9話.わたし、怒る
「で、どうなのよ?」
同居が始まって数日経ったある日、会社の昼休み。今日も私とみゆは食堂でお昼ご飯を食べていた。ちなみに、みゆは鯖の味噌煮定食、私は唐揚げ定食を食べている。さらに言うなれば、ここの食堂のイチオシは日替わり定食である。2人とも頼んでないけれど。
「何が?」
みゆの言葉に、唐揚げ定食に付いているポテトサラダをお箸で1口分口に運んでから、顔を上げる。すると、みゆは満面の笑みを浮かべて、少し顔をこちらに近づける。そして、人差し指をピンっと立てると、「決まってるじゃない!」と言った。
なんの事だが分からないのでそちらをとりあえずじっと見返すと、キラリとみゆが瞳を輝かせた。
「イケメン猫との生活よ」
ああ、結希さんのことか。でも、なんでそんなにキラキラした瞳をしているの?そう思い、尋ねると、「心配しても仕方ないから楽しむことに決めたのよ」と返ってきた。何を?と思いながらもあまり聞き返すのも良くないと思い、
「特に、何も? 和気あいあいとはしているけれど」
みゆの問いに答える。 あれから数日経つが特に何も無い。結希さんは、親しみやすく優しい性格の人で笑顔が素敵な人だってことはわかったけれど。あとたまに無自覚にイケメン度を出してくる。
それから、お互い不便だろうとメールアドレスとSNSアプリと電話番号を交換した。
変わったことと言えば家事を2人で分担するようになったこと。わかったことと言えば、結希さんの出ていく時間が不定期であることくらいだ。
そういえば、結局なんの仕事か聞けずじまいだったな。専門職とは言っていたけれど。
多分聞かれたくないみたいだし、最近は聞かないことにしている。話したくなった時に話してくれればいいだろう。悪い人ではなさそうだから、犯罪者とかじゃなさそうだし。
ホストか何かかな?と想像はしている。かっこいいし。
私の言葉を聞いた途端、「ちぇっ、つまんないなぁ」と言った。何がよ。
「あんたほんとに……。男と女がひとつ屋根の下で暮らしてんのよ?……ほら、あってもおかしくないでしょう??」
「だから、何が?」
何があんのよ?ただ家を貸しているだけじゃないの。頭にクエスチョンマークをそりゃもう沢山浮かべているであろう私に、はぁあと大きな息を吐くみゆ。
「はぁ、その様子じゃ当分なさそうね。まぁ、いっか。ほんと、あんたってピュアの塊ね」
「そーかなー?」
「そーよ!普通何も起こらないなんてないでしょ!あんたに魅力がないのか、猫が意気地無しなのか……」
「みゆさん、君は一体何を期待してるんだい?」
「男女が2人集まったら恋でしょ!恋!!」
「は?恋?ないない!!ないよ!!」
「このチビに恋とかねぇーだろー」
と声が聞こえた。声の方を振り返るとすぐ横に、また倉本の姿。今しがた食堂に入ってきたらしい倉本はそのままスタスタと私たちの方に歩いてきて、私の頭に手を置きながらそう言ったのであった。
なに、この人、私とみゆが話していたら邪魔する趣味でもあるの?趣味悪くない?
「まあ、貰い手がなかったら?俺が貰ってやってもいいぜ?」
おどけた顔をしてそう言う倉本。
「誰が!あんたなんか!」
私が眉をつりあげ、口をへの字にして憤っていると小さな声でみゆが呟く。呆れたような声音だ。
「……倉本は素直じゃないよねぇー」
「新堂!」
それに慌てた言葉を返す倉本。倉本が素直じゃないって?なら、もうちょっとその人をからかう態度、やめてもらっていいかな?十分素直だと思うけれど?
倉本がギロりとみゆを睨むと、みゆは肩を竦めて、
「はいはーい。何でもないよー」
「あ、そうだ、結月」
「なに?」
倉本の思い出したような言葉に思わず眉をひそめた。悪い予感を感じる。そして、大抵こういった予感は当たる。
「課長が早く次の企画、出せってさー」
次の企画?ああ、新しい化粧品の企画か……。新商品を作りたいからいい案出して欲しいって課長に言われたんだっけ?企画を任されたからちょっと嬉しかったのを覚えている。
でも……。
「え、あれって来月までじゃなかったっけ?確か第2週?」
そうだ、来月までだったはずだ。スケジュール帳を取り出し、慌てて確認する。いつでもメモできるように昼食中でもスケジュール帳及びメモ帳は肌身離さず持っている。
スケジュール帳を開くと、締切日にグルグルと赤丸がつけてある。やはり来月だ。スケジュール帳の印自体が間違っているという可能性もあるが、何度もスケジュールを確認したから間違いない。
「それが、なんか大きな仕事になりそうだから早めて欲しいってさ」
「いつまで?」
「あー、来週?確か月曜日までって」
「ええ!?なんでまたいきなり!?」
その言葉に思わず大きな声を上げてしまう。来週!?何言ってんの!?が本音である。しかも、今日は金曜日。実質1週間もない。ってか、月曜日までなら、土日入れてもあと3日くらいじゃ?
それまでに下調べをして企画を作る。
どんな需要があってどんな物が売れているのかの市場調査を参照して、何を作るか決めて、ターゲットはどの年代にするか、それに合わせて一応の値段の予定、売上の想定もしておいた方がいいよね……。他にもあるよね……多分。
調べることが山積みだ。
市場調査は他の商品でもしているからまだ大丈夫だとしても、他は今からだ!!
来週までなのと来月までなのでは、もちろんだが全然違う。私の質問に答えて、倉本は頬を掻きつつ、
「あー、今度の商品のイメージキャラクター?っての?とりあえず、広告起用する相手が多忙だからってさ」
まだ何作るかも決めてないのに、広告相手、決めてるの!?おかしくない!?広告相手が誰かも参照しなきゃ!!
「なにそれ、ふざけてるの!?こっちはほかの仕事もあるのよ!?」
「俺に言うなよ」
それもそうか。
上の決定は絶対だし、こっちはそれに応えないといけないのは決定事項だ。はああと大きなため息をつくと、スケジュール帳に訂正を入れるべく赤字で来週にグルグルと丸をつける。
「ひま、ドンマイ」
向かいに座るみゆが少し立ち上がって、スケジュール帳に向かっている私の肩をポンと叩く。
「みゆ冷たいー。ってか、みゆ達も今度の仕事、メンバーでしょう!!」
そうだ、道連れだぁー。道連れぇぇぇ!!そう思いつつ、スケジュール帳から顔を上げ、みゆと倉本をじとーっと見つめると、みゆは満面の笑顔になって、
「でも、あたしたちは企画じゃないし?リーダーじゃないし?」
逃げる気か、卑怯者ーー!!確かに企画は私の仕事だけどおおおお!!
はあとまたため息をひとつつき、それから食べかけであった唐揚げ定食を美味しさを味わう暇もなくかき込む。せっかく美味しい昼食なのに。
慌ててかき込んで飲み込んで、お茶を飲んでから、食器を持って立ち上がる。
「とりあえず、課長のところ、行ってくる!!」
課長、覚えておけよ!食べ物の恨みは怖いんだから!!
この時の私の足音は食堂中に響き渡るくらいうるさかったに違いない。
化粧品の企画光景については、調べてはみましたがくわしくないので、間違っているかもしれません……。間違っていたら教えてくださいo(_ _)o
それから、物語の都合上、商品開発前に広告する人が決まっているという話になっていますが、これは多分異例です。実際はないと思います。
次回の投稿は【9月15日8時】です!
よろしくお願いします!!




