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三神正義と魔法の箱  作者: 桜華 澄
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帰国の途

帰国の途


俺たちは飛行機に乗り込んだ。マリアは少しさびしそうな表情を見せたが、すぐに笑顔が戻った。飛行機の中でも相変わらずミーシャヲが元気にはしゃいでいる。ルシムは天井のところに張り付いて瞑想している。

飛行機は順調に運航を続け、成田に到着した。俺はその間ほとんど寝て過ごした。まだ退院してから日が浅いので、兄さんは俺の体を気づかって、起こさないでいてくれたようだ。

「日本に着いたな。正義、体調はどうだ」

「兄さん大丈夫だよ。ありがとう」

長い飛行機旅であったが、俺の体は何ともなかった。疲れもない。

成田からはリムジンバスに乗ることになった。二階建てのバスだったので上の階の座席に座った。見晴らしもよい場所だったのでミーシャヲがはしゃいだ。

「あたい、バスも楽しい」

相変わらずだな。

「おいおい、ミーシャヲ。しょうがないな。大目に見るしかないか」

「セイギ、楽しい仲間がいてよかったわね」

「マリア、そうだけど…。それより、日本まで来ることを決めてからあんまり日がたっていないだろ。大丈夫なの。」

俺が心配することじゃなかったかな。マリアには明るいし、優れた才能もある。だから日本でもきっとうまくやっていけるだろう。

バスは新宿に到着し、そこからタクシーで家まで行った。

「マリア、着いたよ。三神病院だ」

兄さんはずっとアメリカにいたから、懐かしい思いを持っているだろう。それにこれから新たな出発をするので、複雑な気持ちを持っている事だろう。

「おかえり、翔、正義。いらっしゃい、マリア」

母さんが最初に声を掛けてくれた。マリアはほっとした表情を見せた。そしてみんなに挨拶した。三人を出迎えてくれた病院の面々を見渡すと、その中になんと普段はあまり病院には顔を出さない祖父がいた。

「ただいま。お爺ちゃん」

「セイギ、おかえり。アメリカはどうだったか。お前の話を聞いてみたいな」

お爺ちゃんの笑顔を見るのは久しぶりだった。俺は嬉しかった。


普段の学校生活


俺が日本に帰ってすぐに夏休みは終わった。新学期が始まったが、アメリカでの入院生活の影響がそのときになって出てきた。回復したとはいえ体の疲れは完全にとれていない。学校に向かう途中、俺は桜井に会った。

「よ。死神」

「それはよせって言っただろ」

「おい、三神。今までと違ってすごい迫力だな。夏休みに何かあったのか」

「お前にいろいろ説明してもわからないだろうな。聞きたいか」

俺と桜井が話をしながら歩いていると、かっちゃんが後ろから声をかけてきた。

「おはよう。久しぶり。三神おまえ顔つきが変わったな。なんか前と違って見えるぞ」

「そうか。まあ進路を決めたとだけ言っておこう。」

三人で談笑ししながら学校に入った。教室では他のクラスメートも俺を『死神』と呼んだが、俺は笑って聞き流した。


黒幕


その後のみんなの様子だが、ルシムは今も俺と一緒にいる。もちろん俺以外には見えない。ミーシャヲは俺が医者になるまで、翔兄さんの手伝いをすることになった。昇兄さんは相変わらず毎日忙しく働き、ハイテンションで患者を診ている。

マリアは三神病院で仕事をしながら、医療知識を身につけていくことになった。今後三神病院も東洋医学の治療にも力を入れていくということなので、漢方と生体の勉強をすることになった。副院長の意向である。

副院長?三神病院にそんな人いたのか。そう思った人もいるだろう。実は副院長とは、俺のお爺ちゃん、三神一だ。どうも俺の韓国行きやアメリカ行きを指示したのは、正二おじさんでも母でもなかったようだ。全部お爺ちゃんの計画したことだった。最初からすべてお見通しだったのだ。

俺は三神病院の面々に帰国の挨拶をした後に、お爺ちゃんに呼ばれた。お爺ちゃん、三神一は日本医師会の理事を務め、医学界に大きな貢献をした。世界的な医学会議に何度も参加している。今は現役を引退しているが、名のある人物なのだ。

そんなお爺ちゃんだが、俺は幼少の頃からほとんどじっくり話したことはなかったし、部屋に呼ばれたこともなかった。俺が部屋を訪ねると、

「正義、ご苦労だったな。進路は決まったのか」といきなり聞いてきた。

そうきたか。お爺ちゃんそれってあまりもストレートすぎない?まあいいか。俺はそのように思いながらも質問に答えた。

「家族のみんなにも心配をかけたけど決めました。俺は医者を目指します」

「そうかよく決心したな」

そう言いながら、お爺ちゃんは昔の写真を取り出して俺に見せてくれた。こんなふうに話をするのは何年振りだろう。思い起こすと、俺が小学校の作文コンクールで入選したとき、中学校のマラソン大会で一位になったとき、それくらいだ。だからこんな写真を見るのは初めてだ。

「この写真は何ですか」

「これはわしが医者目指すきっかけ与えてくれた人だ」

写真はかなり古いものだった。セピア色で劣化していた。若者の隣に少し年上のような人が写っている。そう、若者がお爺ちゃんだとすれば、六十年以上前の写真じゃないかな。

「実は一緒に写っている人は、わしの先生だ。正義が韓国で会った仙人は、実はわしの先生なんだ」

「えぇ、そうだったんですか」

俺は驚いた。言われてみれば確かにそうだ。仙人に間違いない。


すべてを見通していた祖父


「正義が悩んでいるとお前の母、美代子さんから聞いた。わしは韓国の仙人ならばお前の悩みを解決してくれると思ったんだ」

「お爺ちゃん、仙人は西洋医学の世界の人じゃないでしょ。それなのになんで西洋医学の道に進んだの。仙人に出会って医者になるのを決めたんだったら、東洋医学の道に進むと思うんだけど」

「確かにそうだな。でもわしはそのときは、仙人が本当に伝えたかったことがわからなかったんだ。むしろ反発する気持ちさえあった。わしが医者を目指すきっかけになったとはいえ、仙人と同じ道を歩もうとは考えなかった。正義、あの仙人の性格を知っとるだろ。わしが反発したのもわかるじゃろう」

お爺ちゃんは続けて、確かに息子の正二が東洋医学を目指したいと言ったとき、反対したのはわしだ。当時日本の医学界は西洋医療を重視し、東洋医学は軽んじられていた。わしは日本医学会で中心的な役割を担っていたので、正二に反対せざるを得なかった」

「そういう事情だったのですか。お爺ちゃんよくわかったよ。今は東洋医学の素晴らしさもわかったんで、俺を韓国の仙人のもとに送ったんだね」

「その通りだ。だから、孫の翔、お前の兄がアメリカに留学するとき、わしはあることを伝えた。それは西洋医学の限界を克服できる医療機器のことだ。いくら翔がすぐれた素質の持ち主だったとしても、あの若さで新しい医療機器まで思いつくことができるか?あの機器のもとになったアイデアと関連するいろいろな情報は、わしが提供したのだよ。長年いろいろな経験をつんできたわしの集大成の作じゃ。翔には医療機器を実際に形にして作るように言ったんじゃ」

俺は驚いた。前から感じていたのだが、やはりお爺ちゃんはただものではない。

宇宙人かも…。

「そうでしたか。俺もそれを聞いてよくわかったよ。ところでお爺ちゃん、韓国の仙人に会ってどんなことが分かったんですか」俺が尋ねると

「仙人はその時凄まじい修行の最中だった。若かったわしはその姿を見て、

『こんな修行など、自分には到底できるものではない』と思った。だがいつかわしの子孫が仙人に会って、病気に苦しむ多くの人達を助ける力を身に着けてくれるだろうと感じた。仙人の周りにはオーラが輝いて見えた。仙人はわしに話をしてくれた。

『はじめ、未来のことは君に託す。病気で苦しむ人が一人でも少なくなるような世界を目指そうじゃないか。そのための手助けをする医療天使を君に送ろう』と言ったのじゃ。」

「医療天使って、俺についてるミーシャヲのことかな。お爺ちゃんにミーシャヲが付いていたの」

「いや、わしにはそこまでの能力は備わっていなかった。だから世代を超えてお前のもとに医療天使がやってきたのじゃろう」

なるほどお爺ちゃんは何もかもお見通しだったのか。俺はそう思った。

「わしの言いたかったことはここまでだ。それより正義、よく決心してくれたな。お前の口から医者になりたいということを聞いてわしは安心した。未来はお前に託す。頼んだぞ、正義」

「お爺ちゃんありがとう」

俺はお爺ちゃんの手を固く握りしめた。今日お爺ちゃんと約束したことは絶対に忘れない。俺は、お爺ちゃん、父、兄以上の素晴らしい医者になろうという決意をした。



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