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8話.わたし、不安に思う

 夕食を終えたあと、それぞれお風呂に入り、その後、再びリビングのテーブルで結希さんと向かいあって座る。朝はあまり話せなかったからこれからの事を今から話し合うことになったのだ。


「まず、何から話し合う?」


 結希さんの質問にうーんっと悩むように顎に手を当て首を傾ける。何がいいだろうか。そして、ひとつの答えに行き着く。


「改めて自己紹介?」


「え、今から!?」


「うん。朝あまり話せなかったしね」


 結希さんは少し驚いていたけれど、あまりお互いのことを知らないままに生活するのも……って思うし。ひまにもちゃんと聞いとけって言われたし。


「わかった」


 結希さんが頷いてくれたので、


「じゃあ……ええっと、私は、結月 陽葵。23歳。あと、なんだろう……?会社員をしてるよ。好きな食べ物は唐揚げで、嫌いな食べ物は特にないかなぁ」


と自己紹介した。自己紹介なんて久しぶりにしたからこんなのでいいのか大変心配である。好きな食べ物と嫌いな食べ物を自己紹介で言うのって子どもっぽいだろうか……?なんて言い終わってから思う。


「お!僕も唐揚げ好きー。美味しいよねぇー!」


 ほわほわって笑ってくれたからこんなのでよかったっぽい。


「じゃあ、僕も自己紹介するね。僕は蒼羽 結希。25歳。お仕事は………せ、専門職……?好きな食べ物は甘いもの!嫌いな食べ物は辛いもの!よろしくね!」


 なんか自己紹介しているだけなのに、無駄にキラキラしていた。最後の、「よろしくね!」でパチリとウインクしてましたが、なんかしなれている感じでしたもん。


 じーっと見ていると、


「なーに?」


とへにゃっとした柔らかい笑顔で見つめ返される。その瞳は包み込むような柔らかさで、思わず囚われそうになって慌てて視線を逸らせる。


「な、なんでもないです!」


「そう?」


「る、ルール決め、しましょう!」


「あ、うん、わかった」


 それから、2人でルール決めをした。


 まず、家事の分担。


 食事は、朝は私と結希さんが一日ごとに交代する、昼は各自、夜も私と結希さんが一日ごとに交代する、ということになった。だが、2人とも仕事の都合があったりするので、その時は前もって連絡すること、とした。


 ちなみにこの流れで、連絡先を交換した。緑色基調のSNSアプリと電話とメールという3種類とも。わー、こんなイケメンの連絡先手に入れるとか、多分これから一生かかってもないよ。


 他には、洗濯は各自ですること、掃除は私が主にするけれど、彼の部屋は自分でしてもらうことなどが決まった。ほかのルールは見つかり次第順に決めていくことにする。


 それから、家の中を紹介した。この家は、玄関を入ると、廊下があり、その左右に、お風呂などの水場、私の部屋、そして空き部屋が1つある。そして、そこから真っ直ぐに向かうと、このリビング兼キッチンに繋がっている。


 その空き部屋を結希さんに使ってもらうことにした。


 ちなみに、この部屋はみゆが泊まりにくるときに使っているので、布団やら家具やらは一応揃ってはいる。みゆの家より私の家の方が会社に近いからである。仕事に詰まった時とかに泊まりに来る。この前みゆが泊まりに来た後に、布団は洗ったし、掃除もしたから部屋は綺麗なはずだ。


 それから、歯ブラシなどの日用品は予備があったからそれを使ってもらうことにする。


 紹介し終わってから、リビングに戻り、


「改めてこれから、よろしく」


 私が言いつつ、手を前に出すと、


「こちらこそよろしくね」


 そう言って結希さんは私の手を握ってくれた。


 誰かと握手するなんて久しぶりだ。思わずふふふっと笑うと、結希さんは少し驚いた顔をしてから、ニコッと笑い、


「陽葵さんは笑顔が素敵だね」


と言った。ボンッと自らの顔が音を立てた気がする。実際はたててはいないが、爆発寸前みたく身体の血液という血液が顔に集まっている。もれなくイケメン効果発揮である。笑顔はさることながら、言動までイケメンとは罪作りな男だな。


「……結希さん。そーゆーの、あんまり言わない方がいいよ」


 とりあえず何も分かってなさそうな目の前ののほほんとした笑顔にビシッと言う。顔が真っ赤で迫力にかけるかもしれないけれど、そこは許してください。


「どういうの?」


 キョトンと、本当にその言葉が似合うほど目を見開き、首を傾ける結希さん。だめだ、このイケメン、危険だ。野放しにしてちゃいけない系の男。無自覚爆弾製造機だ。……それとも言い慣れているのか?


「そーゆーの、言い慣れてる?」


「だから、どーゆーの?」


「え、笑顔が素敵……とか」


「………?どうだろ?言い慣れているかは分からないけれど、思ったことは言っちゃわなきゃ損だとは思っているよ?」


 へらりと笑って事も無げに言う。わかった、これは天然だ。あかんやつや。


「簡単に言っちゃダメ」


「なんで?」


「なんででも!」


 かくして、この天然亜麻色猫と私の奇妙な生活が始まったのである。少し先行きが不安になったのは、私だけの秘密である。

雨猫は天然。


次回の投稿は【9月14日8時】です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スタートは詩的で美しく、物語自体は口語表現中心の読みやすい文章でした。 [気になる点] ここまでは、ドキドキ感は薄目にかんじました。 どちらも警戒心薄すぎなのはドキドキしますが。 [一言…
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