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REPORT:テラリウム・ワールド ―虫けら異世界道蟲―  作者: Hexapoda
憧れの君へ、七つ星に願う
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一寸先は深域

細かいことを考え始めるといつまでも進まなくなるので、とりあえず進めます。


 崖から下は黒く鬱蒼と木々が繁り、地面は遥か下で底が見えない。この崖のすぐ脇に伸びている樹木の根元も、果たしてどこにあるのか。

 軽く覗き込むと眩暈がするほどの高低差があり、時折、見知らぬ蠱獣が飛び交うのが見受けられる――あれは龍種かな?

 そう、この先はまだ人の見知らぬ領域――深域である。


 イオは、崖へと突き出していた首を戻して、軽く身を竦ませた。

 薄ら寒いものを感じて、集団へと戻る。



 一行は周域から浅域に入り、そこと深域との境目付近を進んでいた。

 場所柄か、より一層蠱獣との遭遇率も上がっている気がする。それを鑑みてか、こっち側の護衛役も少し顔ぶれが入れ替わったようだ。


 何人か戦闘組から戦力を割いてこっちに回ってきた。ついでに言うと、ハルもこっちに回ってきた。戦力的な配分を考えると悪くないっちゃ悪くないんだろうが、あのグーエンとかと言うやつもいるっぽいし、余計面倒になった感はある。

 ちなみに一度ハルにばったり遭遇したけど、なんか鼻で笑われたよ。なので鼻で笑い返してやった。何に対して笑ったのか聞かれたら困るけど、こういうのは勢いだ。



 ただ、おかげさまかちょっとだけこっち側は楽になった気はする。当然、彼一人の力ではないだろうが、なんだかんだやっぱり実力はあるのだろう。

 そんな感じで進んでいたものの、大分陽も暮れてきたため、少し離れたところで野営の準備をすることになった。

 当初の予定なら、とっくに深域の近くを過ぎてしまっていたはずなのだが、思い通りに進めなかったのは結構痛い。




――はぁ。


 野営場所の中心地から少し離れた場所に腰を下ろした。


 本部のある中心付近ならもっと人が集まっているが、正直そこまで人込みは好きじゃない。このほど良い距離位が丁度良い。

 完全に気は抜けないが、ようやくできた貴重な時間だ。手短に軽く食事を済ませ、少しの間ぼぉっと体を休める。

 規律正しさとは何かと思うくらいに、個々人の行動範囲は緩いのはお国柄か。集団で行動はしてるけど、彷徨者たちに軍隊のような統率感はまるでない。


 元々が彷徨者たちの寄せ集めっていうのもあるが、特にイオみたいに個人参加の彷徨者だと、尚更だ。みんな、割と自由人気質だし、言ってもふらりとどっかに出歩くだろうな。



 傍らをなんかの幼虫が横断していたので何となく突っつくと、嫌がるように顔を背けた。

 あ、なんか出してきた。動きがかわいいなコイツ。愛嬌のある動きに、思わず何度も蠱獣を突っつきまわす――うわ、っひぇ、液体飛ばしてきた、キモッ!

 飛ばしてきた黒々とした汁が短剣に付着したので、思わず反射的に蠱獣を突き刺してしまった。

 うっへぇ、武器が汚れたぁ。近くの葉っぱをちぎって付いた液体を拭う。


 幼虫はしばらくのたうち回っていたが、やがて息絶えたようだ。

 あーあ、可愛そうに。何て酷いことを。




 刃物の汚れを取りながら、この日のことを思いかえす。



――うーん、やっぱり多い、よな。


 日頃の調査でもここまで蠱獣に会うだろうか。その上、種類が豊富すぎることがより気がかりである。場合によっちゃ異常事態と判断して、一時的な撤退も視野に入れた方が良さそうだと思うけど。


 今はまだ数が多い位で済んでるが、これ以上酷くなるようなら、調査という目的を見直す必要があるはずだ。そう、例えば掃討作戦とかに。

 その場合どの段階で見切りをつけて方針を切り替えるか。流石に蟲籠の職員とか、中枢ファミリーもその辺りは重々承知してる、よね?


 組織になると動きが鈍くなるのはどの世界も変わらないが、こっちはより命の危機に直結していることだ。判断を誤りました、何てことで済む話ではない。

 思考の海に沈んでいるイオの前に、他の彷徨者が周囲を伺いながら寄ってきて、地面を何度か足で払った後腰を下ろした。



「や、やあ。どうだい? 君も参加者だよね? 稼いでるかい?」

「――ぼちぼち。割と選別してる余裕が無いかな」

「そ、そう? まあ、今回はちょっと大変だよね?」



 目の前に座ったのは、どこか神経質そうな面持ちの線の細い男だった。

 こんな大所帯での調査では、しばしば初対面の相手でも情報交換を行うことはある。意外とそういったことで得られた情報は結構貴重だったりするのだ。


 だが、それにしては、ちょっと挙動不審ではなかろうか? その疑問は、話していくうちに氷解した。

 ある程度の情報交換が終わった段階で、探るように男は切り出した。



「ぼ、ぼくたち、明日辺り、街に戻ろうかと、お、思うんだ」

「……街に?」

「う、うん。そ、そ、そうだよ。君も言ってただろ? だ、だいぶ蠱獣もお、多くなって来たし、これ以上いても、仕方が無いとおも、思うんだ」

「で?」

「わ、分かるだろ? き、君も一緒に来ないかい?」



 その言葉に、ピンと思い当たった。


――なるほど。こいつ、モドキだな?


 調査に呼ばれていないが、紛れ込んでスカベンジャー行為を行う彷徨者。

 そういう彷徨者は一定数いるし、完全に排除することは出来ない。むしろする意味もない。蟲籠としても止める立場にないし、その辺りは許容されている範囲だ。……正直な話、イオも割とよくやっていたので人のことは言えない訳だが。


 だが、それらの行為を止める立場に無い代わり、彼らの安全を保障する義務もない。参加者として把握できていないのだから、巻き込まれて死んでいても認識が難しい、ってのもあるだろう。

 そのため、調査が危うくなってきたら、一目散に逃げていく連中でもある。


 この現状を鑑みて、逃げ出そうと思ったのだろう。やってることは脱走兵だな。

 ただ、一人で逃げるには割と外界の奥地まで来てしまったので、一緒に逃げる仲間、募集中! てところだろうなぁ。


 イオに声をかけてきたのも、多分見た目的にお仲間だと思ったんだろうね、悪かったなモドキっぽくて! いや、ある意味間違っちゃいないのか。


 前回呼ばれたけど、今回呼ばれてないです、でもしれっと混ざりこむこともよくやっている。街を移動したての頃とかは、特に繋がりとかが無いので、呼ばれることも無いわけで。

 ただ、ちゃんと蟲籠に呼ばれるとその分の手当てが出るから、特に目的が無いなら、実は素材をそこまで必死に拾う必要も無いんだよなぁ。


 まあ、それらの事情を抜きにしても……うん。



「いや、僕はいいよ」



 断られるとは思っていなかったのだろうか。一瞬男の表情が固まった。

 だが、すぐに目を伏せると、どこか笑っているようにも見えるこわばった表情を浮かべた。



「……そ、そう。残念だよ」



 本当に、目的はそれだけだったのだろう。男は立ち上がると、イオに忠告を残した。



「まあ、君も引き際を見誤らないことだよ」



 モドキの連中なんて、まだ何人もいるはずだ。その片っ端から声をかけるつもりなのだろうか。

 別に彼の好きにすればよいし、それが悪いとは思わない。

 ただ、イオは少なくとも今回は蟲籠から話を受けてここにいる。それをないがしろにしてまで、彼の話に乗るつもりはないのだ。

 逃げるだけならいつだって出来るけど、それは別に今じゃなくても良――



【――】



――まただ。何だってんだ?

 調査の初めにも、その後も何度か、似たような感覚を覚えた。

 音、ともいえないどこか懐かしい不思議な感覚。そして。




 ドン――



 唐突に、空気が震えた。立て続けに、別の場所からも音が響く。


 一気に警戒心が強まる。

 どこ――向こう? 反対側か?



 半分腰を浮かし、辺りを見やる。地面に置いていたロッドを手元に手繰り寄せた。

 近くでは、立ち去ろうとした男も、同じく周囲を見渡していた。



「な、なんだ?」



 無意識にか、困惑した様子で一歩足を踏み出す男。まだ夕刻ではあるが辺りは樹で陰り、薄暗く視界も通っていない。そんな状態で目を細め遠くを眺めるように首を前に突き出した。

 その様子を、イオは傍らで眺めていた。


 危ない、とか、戻れ、とか。そういった思考に意味や理由を持たせたのは、結局のところ思い返したあとの話で、すべてが刹那的に始まり、そして終わっていた。


 男に手を伸ばす。それは助けようとしたのか、反射的なものだったのかイオも、男を追いかけようと



【蠱術――空蝉】




――――――――!


 何かと蠱術で入れ替わったものの、遠くまで逃げられなかったのか衝撃は避けきれずに地面を何度も転がる。いや、それで済んだのはまだ幸運だったのかもしれない。

 かぶりを振って顔を上げれば、やけに見通しの良い景色が広がっていた。


 まだ沈み切っていない陽の光が、空間を照らす。



「…………」



 ぽかん、と口が開く。

 たった今さっきまで、そこにあった樹木がへし折れて、巨大な空間がそこには作り上げられていた。その空間を埋める球体状の巨大な生き物。否が応でも、何よりも先に目に飛び込むその物体。




 球体が割れ脚がざわつき、隙間から顔や触角を覗かせる、その巨大な蠱獣。


 イオの頬が引きつった。

 同時に頭の芯が冷え込むような感覚。

 急激に思考が切り替わる。



 大型蠱獣――等脚種ダンゴムシ


 こいつらが自発的に人を襲うことは無い。人を食べることは無い。だが、こっちのダンゴムシは、丸まったうえでその巨体を超速度で飛ばしてくる。


 状況から見るに、この惨状はこいつのせいだろう。

 想像してみてほしい。一軒家くらいの大きさの鉄球が、自分に向かって飛んでくる様子を。

 その行動は大半が逃げる、または敵への反撃のための行動なのだが、巻き込まれるこっちとしてはたまったものじゃない。

 


 そうだ、モドキの男は?

 大型種の挙動に注意を払いながら視線をあたりに向けると、倒れた樹木の隙間から変な方向へと曲がった人の足が見て取れる。あの靴には見覚えがある。

 ……チッ。あれはダメだな。

 早々に男を助けることを放棄する。


 落ち着け、落ち着け。

 行動は迅速に、誤ってても仕方がない。とにかく判断しろ。


 どうしても近場の存在に気を取られてしまうが、耳をすましてみれば、遠く――野営地の中心からも人の声が聞こえる。

 そもそも何が起こっている? 襲われた? ここだけか、それとも向こうもか?

 矢継ぎ早に思考を巡らす。


 この蠱獣が来たのは、野営地とは反対側だが、この巨体である。巻き込まれたのはイオたちだけではないはずだ。

 とにかくまずは戻らないと。正直唐突過ぎて何が起こっているのか判断しかねているが、ここにいても仕方がない。

 何にせよ、大型種の存在は脅威であり、伝える必要がある。


 イオは足早に本部の方へと向かう。

 背後で蠢く気配。いつあのダンゴムシがこちらに向かって動き出すか。轢き殺されないように意識をそちらに割きながらも、イオは先を急いだ。


蟲眼玉ガチャの回で書こうと思って忘れてた小ネタ。

この世界の貨幣について。


ギンカコガネとか、鞘翅種の上翅から採れる金属で貨幣は作られるわけですが、これらの蠱獣は食べてきた金属の種類や配分など、あとは地域差で同種でも少しずつ色味が違います。


それを貨幣にするので、貨幣の色も地域で少しずつ異なってきます。

そしてこんな世界ですが、それでもマニアが居るもので、地域ごとの貨幣を集めて持ち寄るような集まりがあるとかないとか。


あなた、どこどこの貨幣持ってるんですか、交換してくれませんかね? とか。

極めつけは、色味だけでどこ産の貨幣かを当てることのできる人もいます。なぜか。

↓ちなみに見分けるポイントはこんな感じ。

Q.どこら辺が違うの?

A.輝きが違う。

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