98話.わたし、観光する
お腹がいっぱいになったので、観光をすることになった。ロンドンは街自体が物語の中みたいに綺麗な街だからどこへ行っても観光っぽいなぁ、なんて思いながら街を歩く。
「せっかくだからビックベンに行きたいな」
イギリスといえばビックベンでしょう!あの大きな時計塔を見てみたい!!内部ツアーは予約が必要みたいだけれど、外からでも見たい!
「そうだね!近くに行ってみよ!」
ゆうくんがにっこり笑ってそう言う。私は頷き、繋がったままの手をゆっくりと揺らした。
たどり着いたビックベンは下から見るととても大きく見えた。もちろん遠くから見ても大きいのだが、下から見るとその大きさと重厚感に圧倒される。その横を流れるテムズ川もゆっくりと流れていて時間の流れがゆったりと感じられる。
眺めていると、カシャッと音が横から聞こえてきた。
「え!?」
「ごめん、思わず。あまりにも素敵な横顔だったから」
驚いて音の方に振り返ると、ゆうくんがスマホをこちらに向けているのが見えた。ゆうくんは私の驚きの声に、スマホを下ろすと、少し照れたようなバツの悪そうな顔をこちらに向けた。
「ううん、大丈夫!ちょっと驚いただけ」
でも、少し照れくさくはある。変な顔、してないかな。ゆうくんが贔屓目があるにきても素敵って言ってくれたから、大丈夫かな。いや、でも、だいぶ彼氏の彼女に対するフィルターってやつがかかっていると思う。
「ちょっと気になるな。うぉっほん、見せたまえ」
「消しちゃ、やだからね」
私の言葉に、ゆうくん渋々と言ったふうにスマホをこちらに寄こした。いや、へんな顔だったら、即消すよ、当たり前。
「あ、意外と大丈夫だ」
そこに写っていたのは、川を眺める横顔。風がサーっと髪を揺らし、その表情には優しげな笑顔が乗っている。
ゆうくんの言った通り、へんな顔はしていなかった。それどころか、自分で言うのもなんだがとても可愛く撮れている。実物より可愛いかもしれない。
ゆうくんの写真の腕かな。人は撮り方によっては可愛くなるんだな、うん。これは、私ではなくゆうくんの写真の腕が賞賛に値する。
「だから、可愛いって言ったでしょー」
そう面と向かって言われると恥ずかしいものがある。何となく顔を見られるのさえ恥ずかしくなって、左手でススッと自らの顔を隠しつつ、右手でスマホを返す。
「これなら、許そう」
「なぜ顔を隠しているの?」
「だって、これ、詐欺だよ。実物より可愛くない?大丈夫?」
「そんなことないよー、実物の方が可愛い」
ゆうくんはキラキラとしたスマイルをこちらに向けた。ああ、墓穴を掘っただけのような気がする。ゆるやかなパンチ攻撃をしたらカウンターを2回くらったみたいな。
何を言ってるんだって?大丈夫、私にもわからん。
でも、とりあえず、いたたまれない気持ちが込み上げてきたのだ。
よし、話を変えよう。
「1人の写真じゃ寂しいから一緒に写真撮ろ!」
「もちろん!ビックベンを背景に撮るならもうちょっと遠ざかった方がいいよね」
そう言ってゆうくんは私の手を優しく取ってくれ、引っ張ってくれる。それからゆうくんは私を引き寄せるようにしてスマホを掲げる。
「はい、撮るよー!はいチーズ!!」
その写真はさっきの笑顔なんかよりもきっと、何倍も素敵な顔をしていたに違いない。
☆
その後は、電車で30分の聖地ハムステッド・ヒースという丘に行くことになった。ピクニックなどによく使われている、高台だ。
草原がひろがっており、ロンドンの街並みが一望できる。美しい景色が広がっていた。その芝生に私とゆうくんは並んで座る。
「わー、きれい!」
他にもぽつりぽつりと芝生で休んでいる人もいた。
「小さい頃、お父様と来たんだ。昔の記憶だからあまり覚えていないけれど、来てみてここだってわかった」
「じゃあ、ゆうくんの思い出の場所?」
そう聞くと、ゆうくんは「一応ね」と頬をかきながら言った。それから、ゆうくんは前を向いて、少しだけ沈黙した。
きっとこれからのことを考えているんだろう。その綺麗な横顔の内はきっと葛藤がまわっている。私もそのまま何も言わずに隣に座っていた。
すこしして、ゆうくんが声を上げた。明るい声だった。
「陽葵、ありがとうね。陽葵のおかげで今、僕、毎日が楽しいよ。多分これから父とたくさん話すことになると思う。でも、僕、なんか大丈夫な気がしてきた」
「こちらこそ、ありがとう。きっとゆうくんは大丈夫だよ」
「うん、大丈夫!」
ゆうくんはそう言ってニコッと笑った。
あけましておめでとうございます。
連載し始めて3度目くらいの新年です。
仕事の方もございまして、あまり更新できておりませんが、それでも、読んでくださっている方には多大なる感謝を申し上げます。いつもありがとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。




