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94話.ある執事、語る

「結希様、結月様、どうされましたか」


結希様のことを嬉しそうに話す旦那様をあしらい、取り乱す旦那様を何とか宥めすかし、部屋に戻ると、コンコンとノックが聞こえました。開けてみると、結希様とその愛するお方である結月様のお姿がございました。


「ノアさん、お話、いいかな?」


結希様がそう問いかけます。少し涙を流されたのか、彼の目元は赤くなっていました。ですが、その中心にある瞳は真剣。どこか力強く真っ直ぐこちらを見ていらっしゃいます。


お話というのは、旦那様のことでしょうね。旦那様はあのような感じでしたが、結希様は向き合うことに決められたのですね。それも、きっと結月様のおかげかもしれません。


「かしこまりました。どうぞ中へお入りください」


私は頷き、おふたりを部屋へとお通ししました。おふたりは私の後ろに続いて部屋に入り、勧められるまま部屋の真ん中にあるソファへと座りました。


「今、お茶をご用意致しますね」


私と息子はここにほとんど住み込みのような形でで働かせて頂いているので、それぞれ部屋が与えられています。そこには小さいながらもキッチンがあって、お茶がいれられるようになっているのです。


きっと、長いお話になるでしょうから、温かいお茶とお茶菓子は必要ですね。そう思い、そのキッチンで紅茶を3ついれて、クッキーをお茶菓子として持っていきました。


3人がソファに座ると、結希様は緊張した面持ちで言葉を切り出しました。


「僕にお父様のことを教えてほしいんだ」


と。




これは、私から見た旦那様です。ですので、実際のところわからないこともございます。これが全てではありません。そして、話を聞いて結希様がどう判断されるかはご自由でございます。


旦那様は黙っていらっしゃるととても厳かそうに見えるお方ですが、内面はとても純粋で子どものようなお方です。そして、少々親バカでございます。


結希様のことはよく褒めていらして、さすがは私の息子だと仰っていました。海外でお仕事をなされることが多い方ですので中々会えないことを悲しんでおられました。


ですが、一方であまり会えないので接し方がわからないとも悩んでおられました。普通の親子としてどう接するべきかと問われたことは数え切れません。


毎日お写真をみてため息をつかれていらっしゃるのですよ、あの旦那様が。


そんな風に日本と母国を行き来していたある時、海外での長期ツアーが決まりました。旦那様はおひとりでも演奏なさいますが、音楽団にも所属されております。


その所属される音楽団が世界中をまわって約2年間コンサートをすることになったのでございます。従ってどちらの家にも帰ることができなくなってしまわれたのでございます。結希様が6歳になられた頃のことでございました。


私も付き人として一生に行かせていただきましたが、ツアーは順調に進んでおりました。奥様とはお会いできておりませんでしたが、手紙やメールのやり取りをしていらっしゃいました。


ですが、ツアーが始まって少し経ってから、連絡がパタリと途絶えました。結希様がピアノで賞をとられたというお話を聞いたのが最後の連絡になったと伺っております。それ以降なんの音沙汰もなく、こちらからの連絡にもお返事がないと嘆いておられました。


「その頃、お母様は……」


そうです、指に怪我をされ、ヴァイオリンをお弾きになれなくなったのでございます。旦那様はとても心配なされて、私の方に何度も「帰りたい」「会いたい」と仰っておられました。ですが、お仕事の都合上帰ることは叶いませんでした。旦那様は全てを投げ打ってお帰りになるつもりでしたが、当時の団長さんにどうしてもと言われて、大変恩のあるお方でしたので、叶わなかったのでございます。


その後、ツアーを終え、日本におかえりになられた時、奥様から「金輪際この家に入らないで」と拒絶を受けました。奥様は憔悴しておられました。旦那様は「大変な時に一緒にいられなかったのだから、当然だ」と仰っていました。


奥様は結希様と会うことも認めないと仰られました。最後と言われたのが、凛様とのおひき合わせのパーティでございます。奥様は凛様との結婚を強く望んでいらっしゃいましたので、許可されたと伺っております。


「凛と初めて会った日。婚約者だって伝えられた日だね」


はい、そうでございます。「久しぶりに見た結希は大人になっていて少し頼もしかったと」仰っておられました。ですが、どこか元気がないのが気になるとも仰っておいででした。


「父がそんなことを……」


それ以降、イギリスへとお帰りになられ、今に至ります。お会い出来ないと分かっていても、それでも日本にある本邸の方に奥様や結希様宛のお手紙を何度か送っておりましたがお返事が来たことはございません。


あの時仕事を投げ打って帰っていればと後悔をされておいでです。


そんな日々が続く中、結希様からのお手紙がありました。アイドルを目指すという内容のお手紙です。


「僕が家を飛び出した時に出した手紙、届いていたんだ」


はい、大層お喜びになられておいででした。その後インターネットなどで結希様のご活躍を見るのを楽しみにしていらっしゃいました。


結希様が芸能界に所属され、住所を移されてからもお手紙を送ってらっしゃいました。ですが、もしかすると、手紙の内容が先程の旦那様のような態度であったのかもしれない、と少し危惧しております。


私が言うと贔屓目のようになってしまうかもしれません。ですが、これだけは旦那様に代わって言わせてください。


旦那様は大変不器用な方ではありますが、とてもあなたを愛してらっしゃると思います。奥様のことも。

不器用パパですね、ゆうくんパパは……。


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