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REPORT:テラリウム・ワールド ―虫けら異世界道蟲―  作者: Hexapoda
憧れの君へ、七つ星に願う
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人だって光に正の走行性

 需要が無いのに極めて個人的な欲求を満たすために供給する。

 気軽に手を出せる分野じゃないってのに……。


 世界が闇に閉ざされていた。

 音すらも飲み込むような深い闇、時折聞こえる野生動物の声が、物悲し気に響く。

 その中で、道しるべとなる希望の光は、闇夜を照らす月光と、電池を交換したばかりのヘッドライトのみである――。



 ……気取った言い方をするのはやめよう。



 自分、稲本伊織23歳。深夜の山奥にて、ただ今絶賛遭難中である。

 何故かって? 恥ずかしいことながら、虫捕りに熱中した結果だったりする。



 いや、自分でもちょっと予想外ではあったのだ。それに迂闊だったな、とも思っている。

 だけど、ちょっといい所にブナの立ち枯れがあったなら曲がりなりにも昆虫採集をしている人としては見に行くのは当然じゃないだろうか。


 一本の立ち枯れから見つかるカミキリ、ハナノミ、ヒメバチ、チャタテムシによく分からんハエetcetc……。なんかショウジョウバエっぽいのもいた気がする。

 専門家では無くとも、趣味で昆虫採集をしている身としては、なかなかに心躍る空間だ。


「それに熱中してこうなっちゃ、世話ないわな」


 色々立ち枯れを見て回った後、ちょっと、ちょっとだけ周りに似たような景色が広がってて、笹が生い茂ってたりしていたせいで、来た道を見失ったり、なんか見覚えのある樹だと思って駆け寄ったら全然違う樹でさらにドツボにハマった感が無いわけでもないけれど。



 ライトで地面を照らしながらリュックから栄養食を取り出してかじる。とりあえず、少なからず食料があるのは救いだ。

 五体も動くし、飲み水に関しても2リットルのペットボトルがある。余裕があるわけじゃないけれど、水分の確保は大事だ。



 知ってるだろうか? 大自然を散策していると意外なほどに日が暮れるのは早い。なんか暗くなってきたな、と感じたころには手遅れである。

 都会の明かりに慣れた現代っ子には中々想像がつかないかもしれないけれど、本当に深夜の森の中は真っ暗だ。ライトが無ければ人の目では何にも見えないのだ。


 こんな状況でなければ、もっと周りを調べてみたい、何て思ったりもする。意外とこういう場所に珍しい虫が居たりするんだ。



 ――ごめんなさい嘘です。なんか平静装った感じで平気っぽいこと言ってみたけどめっちゃ怖い心細い、ナニコレ!



 近くでなんか動いた気がする! 獣? 幽霊とかは別に信じてないわけではないが見たことも無いし幸か不幸か霊的な現象にあったことも無いけど、本当何が出てくるか分からないこの状況って予想以上に怖いしビビる。



 スマホの電波なんて当然のように圏外である。当たり前だ。虫捕りで訪れた山奥なんて電波が通じてることの方が珍しいし、下手に電源付けておくとガンガンバッテリーが減ってくから大体機内モードにするか電源を切っていることがほとんどだ。



 足元を照らしながら心もち足早に森の中を練り歩く。上は照らさない。なんか変なものが映ったら嫌だから。別に下を照らしたからと言ってそっちも変なのが映らないかと聞かれればそうとは限らないけれど、気持ちの問題である。



「――――……」



「……ん?」



 ふと、何かが聞こえた気がした。虫の声ではない。獣の声でもない。木々のざわめきでもない。何かもっと、訴えかけるような……



「――――……」



 ……いやいやいや、ヤバいだろ! 霊感無し男で生きてきて23年間。虫の捕れる場所が結構心霊スポットとか曰く付きのことが多い関係上、そういう場所もそれなりの数訪れたし、無人の閑散としたトンネルの中とか一緒に行った相方がめっちゃ怖がったり寒い寒いとか言ってたけど全然平気だったし、それ以降も何の影響も無かった僕が遂にオカルトでスピリチュアルな何かに訴えかけられる、とでも言うのだろうか。



「――――……」



 はっきりと音としてとらえられているわけではないが、確かに耳に届くそれから、むしろ遠ざかるように歩を進める。当たり前だ、なんかヤバそうな気配しかしない。




 その時。微かにその先、遠くの方に一瞬光が見えた。



「おお、明かりが!」



 ヘッドライトの明かりの反射ではない。明確に自らが光源として確かに光り輝く人工物の光。

 意外と車道の近くに来ていたのだろうか。心持ち歩みが早まる。



「ヤバい、今僕、明かりに集まる虫の気持ちが痛いほど良く分かるかもしれない」



 習性とはいえ、ライトトラップに集まる虫を見ていると心底「飛んで火にいる夏の虫」って言葉が頭をよぎるが、もしかしたら奴らもこんな気持ちなのかもしれない(違う)。

 思わず気が急く。冷静に、落ち着いて行動しろと理性は訴えるが、ぶっちゃけなんか良く分からないのから逃げたいのと、久々の他者の存在(仮定)に心が逸る。



【蠱術――誘蛾灯】



 そしてその光は――――




「………………はぇ?」




 一寸先は闇。一方踏み出せばそこは崖。

 そこに見えていた明かりは影も形もなく、そして足元にも地面などなかった。



 視界は暗く、世界を認識できない中、それでも体の平衡感覚から世界が傾くのが良く分かる。


 いや違う、傾いているのは自分だ。その身を支えるものは無く、



「落ち」



 そして――――






16時ごろにもういっちょ。

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