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三神正義と魔法の箱  作者: 桜華 澄
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正ニおじさんに会う

正二おじさんに会う


正二おじさんは神奈川県厚木市にいる。世田谷から小田急線で一時間くらいのところだ。おじさんの経営する漢方専門のお店は、本厚木駅近くの商店街の一角にある。昔なじみのお客さんがいるので、長い間その場所で店を開いてきた。周囲にはこぎれいなドラックストアーが次々に店をだし競争が激しい。

そんな中で生き残ってきたおじさんは、俺の目からはスーパーマンのように見える。店の前に来ると女子高生の甲高い声が聞こえた。おじさんは商売の合間に手品を見せて、店の前で立ち止まっている人たちを笑わせていた。手品が終わると

「やっぱり健康のことはおじさんに聞くのが一番よね」と女の子の話す声が聞こえた。

ファンがいるんだ。俺はそう思いながら店の前にいるおじさんの顔を見た。

「どこにでもいそうなスケベなおっさんの顔じゃん」と思った。

昔はハンサムでかっこよかったが、さすがに今はおっさんだ。父とは十歳違いだから、もうかなりの年齢である。しかしまだまだ若々しいのは、漢方の効用なのだろうか。まさに魔法の薬でも飲んでいるがごとしだ。

「ちわ。おじさん、ご無沙汰しています。母から連絡があったと思いますが、お世話になります」

「ああ、正義か。しばらく見ないうちに立派になったな。賢い、賢い」

「あ、いや、賢い、賢い、はやめてくださいよ」

その言葉は俺が小さいころ、遊びの中で何か発見したり驚いてみせたりするとおじさんが言ってくれていたものだ。そして俺はその言葉に励まされていた。だから俺はおじさんに感謝している。それにしてもあの時から全然変わっていないな。

「おじさん、変わりませんね」

「ああ、そうか。まあ、あがれよ」


正二おじさんの昔話


「はい、お世話になります。おばさんお久しぶりです」俺は店の奥にいたおばさんにも挨拶した。

「あのとき以来ね…。ああごめん、お茶の用意をするね」

おばさんはそう言ってお茶の支度のため席を外した。『あのとき』とは父の葬儀の日のことである。

俺はバカだったから思いっきりぐれたところを親戚中に見せてしまった。きっと『あのとき』の印象がまだ残っているのだろう。おばさんは俺に気を使っている様子だ。

「従妹のレナちゃんは元気ですか」

「元気だよ。今、部活の合宿に行っている。よろしくと言っていたよ」

「そうですか…」

「ところで正義、漢方は好きか」おじさんが突然話題を変えてきた。

「もちろん好きですよ。東洋医学は親しみやすいというか、うーん、なんか独特の世界を感じますね」

「わしが漢方を始めたのはなぜなのか知っているかい」

「なんとなく聞いていたような…」

「わしの考えは、西洋医学だけでも東洋医学だけでもダメだと思っている。双方が調和された形がいい。わしは若いときに医学博士の親父、つまりお前のじいさんと喧嘩して家を飛び出した。その時偶然に韓国の人と知り合って友人になった。

何かこの出会いは天の計らいのように感じた。その友人朴昌淳パクチャンスン氏は当時、日本留学中で医学を勉強していた。彼とは話が合い、西洋医学と東洋医学のそれぞれの限界についても話したりした。彼はわしの話をずっと聞いてくれた。そして

『わかりました。韓国にすばらしい先生がいらっしゃいます。ご紹介します』と言ってある老人を紹介してくれた。


韓国行きの話


実はその老人は朴氏のおじいさんだったのだが、朴氏はこの時はそのことはあえて言わずに、わしには老人の住所を教えてくれた。朴氏によると、老人は地元では仙人と呼ばれていたそうだ」

おじさんは一気に話をしてから、おもむろにお茶を飲み干して、

「な、会ってみたいだろう」

「ああ、いや、はい」

俺はそう返事するしかなかった。なぜなら仙人と呼ばれている老人のことは俺が小さいころからおじさんにしょっちゅう聞かされていたからだ。

その頃俺は、おじさんがその昔話を自慢げに語っていたのに対し、

「へー、すごいな。もっと話して!」と言っていたような気がする。

しかしこの話を何度も聞かされ続け、しまいには飽きてしまった。そんな記憶があるので、俺はおじさんの提案に対して躊躇する気持ちを持った。

韓国に行って仙人に会ってみなさいということか。おじさん得意の説得術だ。どうやって断ろう。おじさんはマジ顔だ。

俺は結局おじさんに強引に押し切られてしまい、有無を言わさず韓国に行くことになってしまった。まあいいか。どうせ日本で悩んでいても韓国で悩んでいても同じようなもんだ。夏休みは長いんだし…。

「わかりました。母に話して…」

「いや、もう話はついている」

おじさんはすぐに言葉を返してきた。俺はギョッとした。

俺の知らない間に、母とすでに話が付いているのなら仕方がない。俺は母から預かっている手紙をおじさんに手渡した。

「うん、用意がいいぞ」

手紙と言って手渡されていた封筒にはパスポートが入っていた。

うわっ、はめられた。そう思ったが飛行機のチケットもあったからもう逃れられない。

俺はそのまま羽田空港に向かうしかなかった。


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