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93話.わたし、一緒に確認する

「わからない……」


ゆうくんは少し目を左右に揺らし、さまよってから、困ったような顔をして言った。その声はやはりか細い。そうだよね。自分と父の関係をどうしたいかなんて、そんなにすぐに決められるものじゃないよね。


「そっか。なら、一緒に確認していこう」


1人で悩むよりは手助けできると思うんだ。きっと、雀の涙にも満たないくらいの手助けだけれど。


私の言葉に、ゆうくんは目を見開いて驚いた顔をする。それから、少し首を横に傾けた。彼の膝に置かれた猫のぬいぐるみもその弾みでか少し首を傾けたようになっていてシンクロしている。ちょっと面白い。


「一緒に?」


「うん。2人で整理するの」


そう言うと、私はテーブルに置いてあった紙とペンを引っ張ってくる。気持ちの整理をするのに使うのだ。


「答えたくないことは答えなくていいよ。自分の中で答えが出ればいいから。私はその手伝いをするだけ。辛くなったらやめてもいい。ゆうくんは思うままいればいいの」


私が今からすることは、パンドラの箱を開ける気もするから慎重にしなければならないと思う。辛くなったらやめてもいいし、話さなくていい、そういう逃げ道が必要かなと思う。そういう気持ちを伝えたくて言うと、ゆうくんはすこし安心したように微笑んだ。


「わかった。ありがとう」


「ううん、全然。まずは、お父さんへの感情を整理しよう」


「うん、わかった」


私が言うと、ゆうくんはこくんと頷いた。やっぱり感情があって行動があると思うから。


「幼い頃のゆうくんのお父さんはどんな風だったか聞いてもいい?」


そう言うと、ゆうくんは面食らった素振りを見せてから、少し悩んだ。


「え、幼い頃!?えっと……多分、優しい人だよ。無口だけど、優しい笑顔を浮かべていた、気がする。音楽をよく一緒に奏でていたと思う」


「そっか、そっか。2人で音楽をしていたんだね」


「ううん、2人じゃないよ。僕はピアノでお父さんはフルート、それから……お母さんは……ヴァイオリン。よく3人で弾いていたよ」


「そうなんだね。じゃあ、お父さんがいなくなった時はどう思った?」


「仕事でいなくなることはけっこうあったから、初めはなんとも思わなかった。……寂しいとは思っていたかもしれないけれど」


「お父さんが海外にいるのは幼い頃のゆうくんにとっては普通のことだったのかな」


「うん、多分そう。仕事だから仕方ないって思ってた」


そういう感じでお父さんへの感情を軸に聞いていった。お父さんがいなくなった時、手紙の時、今現在の気持ちと順番に。ゆうくんの話を広げつつ、拾いつつ、聞き役に徹した。聞く時はゆうくんの思いが尊重されるように、決めつけないように務めた。


ところどころゆうくんが詰まる場面もあったけれど、焦らずゆっくり待ったし、言いたくなさそうなことは聞かなかった。


すると、少しの沈黙の後、ポツリとゆうくんが言った。


「ねぇ……あのね、僕、お父さんに僕のこと知らないくせにって言ったけれど、僕もお父さんが僕と離れていた時のこと、全然知らない。知ろうとしなかったのかもしれない」


「そっか、そう思うんだね」


相槌を打つと、ゆうくんも頷いてから少し真剣な顔をした。少し俯いた状態からゆっくりと目線を上げると、私と目が合う。


「うん。だから、僕、お父さんのこと、知るべきだと思う。それから判断してもいいかもしれない」


それが、ゆうくんの気持ちなんだね。よかった、見つかって。


「じゃあ、詳しい人に聞きに行く?」


「詳しい人?」


ゆうくんがぽかんとした顔をする。そんなゆうくんにこくんと頷いてから、右手の人差し指をぴんと上に伸ばして立てる。


「うん、誰よりもお父さんのそばにいる人がいるじゃない」

人の話を聞くって難しいですよね……

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