88話.わたし、対面する
ギーっと目の前で開いた門に驚きながらも中へ入る。自動で門が開くって凄いなぁ。感動しながらもゆうくんと一緒に御殿の方へと足を進めると、御殿の前に人影があった。
「I've been expecting you.」
(お待ちしておりました)
私たちが見えたのだろう、その人は、スッと胸の当たりに手をあて、洗礼された動作で頭を下げ、英語で挨拶をする。白髪を後ろに撫で付け、オールバックにしており、鼻の下には立派な髭。モノクルを掛けたその人はいかにも執事と言った出で立ちのナイスミドルだった。
「Long time no see.」
(久しぶりだね)
ゆうくんの口からも流暢な英語が飛び出した。発音もめっちゃ英語!そりゃ、お父さん、イギリスの方だもんね。
え、これ、私も英語で話す流れかな。英語は中学生とか高校生とかレベルだけど、大丈夫?と慌てつつ思っていたら、今度は流暢な日本語が聞こえてきた。
「そちらのお嬢様もようこそおいで下さいました」
「え!?」
「紹介が遅れたね。お父様の身の回りの世話をしてくれているノアさんだよ。母語は英語だけれど、日本語を含めていろんな国の言語を話せるんだ」
ノアさんと紹介されたその男性は柔和な笑顔を浮かべて一礼した。
「中へ案内致します」
御屋敷の中に入ると、まず目に飛び込んできたのは広い玄関ホール。大きな階段が中央にある。その階段も途中で二手にわかれていて、それぞれ二階へと繋がっている。屋敷は全体的に落ち着いた茶色の色合いでとてもオシャレだ。こんな物語の中みたいな御屋敷、本当にあるんだ。ゲームの中に入り込んだみたい。
ほーっと感心していると、ゆうくんとノアさんが歩き出すから、置いていかれる!と、私も慌てて後ろからついていった。
「お荷物をお預かり致しますね。先に本日から滞在頂くお部屋に運ばせていただきます。旦那様は応接室にいらっしゃいますので、ご案内させていただきますね」
「わかった、ありがとう」
ノアさんはそう言うとゆうくんの返事を待ち、それから私とゆうくんのスーツケースを受け取った。それを、いつの間にやら現れていたもう1人の男性の方に手渡す。後から聞いたところ、ノアさんの一人息子さんらしい。
スーツケースを預け、身軽になった私達はいよいよゆうくんパパとご対面である。思わずごくりと唾を飲み込む。生きて帰れるだろうか。
2つのスーツケースを軽々と持ったノアさんの息子さんを見送ると、ノアさんは「こちらへどうぞ」と廊下を渡り、奥へと進んでいく。どうやらそこに応接室があるらしい。ノアさんはひとつの部屋の前までくると、コンコンと部屋をノックする。
「Yuki and Ms. Yuzuki are here.」
(結希様と結月様がおみえです)
「Go ahead.」
(どうぞ)
そうノアさんが言うと、中からバリトンボイスが聞こえてきた。渋いかっこいい系の声である。ノアさんも低くてかっこいい声をしているが、それよりは少し高めの、でもどこかどっしりとした力強い声だ。
ノアさんが、スっと一礼するとドアの前から横にずれるように動く。ゆうくんはキュッと口を引き結ぶと、ドアノブに手をかけた。それから、ゆっくりと開ける。
部屋の中はポワンとした明るい、あたたかいようは光がついていた。床には複雑な柄の絨毯が敷かれ、その部屋の中央には茶色とクリーム色のソファが真ん中にあるテーブルを囲むようにいくつか並んでいる。
真ん中の席にはミルクティーを溶かしこんだような髪にはちみつ色の瞳の男性が座っていた。色味からしても、この方がゆうくんのお父さんだろう。
白いシャツにグレーのラフなズボンを合わせた服をきたその人は、落ち着いたバリトンボイスに合う、落ち着いた人だった。美中年という感じだ。今風にいうなら、イケおじ?
だが、こちらを見てもニコリとも笑わず無表情のお父さんは少し怖い。どこか冷たい視線に冷徹そうだ、という勝手なイメージを持ってしまう。
お父さんは表情を変えずにこちらを見ると、
「I've been expecting you, Yuki.」
(待っていたよ、結希)
そう言葉を落とした。
お父さんと結希くんの会話を英語で書いていますが、間違っていたらごめんなさい……。




