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REPORT:テラリウム・ワールド ―虫けら異世界道蟲―  作者: Hexapoda
憧れの君へ、七つ星に願う
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トゲトゲトゲトゲトゲトゲ


 時にトゲハムシなる昆虫をご存じだろうか。全身から棘を生やしている中々愉快な見た目をしているコウチュウ、ハムシの仲間なのだが、思春期の子供かよってくらいにそりゃあもうトゲトゲしている。

 随分とまあ攻撃的なフォルムだな、と思うわけだが、しかしそのトゲハムシの仲間には棘のないトゲハムシが居たりする。トゲナシトゲトゲって呼ばれてるハムシだ。見た目からそんな感じの名前つけたら例外が居ました、ってパターンじゃなかろうか。知らんけど。


 ここでややこしいのが、さらにそのトゲナシトゲトゲの中にも結局やっぱり棘を持っている種類が居たことだろう。


 名前くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。

 これが世に言うトゲアリトゲナシトゲトゲ、と言うやつだ。「トゲのある」「トゲナシトゲトゲ」ってわけだ。どっちでもええわ(暴言)! あるのかないのかはっきりせい、って。


 さて、前置きが長くなったが、棘がある、棘が無い。それらの問題を力ずくのファンタジーで解決しやがった蠱獣がこの世界にはいる。





 落ち葉を踏みしめ、ハムシ型の蠱獣へと向かう。

 とにかく叩いて叩いて叩く。鈍器なら刃が鈍ることもない。変形はするけどな。まあ、小型種くらいなら何とかなるだろ。


 ヒュメナとかコレオリアの系譜の人種に比べれば蚊の鳴くようなレベルの筋力に、蠱術の力を上乗せし、さらにちょっとばかし助走をつけて蠱獣へと叩きつける。だが、手に返ってきた感触は想像と異なるものだった。

 何だ? 金属を殴ったときの衝撃じゃない。


――柔らかい?


 イオの目に映ったのは、まるで液体のように波打つ蠱獣の上翅。



「いぃいい!?」



 まずい!

 勢いに逆らわず、殴ったロッドの先端を起点に宙へと跳び上がる。直後、手元や頬に鋭い熱が奔り、鮮血が飛び散る。


 蠱獣を跳び越え着地するも、すぐさま相手へと振り返る。そこに居たのは先ほどまでと打って変わって全身から棘を生やす蠱獣の姿だ。

 イオの見る前でその棘がみるみる形を崩して翅へと戻っていく。ぴちゃん、と波紋を残して凪へと戻る鞘翅。



 状況に応じて、棘を生やす(・・・)蠱獣。その体は流体金属で作られ、普段はただのハムシのなりをしておきながら、いざ襲われれば牙を剝く。

出会うのは初めてだが、マジか。


 小型種だが滅多に見かけない種類だ。少なくともイオがクエルクスに来てから4年ほど経つが、見るのは初めてである。

 その上、取れる素材は特殊かつ色々と有用性も高いことから価値が高い。売り払うもよし、自分で使うために取って置くもよし、ここで逃す手は無いだろう。


 間に合わせ気分だったけど、撤回だ。倒せ――るかは分からないけど、とりあえずやってやらぁ!



 じりじりと距離を詰める。

 上はダメだ。ほとんど翅に覆われていて隙が無い。同じく横に後ろも攻撃範囲だ。ならば向かうべきは他よりも面積の少ない正面っ!

 再び身を縮こませたハムシの全身から棘が迸ろうとした。



【蠱術――落とし穴(ピットフォール)



 その瞬間、ハムシの尻付近の地面が沈み込む。必然、晒されるは無防備な腹側だ。

 同じように金属の甲殻に覆われていても、奴が変形させられるのは、頭と前胸と上翅だけだと読んだ覚えがある。

 つまり、こっちは絶対的安全地帯だ。



「そーい!」



 何度も勢いよく相手の腹を殴る。脚をじたばたさせるハムシの腹を殴り続けるという何ともシュールな光景だが、これもお金のためだ。

 カッコよさで腹は膨れないんだよ。前も似たようなこと言った気がするけど。


 ええい、さっさとくたばれ!

 こういう時、決定打を持ってないのが本当にもどかしい。


 そうして再度ロッドを振りかぶった時、なんとも言えない悪寒が襲った。その直感のままに咄嗟にロッドを右手方向に振り払う。

 響いたのは金属音、そして強い振動が手を震わせる。翅から伸ばされた棘がロッドを弾き飛ばし、その棘が更に枝分かれしてイオへと襲い掛かる。

 たまらず後ろへと逃れるイオを追いかけるように、多方向から次々と伸びてくる棘、棘、棘。咄嗟にひねった体を掠めるように、それらが次々と襲い掛かってくる。


 誰だよ絶対的安全地帯とか言ったの?! 冗談じゃない!


 そりゃそうだ。別に形が定まっていないのなら、生える棘が枝分かれしちゃいけない、なんてことはない。

 背中から生やした棘で、無理やり体の向きを元に戻したのだろう。まるで茨のように蠱獣の周囲を取り囲む棘の籠に、攻めあぐねて大きく距離を取る。

 くっそ、ちょっと……いやかなりかっこいいフォルムなのがなんか無性に悔しい!


 棘がスライムのように蠢き、翅へと戻っていく。さて、手の打ちようがないぞ。どうするか――



「は? えっ、ちょっと待」



 その考え込むイオを後目に、上翅を元に戻した蠱獣が、その翅を開いた。



 逃げ――


 実に翅を開いてから飛び立つまでのラグは僅か、速やかに大空へと逃れる蠱獣に、せめてもとロッドを拾い上げぶん投げるも、身体に弾かれ無情にも地面に落ちる。



「……えー、えぇぇぇ……」



 そりゃ、向こうからしたら襲われているわけで、わざわざいつまでも戦闘に付き合う義理は無いけどさぁ。

 逃がした獲物は大きかった、とはよく言うが、真面目に価値があることが分かっているだけに、これは痛い。

 えぇ、どっかの逃げ足の立派な金属的流動体生物かよ、流体金属だからって、逃げ足とかリスペクトしなくてもいいのに。


 がっくりと肩を落とすイオの視界を何かが瞬いた。



 ジュッ、と銀閃が空を駆け、今まさに上空へと逃れていたハムシを打ち抜いた。不自然にバランスを崩し、力を失ったように地面へと墜落する蠱獣。


 落ちた蠱獣を思わず見つめ、次いで光の飛んできた方を振り向く。

 そして追って現れたのは、



「あ? 何だ、スカベンジャーかよ」



 紅色の髪の若き天才彷徨者と、彼に連れられた幾人もの彷徨者たちだった。



※別に棘があろうとなかろうと、問題は無いと思います。まあ、人が混乱するくらいじゃないかな。名前で。

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