違いなく陽葵のおかげだよ!ありがとう!!」


今度はゆうくんがそう言った。こちらもニコニコと笑っている。こっちもこっちで破壊力が凄い。イケメン親子の破壊力やいかに。


「これも、ありがとう」


ゆうくんのお父さんはそう言ってあの猫のぬいぐるみを私に渡してくれる。どうやら私から貸したと伝わっているらしい。バカにしているのかと怒られなくて本当によかった。


ひと安心していると、


「それで、なんだが、結希と陽葵さん、その、ディナーでもどうだろうか」


イケおじが少し恥じらうような表情を浮かべつつそう言った。あの、練習していたセリフである。


イケおじの破壊力!!

イギリス編(第4章)はあと1話で終わりの予定です。

その次は数話番外編を挟んで、5章に向かいます。

読んでくださってありがとうございます。

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