マリアと天使たち
マリアと天使たち
「グワーー!」
悪霊は攻撃を受けたときに叫び声をあげたので、さすがにマリアにはその声がはっきり聞こえてしまった。
「キャー、今のは何?」
彼女は突然の出来事に仰天して叫んだ。マリアにどんな光景が見えたのか俺にはわからないが、はっきり霊を感じたことだけは間違いなさそうだ。その間ジョンはバスターコールの画面の動きを確認していた。
「マリア、バスタコールの数値が突然大きく変化したぞ。一瞬最大値に跳ね上がってから急速に下がり、その後反応が無くなった。どういうことだ」
マリアはパニック状態だった。
「そこにいるのは誰。なぜここにいた悪霊が突然消え失せたの」
おれはもうマリアに説明する方がいいと思った。
「マリア、そこにいるのは俺の守護天使と仲間ですよ」
「セイギ、あなたにも霊が見えるの。それに守護天使と会話もできるなんて…。詳しく話してくれないかしら」
俺はぽかんとした表情をして立ちすくんでいる翔兄さんに、
「兄さん話してもいいかい。」と言った。翔兄さんかわからないようで、
「聞かせてくれ、いったいどういうことなんだ」
一時の休息
俺たちは癌センターの地下にある食堂に降りていった。日本の病院の食堂は大衆的だが、ここのはちょっとレベルの高いレストランというイメージだ。俺はものすごい霊波を使っていたのでかなり疲労していた。時差もありフラフラになっていた。そして腹も減っていた。テーブルに付くなり、
「翔兄さんは気が利くな。俺が今一番望んでいることがちゃんとわかっている。よし、ありったけ食うぞ」
その様子を見て兄さんは笑いながら
「セイギ疲れたろう。かなり振り回してしまったからな。好きなものを注文していいぞ。何が食べたいんだ」
「兄さんありがとう、ハンバーグが食べたいな」
「よし、決まりだ。落ち着いたところで、もう一度ジョンを紹介するよ。さっきはお互いに名前を名乗っただけだったからな。今どんなことをしているのか、詳しく話したらいい」兄の提案に応じて、ジョンが口を開いた。
「マリアの兄、ジョンです。よろしく。セイギからいろいろ話を聞きたいです」
ジョンはマリアと同じく黒髪で眉が太く、スパニッシュ系の顔立ちだ。がっちりした体つきで、まるでアメリカンフットボールの選手のように見える。俺はそれに答えて
「はい、こちらこそよろしくお願いします。ジョン」
翔兄さんはマリアとジョンに、食事の注文は何にするかを聞き、ウエーターに声を掛けた。料理が来るまでしばらく間があるのでジョンは俺に質問をなげかけてきた。
「セイギはマリアと同じように霊が見えるんですね」
やはりこのことが一番知りたかったんだろう。このことを聞かれるんじゃないかと俺も予測していた。
「はい、実は今も俺の周りにいるんです。マリアさんには見えますか」
「ええ、一番背の高い黒い服の人、白い長い服の人、よく飛び回っている白い服の女の子。私にはそんな三人の姿が見えています」
マリアの言った内容はまさにその通りだ。俺はびっくりした。
「そうです。初めの背の高い男は死神で名はゴーズ、次の白いのは俺の守護天使で名はルシム、最後のかわいい女の子は医療天使で名はミーシャヲといいます」
天使が見えるマリアであったが、こうした形で、しかも三人も同時に天使を見るのは初めてだったらしく、おどろいた顔つきをしていた。その中のミーシャヲの飛ぶ姿に特に関心を持った様子で、彼女の動きにしばらく目をやっていた。
「セイギ、いつから霊が見えるようになり、霊力を開放する力を持つようになったの」やはり俺のような能力を持った人は、アメリカにもそんなにいるものではないようである。
「今年の夏に、叔父さんの師匠である韓国の仙人に会ってきました。その仙人には霊能力があり、俺の潜在力を引き出してくれました。
それで俺は霊が見えるようになったのです。仙人は俺に医療天使をつけてくれました。その天使を通じて人々の病気を治しいくように言われました。その他に俺の側には死神がいます。『死神』なんていうと、たぶんアメリカでは恐ろしい存在と理解されているんでしょう。でも俺と一緒にいる彼はそんな恐ろしいイメージの存在とは違っています。
地上に縛られている霊を開放して霊界に連れていったり、悪霊を粉砕して地獄に送ったりします。俺が言うのもちょっと気が引けるんですが、とってもいいやつなんですよ」
ジョンは俺の話に深く興味を持ったようで、身を乗り出すようにして聞き入っていた。
こうして話をしているうちに食事が運ばれてきた。先ほどの戦闘で体力を消耗している俺にとってこの食事はありがたい。食事を始めると、翔兄さんとマリア、ジョンが討論を始めた。
呪い
「アメリカ人は結構話し好きなんだな。でも今のことが話題にならない方がおかしいか」俺がそのようにルシムに話しかけると、
「正義、また殺気を感じます」
「そうなのか。今度は何だ。どこから感じられるんだ。いや、今はいい。とりあえず話はこのうまいハンバーグを食い終わってからにしてくれないか。しっかり食べておかないと力が出ない…」
「わかりました。正義が食事をしている間に様子を見てきます」
ルシムは殺気を感じるという場所に向かっていった。
マリアはルシムがいないことに気づいて、
「セイギ、ルシムがいないけど?」と聞いてきた。
「殺気を感じると言って様子を見に行っています」
「まだ何かあるのかしら…」
マリアは、今すぐに自分も様子を見に行きたいという顔つきだった。その時ルシムが戻ってきて言った。
「正義、とんでもないことが起きてました。先ほどの悪霊は全て粉砕できなかったようです。それに悪いことは、前に倒した霊の塊より大きくなっています」
あの時の霊の塊は粉砕した。悪霊が再び現れるなんて思ってもみなかった。ゴーズが確かに地獄に連れていったはずだ。
「悪霊は完全に地獄に送ったよな」
「正義、送った。また現れることなど考えられない」
ゴーズの仕事は完璧だ。ルシムも偵察で間違えるはずがない。俺はハンバーグを食べ終えてコーヒーを飲みながら、
「ルシム、詳しい状況を教えてくれ」と言った。
「悪霊の呪いと執念は凄まじいもので、どうやら触覚の一部から変化してものすごいスピードで大きな塊になり、今度は触覚はないがいくつもの目が付いています。」
俺とルシムの会話は普通の人にはわからない。霊能力があるマリアにはわかるようだ。
「セイギ、大変なことが起っているようね」
マリアはただならぬ雰囲気を感じて俺に話かけてきた。俺は現場にすぐ行きたかった。
「詳しい話は後でします。また悪霊が騒ぎを起こしているようです。急ぎましょう。」