表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/150

92話.わたし、思わぬ持ち物

「陽葵……」


「ゆうくん、大丈夫……じゃなさそうだね、どうしたの」


泣きそうな顔でこちらを見るゆうくんに、私はソファから立ち上がって彼の元へと駆け寄る。


どうしたの、なんて愚問だったかな。だって、さっきのこと、だよね、きっと。


「ごめん」


「なんで謝るの?とりあえず、こっちに来て」


ごめん、と一言謝ったっきり黙って下を向くゆうくんの手を引き、先程まで私が座っていたソファへと連れていく。ゆうくんは黙ったまま私の後をついてきて、されるがままにソファに座る。私もゆうくんの隣に座った。


どうしたのって聞いても多分ダメだ。さっきも何も言ってくれなかったし。ならば、


「私は、どうしたらいい?」


どうすればいい?

君が落ち着くにはどうしたらいい?

何をしてほしい?


そう聞くと、ゆうくんは無言のままガバリと私を抱きしめた。そのまま私の肩のあたりに顔を埋める。その抱きしめている手は震えていた。私からも彼のことを抱きしめた。包み込むように、彼が安心できるように。


お互い、無言のまま。でも、きっとお互いの気持ちは伝わっているはず。


少しの間抱きしめると、ゆうくんは身動ぎをして、私からも顔を上げた。それから、私の背に回していた腕を解いて、少し困惑している顔をした彼に、微笑む。すると、ゆうくんは更に自らの眉間に皺を寄せて、困ったような苦しいような顔を浮かべた。


「ごめんね、迷惑かけて。本当は1人でなんとか落ち着こうと思ったんだけど」


私に、迷惑をかけていると思ってるんだ。そんなこと、全然ないのに。


「なんで?心が苦しい時は誰かに甘えたっていいんだよ。苦しいって伝えていいんだよ。大切な人に頼られるのは嬉しいし、迷惑だなんて思わない」


そう言うと、ゆうくんは少し安心した顔をした。眉間の皺が緩む。


こうやって人に頼れるようになったんだね。前ならきっと何も言ってくれなかった。それだけ、信頼されているってことかな、なんて少し嬉しくなった。ゆうくんの気持ちを考えたらいけないことかもしれないけれど。


私はゆうくんが膝の上に置いている、その震える手に自らの手を重ねる。私がいるから、大丈夫。そう少しでも伝わったらいいな、思う。触れた手は少し冷たくなっていた。彼の手を温めるようにぎゅっと握る。


すると、彼はハッとしたように目を見開いてから、涙を耐えるように目を一瞬強く閉じた。でも、耐えきれなかったのか一筋涙がこぼれ落ちる。それが合図になったかのように、後からポロリポロリと涙が頬を伝う。


「泣いちゃって、ごめん。弱い人間でごめん」


「謝らなくていいよ」


大人になったらみんなみんな涙を我慢する。心の奥に押さえ込んで気持ちごとなかったことにする。弱みを見せないように気丈に振る舞う。でも、その気持ちはなくなったことにはならないから。心の底で溜まっているだけだから。


それじゃダメだって、凛さんとの件の時も思ったから。あの時は2人で泣いたけれど、どちらかだけが泣くのはダメ、なんてことはないと思う。


「私の前で泣いてくれてありがとう。悲しみを、苦しみを共有してくれてありがとう」


「こちらこそ、寄り添ってくれてありがとう」



彼が少し落ち着いたのを見計らって、私はタオルを取り出すべく、1度立ち上がり、自らのキャリーケースへと向かう。それから、ベットの近くにあったキャリーケースを倒し、開いた。


たしか、タオル、あったと思うんだけどな。


そう思いながら探していると、キャリーケースの中に驚くべきものを見つけた。


「え!?」


「なに?どうしたの?」


思わず声を上げると、それを聞いたゆうくんはばっとこちらを向いた。だが、キャリーケースを開けているのを知っているからこちらには来ない。ちゃんと、プライバシーを守ってくれるとこ、好きだよ。


私はキャリーケースの中からタオルと、その驚きの理由になったものを取り出し、ゆうくんのもとへと向かった。まだ何事かと思って少々訝しげな顔をしている彼にタオルを渡す。


「あ、ありがとう」


ゆうくんは驚いた顔のままタオルを受け取ると、自らの涙をそのタオルで拭った。


「ううん、全然。ね、これ見て!」


タオルで顔を拭ったゆうくんが顔を上げたとき、私はその驚きの理由になったそれをゆうくんの前に突き出した。亜麻色の毛で、目が琥珀色の子猫のぬいぐるみを。


いつの間に紛れ込んでいたのだろう。あの、射的でゆうくんが取ってくれたぬいぐるみだ。


「え、それって!」


「うん、あの射的のぬいぐるみ。なぜかわからないけれどキャリーケースに入っていた!」


「え!?」


涙を流していたのも忘れて呆気に取られた顔をするゆうくん。もう頬を伝う雫は乾いていた。


「なんで入ってたんだろう?入れたのかな??全然記憶にない……」


ぬいぐるみの手……いや前足をフリフリと動かしながらそう言う。だいぶ久しぶりに見たけれど、可愛いな、これ。あとやっぱりゆうくんに似ている。


私がそうしてぬいぐるみを揺らしていると、ゆうくんは嬉しそうに笑う。なんで入っていたかは全くわからないけれど、ゆうくんの笑顔の種になったから、いいや。結果オーライってやつかな。


ゆうくんはこちらに手を伸ばして、ぬいぐるみにそっと触れた。そんなゆうくんの方にぬいぐるみを渡す。膝の上に乗せるとまた、ゆうくんの笑みが零れた。


落ち着いたみたいで、良かった。ぬいぐるみ効果すごい。


「……僕、どうしたらいいかな」


ぬいぐるみを揺らしながら、こちらを見ずにゆうくんがポツリと問いかける。不安げな声音だった。


どうしたらいい……か。とても難しい問いだと思う。


でも、こういうのは、どうしたらいいか、じゃなくて、


「……ゆうくんは、どうしたい?」


どうしたいか、だと思うんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ