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87話. わたし、異国の地におりたつ

1歩飛行機を出ればそこは異世界のようだった。ざわめく声も、書かれている言葉も全て英語。日本とはまるで違う。


異国の地、イギリス。

わたしは、初めての地に緊張を隠せないでいた。


それに、これからゆうくんのお父さんに会う。私はちゃんと認めて貰えるだろうか。ゆうくんの相手として不足なしと言って貰えるだろうか。だって、凛さんの方が相応しいのは本当は、目に見えている。


そんなことを思いながら、街中を歩く。街中もレンガ造りの建物があちらこちらにあったり、石畳の建物があったりとどこか異国情緒が溢れている。


「陽葵、大丈夫?」


心配そうにこちらを見るゆうくんは慣れているのか、余裕そうに見える。


「うん、大丈夫。ちょっと緊張しているだけ」


「そっか。でも、緊張なら僕も負けないくらいしているよ」


「そうなの!?そうは見えないけれど」


少し笑いながら言うゆうくんに驚く。だって、とても平然として見える。


「あはは、それは役者様々だなぁ。父がコンサートをしている時はほとんどお留守番だし、イギリスにも小さい頃1回きたことあるかどうかくらいかな」


そっか、お母さんが事故に遭ってから、お父さんと離れて暮らすようになったと言っていた。ピアノ漬けになっていたから、会いに行くこともできなかったんだろう。


それに、なによりお父さんは言わば因縁の相手。顔を合わせづらい父に会うのだ、緊張しないわけない。それなのに、気を遣わせてしまっているかもしれない。


「ごめん、私、気を遣わせてる? 」


「ん?え、どうして?全然!!むしろ陽葵がいてくれるから落ち着いていられるかも」


それは、私が無駄にわちゃわちゃしているからでしょうか。自分より慌てている人がいたら、冷静になれるっていうあれですか。





少し歩くと、目の前に大きなお屋敷が現れた。映画とかで出てきそうな大きな柵がぐるりと周りを囲っており、その中は木々が生い茂っている。多くの種類の草木、花々があり、自然豊かだが、ひと目で整備されている事がわかる。


木々や花々は真ん中に通った小道に沿うように植えられており、そして、そんな小道の先の少し遠くにこれまた大きな御殿が鎮座している。この距離から見ても大きく見えるから、近づいたら相当大きいのではないだろうか。


こんな大きな家に住んでいるのですか、あなたのお父さんは。


そんなことを思いながら隣を見やると、ゆうくんは眉を八の字にしていた。スーツケースを持つ手が少し震えている。


そりゃ、怖いよね。誰だってトラウマに向き合うのは怖い。


私はゆうくんの手に自らの、スーツケースを持っていない方の手を重ねた。


「………陽葵」


「大丈夫。私がついてるから。絶対大丈夫」


なんの根拠もない。でも、力になりたかった。ひとりじゃないからって伝えたかった。


「ありがとう、陽葵。じゃあ、インターホン、押すね」


「うん」


私が頷くと、ゆうくんはインターホンへと手を伸ばした。少し間が開いて、インターホンから声が聞こえる。


「はい。……ようこそお越しくださいました。今開けます」


落ち着いた声音のインターホンの主がそう言うと、門がギーっと音を立てて開いた。ゆうくんが訪問する旨は伝えてあるので、特に向こうが慌てたり確認したりする様子はなかった。


「行こう」


ゆうくんがそう言い、2人で屋敷の中へと足を踏み入れた。


お父さんがどんな人なのかは知らないし、有名な音楽家だということくらいしか情報がないけれど、でも、向き合うって決めたから。


ゆうくんも覚悟してここに来ているのだから、私だって全力で向き合う。

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