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三神正義と魔法の箱  作者: 桜華 澄
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事態の急変

事態の急変


「回診、ちょうどいいわ、親父がどんな様子か聞くわ」

俺は、女の言葉を聞いて不安と動揺を感じてきた。彼女が入ってきたら病室の中は混乱してしまうだろう。彼女が連れてくる悪霊と渡辺さんの悪霊が衝突してしまう。そう思った瞬間、女はドアを開け強引に病室に入ってきてしまった。

渡辺さんの悪霊が、

『グアゴー』というすさまじい音を出して、女の後ろについてきた悪霊を攻撃してきた。悪霊の声はもちろん俺以外には聞こえない。狭い病室の中での悪霊の衝突だ。これは恐ろしいことになるだろう。

「今は回診中ですから終わるまで少し待ってください」

回診の時に必ず付き沿う看護師の勝田さんが女に注意した。勝田さんは俺の親友かっちゃんのお母さんだ。勝田さんの後ろにすごいオーラが出ているのが俺にはわかった。

「オーラだ。しかも強い。女から出ていた悪霊が少し退いたぞ」

俺は感動した。自分中心に物事を考えてばかりいるこの女と、仕事とはいえ患者さんの為に尽くすことを考えている勝田さんでは、ついている霊がこんなに違うものなのかと思った。それでも女は怒りが収まらないのか、無理矢理部屋に入ろうとしてきた。

その時患者の渡辺さんが、

「また来たのか。もうお前には用はない。帰れ」と大声を出したので、その言葉に反応した女の悪霊と渡辺さんの悪霊がついに衝突してしまった。

俺はちょうど病室の入り口にいたので、悪霊の衝突の衝撃をまともに受けてしまった。

しかし入口近くで場所が狭く逃げ場はない。悪霊の渦は俺まで巻き込もうとしてきた。

「正義、危ない」

ルシムが体を張って悪霊の攻撃から俺を守ってくれた。その様子を見て俺は体の中から凄い力が出てくるのを感じていた。そして俺をかばおうとしているルシムや病院のみんなのことを一瞬のうちに感じとって、ここで悪霊を退治してしまわないといけないと思った。ただ悪霊の姿が見えているのはここでは俺だけだ。

「ルシムーー!」

俺はそう叫んだ直後、正しきことを愛する心が極限まで高まっていた。俺は悪霊に向かって両手を伸ばした。手からものすごい霊波が出た。

その霊波は一瞬で二体の悪霊を粉砕してしまった。その反動による衝撃で、俺は狭い病室の壁に衝突してヘタッと尻もちをついていた。はたから見たらひとりで勝手にこけたようにしか見えないだろう。

「正義大丈夫か」

フラフラしている俺の様子を見て、昇兄さんが声をかけてきた。俺は初めてのことで衝撃に耐えきれず気を失っていた。意識を失った後、俺は夢を見ていた。



死神の夢


その夢は以前からよく見ていた従妹のレナとのかくれんぼの光景だ。そう、レナが穴に落ち彼女が動かなくなったところで死神が出現するという例の夢だ。ただ、今回見たのはその夢の続きだった。

「死神か」

俺は夢の中でその姿を探したが、周囲は真っ暗だし、雰囲気で死神の存在を感じただけで、正体を確認したわけではなかった。

「正義、やっと話ができる。」闇の中から死神の声が聞こえた。

「韓国の仙人のところで探した時にどうして出てこなかった。いつも俺の近くにいたのではなかったのか」

「我は死神、名前はまだないが、守護天使のように側にいるわけではない。だが、お前がピンチの時は助けるという約束になっている」

「死神、名はないのか。ならゴーズと言うのはどうだ。それから、今お前が言った約束というのは何だ」

「正義、そのことはいずれ話すことになるが今はちょっと待ってくれ。俺の名はゴーズか、いいだろう」そういってゴーズは気配を消して行った。


 事件


俺は数秒くらい気を失っていたらしい。その間に死神に出会った。

「正義、大丈夫か。お前そんなにドジだったか。回診について行かれないんだったら戻っていいぞ」

あきれたという感じで昇兄さんは吐き捨てた。

「わるい。大丈夫だよ」

俺は一瞬で悪霊を退散させる力があったなんて思ってもみなかった。ルシムが心配そうに俺を見ていた。俺はゆっくり立ち上がり、また回診について行った。

「正義大丈夫ですか」

「心配するな。あれくらいどうってことない。中学時代、ぐれていた時に喧嘩をやっていたことが今役に立った。倒れた時とっさに受け身をしていた。そうでなければ頭をかなり打っていたかもしれない」

「正義、心と体が強くなりましたね。いい意味で…」

ルシムは嬉しそうにしていた。ミーシャヲがまた楽しそうに飛んできた。

「あたい、嬉しい。患者さん元気、喜んでいる」

「ミーシャヲ、今度は何だ」

俺が悪霊を退治していた時に、ミーシャヲが他の患者のところに行く時間が生じていたのだろうか。そんなことを考えている間に、兄さんは次の病室に入って行った。


ミーシャヲの活躍


渡辺さんの病室の隣は、骨折で入院している八十歳の斉藤さんだ。彼女は心臓が弱っていたので、骨折が治っても心臓発作の恐れがあるため、退院については患者さんの家族と相談することになっていた。斉藤さんはとても元気そうな様子であった。

俺はその様子を見て、アチャー、これでいいんだか、悪いんだか。とにかくミーシャヲが治してしまったのは仕方がない。俺は開き直っていた。

「斉藤さん、顔色がいいですね。体が軽そうになっている」

「はい。おかげさまで。先生、なんだか心臓の調子が良くて動いても苦しくならないです」

昇兄さんは斉藤さんの様子を聞いてから、手元の治療計画とカルテのデータに目をやった。薬の投与期間が短いのに、なぜこんなに元気になったのか不思議だと感じているようだった。斉藤さんだけではなく、となりの患者さんも元気になっていた。さらに他の病室の患者さんは皆、兄さんが巡回するたびに「元気です」と答えていた。

「ワッハッハ。今日の巡回は愉快、愉快。これだけ短い期間に患者が回復していくのはいいことだ。評判は上々。正義、ごくろう」

「あへっ…。ういっす」

「ルシム、余計な心配しないでもよかったな。兄さんって結構ゲンキンなところもあるんだな」

「正義、グットジョブじゃないですか。人類は救われた」

「なんのこっちゃ。あー、ミーシャヲ、ありがとう」

「がってん、正義、もっと働ける」

「おいおい、今日はもう疲れたよ。でも、今後は医療のことでいろいろミーシャヲから勉強しないといけないな」

俺は天使たちとの会話を楽しんでいた。そうしているうちに、兄さんは巡回を終えた。

「お疲れ様です」俺は挨拶をして兄さんと別れた。

ここで昇兄さんの家族について説明しておこう。父の病院を引き継いだ昇兄さんは家も相続した。結婚して、家族もこの家に住んでいる。俺は兄さんの家族とこの家に同居している。兄さんのお嫁さんは栄養士で病院を手伝っている。名前は美里さん。麻衣姉さんとは結構仲がいい。先日二人がナースセンターで会話をしていた。

俺はナースセンターに行くことがよくあるので、二人の会話は聞こえてしまう。

「昨日、休みを取ったでしょ。どこいったの」

「最近、二子玉川の駅に美味しいお店ができたのよ」

「あー、だれと行ったの」

「いいじゃない。それと、すてきな下着の店もみつけたのよ」

「あーぁ。いつもくだらない話ばかりしてバカな姉さんたちだ」

このようなどうでもいいことを思い出したりしながら、俺は自分の部屋に戻っていった。部屋は狭いながらも、ほっとして落ちつける。今日の出来事から学んだことは多かった。この体験を生かしてこれから俺のできることを見つけていこう。などと考えを巡らして、思ったことをノートにメモしていた。


ミーシャヲの道具


その後しばらく夏休みの宿題に取り組んでいたが、いつの間にか夕方になっていた。

「勉強は終わったのか」ミーシャヲが話かけてきた。

「終わったよ。ミーシャヲ、今日は活躍したね。何か道具を使っているように見えたんだけど、天使も道具を使うのかな。もしそうだったら見てみたいな」

俺は前から疑問に思っていたことを率直に聞いてみた。ミーシャヲの働きがあまりにも見事で、しかもとてつもない早業であったからだ。

「これは秘密だが、正義だから見せる」

そういって彼女は道具を見せてくれた。現代の医療現場でも使われているものと、全く同じ形をした道具だ。俺は驚いた。

「仙人からもらったものなのか」

俺は道具の一つ一つを見ながらミーシャヲに聞いてみた。

「この中にないものでも、正義が何か思っただけでその場に現れる」

「それはすごい。思ったものがその場に出てくる。この中で足りない物は…。そうだ、透視メガネがあったらきっと便利だろうな。でも実際の医療器具にはそんなものないから、俺が思っても出てこないだろう?」

「大丈夫、ちゃんと出てくる」

ミーシャヲはスーと透視メガネを出現させた。

「これはぶったまげたな。でも見た目は普通のメガネだ。どれどれ」

俺はメガネをかけて部屋のドアを見た。ちょうど麻衣姉さんが、夕食の支度ができたことを俺に知らせようとして、ドアを開けて部屋に入ってきたところだった。

「すげえ、麻衣ねえ、熊さん柄の下着だ」

俺はつい、目に映った光景を口に出してしまった。

「きゃー、正義、何言っているのよぉ」

姉さんは俺にすごい蹴りを飛ばしてきた。

そのあとボコボコにされてしまったが、天使たちは俺に同情しなかった。

「あいてて、昔、喧嘩をやって鍛えたけど、麻衣姉はその俺もぶっ飛ばすんだからな。大したもんだ。へたすると怪我していたかもだぞ。麻衣姉もそこまでするか」

「正義、いつまでぶつぶつ言っているの!」

「いや、反省しています」

「透視メガネの使い方まずかったですね」

「ルシムまで・・・。俺をそんなに責めないでくれよ。」

でも俺が本当に知りたかったのは、道具が出てくるのかどうかということだ。それさえ確認できるんだったら、別に透視メガネじゃなくてもよかったんだ。でもこれだと思ったものが出せるということが分かった。本当に凄い。

俺はそんな言い訳ではないぞと言いたかった。だがスケベ心から透視メガネを出したという疑惑については、払拭されなかったかもしれないな。

俺は食事を終えて、また自分の部屋に戻った。そして以前から気になっていたいくつかの病気について、医療の本を持ち出していろいろ調べてみた。そんなことをしているうちに、いつの間にか疲れが出てベッドの脇で眠っていた。最近ベッドはミーシャヲが占領してしまうことが多い。ミーシャヲ、寝る時は小さくなってくれよ…。


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