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REPORT:テラリウム・ワールド ―虫けら異世界道蟲―  作者: Hexapoda
憧れの君へ、七つ星に願う
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『業火剣乱』のアリス


 燃え盛る世界の中、剣を携え立つ少女。その体躯には大きすぎる大剣は下を向き、切っ先は地面を擦る。

 その背に咲く一対の翅はディプラの系譜である証だ。

 再度剣を振り払い、その動きに合わせて翅がひと際眩く輝くと、周囲に近づいて来ていた月下蟲が燃え上がった。金色の炎が木々を、葉をジリジリと焦がす。炎の明かりを受けて、少女の金髪が不思議な色彩を帯びて輝く。周りを飛び交うのは炎で象られたハエだろうか。アリスの意志に従う様に近づくものを燃やしていく。


「イオ様、長くは保ちません、今のうちに急いで!」

「――っつ、ああもう!」


 呆けたのは一瞬。他の蠱獣と月下蟲が一緒くたに燃やされ、ぽっかりと空いた空間を、メリーに続いて駆け抜ける。翅が輝く度、振るわれる剣が先々の蠱獣を斬り払い、炎に巻かれた蠱獣たちが散り散りになる。


 じんわりと熱をもった地面は、けれど障害物が無くなった分さっきよりもずっと動きやすい。



 金の少女によって振るわれる力はメリーをも上回る破壊と殲滅。

 思い返してみれば、納得できる部分もあった。

 いくらこの世界の子供が、前世に比べれば戦う術をそれなりに心得ているとはいえ、蠱獣にいつ襲われるかも分からない外界であの振る舞い。

 メリーが居るからこその信頼と安心感かとも思ったが、なんてことはない。いざとなればどうにか出来るほどの実力があるからこそだったのだろう。ただ――



 ――中型を一撃で葬るとか、護身用って言うにはいささか物騒じゃないかなぁ!


 随分殺傷力の高い防犯ブザーである。

 せいぜい預かり物か、よくてメリーが使うものかと思っていたけれど、まさかアリス本人が大剣を使うとは思わなかった。

 外殻の強度は種類で異なるのは当然にしても、小型種とは比べ物にならない頑強さを誇るそれを一刀で両断するその威力は推して知るべし。


「別に隠すなとは言わないけど! 何かやるなら一言言って欲しかったなぁ!!」

「申し訳ございません。こちらも事情がありまして……」


 苦い表情のメリー。

 いくら戦えても、状況や場所もある。恐らくだが、炎を扱うことによる周りへの影響、何より目立つことに対しての危惧だろう。

 瞬間的な殲滅力やら攻撃力は目を見張るものがあるのは認めるが、これでは敵を減らすのかおびき寄せようとしているのか分かったものじゃない。

 もしかしたら同じような失敗をイオと出会う前に犯していたのかもしれないし、こういった場面では使いどころに悩む切り札であろう。



 けれど、それで道が開けたのもまた事実。諸刃の剣ではあるが、今は勢いで一気に距離を稼ぐことが最優先だ。露払いとばかりに先頭をアリスが飛び抜けていき、それにメリー、イオと続いた。

 だが、そう進まないうちに前を飛び回るアリスの動きが精彩を欠く。


「メリー、はぁ、っつ――ハッ」

「……アリスお嬢様、あともうちょっとだけ頑張ってください!」

「ぅ、くぅッ!」


 苦悶の表情を浮かべながらも、蠱獣たちを焼き払いながら道を切り開くアリス。アリスの周りを踊るように飛び回る炎の蠅が、近寄るものを舐めるように焼き焦がす。しかし、そのうち翅を消し、アリスは地面へと足を付けた。

 体力切れ? まさかとは思うけど、反動か、攻撃を受けたわけでもないので、単純な疲労なのだろうか。


「――イオ様、すみません、限界です!」

「ッ、了解、あと少し……よし」


 進む足こそ止めていないものの、息を切らしつつ、額に汗をにじませるアリス。べったりと前髪が額に張り付く。その動きは明らかに鈍っていた。

 子供に無理をさせて申し訳ない気持ちが無いわけではないけど、どうやらこのメンツで一番の戦闘力を誇るのが彼女であった以上、そうも言ってられないのが現実だ。



 だが、おかげで大分進むことが出来たため、蠱術による明かりはかなり減ってきている。まだ影響があるのか月下蟲の姿は見えるが、大分焼き払ったのも響いてか新手は収まっているのが見て取れる。

 そして尚も後ろから追いすがる捕食者たち。こいつらにとっては月下蟲だろうがヒトだろうがどっちでも良いのだろう。見境なしのストーカーとか、迷惑極まりないな、全く!



 メリーとアリスが先に行くのを確認して、少しだけ足を止める。月下蟲の数はかなり掃けた。なら――


「先行ってて」

「なっ?! 何をなさる――」


 追ってくる蠱獣を出迎える。


 さあさあ、後ろが渋滞してるぞ、自分の後ろは注意しなくて良いのかな?

 相手が群体ならともかく、少数ならやりようがあるのさ。


「食らえ、強制通行止め! と、ついでだ」



【蠱術――蛇紋眼】

【蠱術――幻蒼の鱗光(モルフォブルー)



 イオの背後に一瞬蛇の目が浮かび上がる。

 その瞬間、後ろを追っていた蠱獣が、もっと詳しく言うのであればその先頭の蠱獣の動きが不自然に止まった。

 それはぶつかったとか、進むのを止めた、とかそういうものではなく、もっと強制的に動きを固定されたような違和感。


 玉突き事故のようにその止まった蠱獣にぶつかり、次々と蠱獣同士で踏みつけ、踏みつけられ、体がひしゃげる蠱獣たち。

 そして身動きが取れなくなるということは、そこにうってつけの「餌」が出来ることでもある。突如争い始めた蠱獣たち。それを抜けてなお襲い掛かってくるものも居たが、それらもどうしてか、イオたちの遥か手前で大顎を閉じるという奇怪な行動を取っていた。



 もちろん、偶然ではなく、イオの蠱術によるものだ。

 相手の動きを強制的に止める「蛇紋眼」、そして虚像を出現させる「幻蒼の鱗光」。どちらもイオが得意とする蠱術である。

 まあ、翅が併用できればもっといろいろ出来るわけなんだけど……。



 ないものねだりをしても仕方がない。

 後ろで混乱に陥っている蠱獣たちを後目に、イオはメリーたちのあとを追いかけた。



金髪にアリス。モデルは言わずと知れたあれです。



双翅目の丸っこくて金色にモフモフしているキュートな、

『キンアリスアブ』。


ちなみに蠱術のアイデアの元は『ケンラン』アリスアブです。

アリノスアブとも言われたりしていますが、個人的には響きの可愛さ的にアリスアブ一択です。


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