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三神正義と魔法の箱  作者: 桜華 澄
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救急患者

救急患者


二人はこうして自身の存在をわかってくれる俺のような人間と一緒にいられるのが、とてもうれしいのだろう。きっと二人とも、こうした日がやってくることを願っていたに違いない。俺はいつものように腕章をつけて病院に向かった。ミーシャヲは俺の周りをぐるぐる動き回って、

「正義、これが病院か」

「ミーシャヲ、そうだよ。もっと大きな病院もあれば、うちみたいに小さい病院もある。でも治療は十分に受けられるようになっているから大丈夫だよ」

「あたいの居たところとは全然違う。不思議。でも楽しそう」

ミーシャヲが日本に来て医療現場を見ているのは、空港の診察室とこの病院だけだから当然のことだろう。日本だけでなくアメリカの病院にも連れて行ったら、またもっとびっくりするだろうな。俺が天使たちとやり取りしていると

「救急患者です。急いで」という声が聞こえた。

内の病院はベッド数が少ないから救急指定病院ではない。だが、緊急の時には対処できるような態勢はとっている。

「こんなに朝早く、珍しいな」

「正義さん、すみません。院長先生が呼んでいます。」受付の小川さんが俺に言ってきた。

「了解。昇兄さんだね」

俺は走って急患室に行った。医師でない俺にはここで出来ることはそんなに多くない。

でも自分で状況を知っておきたいので、あえて救急隊員に尋ねた。

「どんな様子ですか」

「はい、自宅で転倒して頭部を強打したとのことです。意識はありません」

「そうですか、ご苦労様です」

俺は救急隊員に挨拶し、急患室の前の椅子に座って、付き沿っていた奥さんと事務手続きのための話をした。

「院長先生に急患が入りました。外来の方は…」

受付事務の小川さんが母と話をしている声が聞こえてきた。ここは一回の外来手続きの事務室の近くなので、そこからの音はよく聞こえる。

「今日の救急患者さんは、手術になりそうね。小川さん、外来は上野先生にお願いすることになったと各人に伝えてください」

「わかりました。早速伝えます」

母の素早い対応で、朝の外来患者は混乱することなく診察が受けられそうだ。俺は付き沿いできた奥さんに書いてもらった書類を事務室に持って行った。

「手続きは終わりました」

俺はそう言って書類を手渡しに行ったが、母は小川さんと話をしていた。

予期せぬ展開


「理事長、急患の方は都議会議員の林先生だということです。秘書の方が慌ててこられました。なにか伝えたいことがあるようです」

「私が直接会って、事情を聴きましょう」母は事務室の隣の応接室に向かった。

「小川さん、母は大変そうですね。俺にはわからないけど」

「正義さんは、病院の仕事を時々手伝っているくらいだから、隅々のことまではわからないでしょう。でも経営に携わる理事長は大変な仕事をしていますよ。理事長の仕事ぶりは的確です。いつも正確な判断を下して私たちに指示を出しますから」

俺には詳しいことはわからない。でも病院のことを全て把握している母さんがすごいということだけは理解できる。

「院長先生にしては手術に時間がかかっていますね。何かあったのでしょうか」

小川さんは時計を見ながらつぶやいた。

「確かに兄さんにしては遅いな」

昇兄さんは外科のほとんどの手術をこなしている。手術に入ると長くても二時間くらいで終わる。今日の手術だが、頭の中の難しい場所のようだ。かなりの技術が必要である。

「確かに遅いですね」

俺はなんとなく不安になってきた。昇兄さんは外科でも手術は手早い。それにしても時間がかなりかかっている。

「正義、私が見て来ましょう」

ルシムが言ってきた。ミーシャヲも手術室の前を行ったり来たりしている。

「ミーシャヲ、大丈夫だよ。昇兄さんは腕がいいから」

俺はそうは言ってみたものの、胸騒ぎがしていた。


ミーシャヲ登場


『あの患者は肝不全を起こしている』と思ってしまった。

そう感じた瞬間、ルシムが、

「正義、脳の手術は成功したが、肝機能の低下で、お兄さんは手こずっている」

「そうか。ミーシャヲ、兄さんを助けてくれないか」

「正義、わかった。任せろ」

そう言うが早いか、ミーシャヲは手術室に入って五分もしないうちに戻ってきた。

「ミーシャヲ、今回も早いな。手術は成功か」

「成功だ。正義の兄はすごい。神業をはじめて見た」

ミーシャヲは感激して、そこら中を飛び回っていた。俺以外に見える人がいないからいいが騒がしい子だ。でも嬉しかったんだろうな。

「そうかよかった。昇兄さんは天才だからな。腕は最高だ」

「正義もすごい。今はわかんないだけだよ」

ミーシャヲは俺の周りを飛び跳ねていた。

「そうですよ。これからです」ルシムがかたわらに来て話かけてきた。

昇兄さんは手術を終えて俺のところにやってきた。

「今回はいつもより時間がかかった。正義、外来の方はどうした」

兄さんは疲れも見せず、いつもの調子で言ってきた。

「ういっす」

俺も外来へ急いだ。昼過ぎていたので患者さんの数はかなり少なくなっていた。

「患者さん、いっぱい」

ミーシャヲはみんなを治してあげたいという様子で飛び回っている。ここで俺がサインを出したら、すぐにでも治しに行くだろう。でも今は混乱を避けたい。

「ミーシャヲ、我慢だ。混乱してしまうからね」

「正義が医者でないからか」

ミーシャヲはちょっと不満気にふくれっ面をしながら飛びまわった。

「俺はここではただのお手伝いにすぎないし、まだ学生だ」

ミーシャヲは二階の病室も見てきたらしく、

「正義、上に患者さんたくさんいる」

「もうすぐ外来が終わるから、そうしたら二階の患者さんのところに行けるよ」

ミーシャヲの顔が明るくなって、早く行きたいと言う様子を見せた。


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