オネエ天才クリエーター
「あの、靴底着け終わりました」
靴をお返しすると、頑固親父改めオネエクリエーターことダリウス様は慣れた様子で女性用の靴を履き、ヒールで部屋中をまた歩き回られております。
「これ、本当に滑らないわ!確かにこれならそのデザイン画の様にヒールをもう少し高く細くしても大丈夫そうね!
私ね、ずっと嫌だったのよ!せっかく可愛く作ってもこのずんぐりむっくりしたヒールで全部台無しじゃない?
そりゃぁせっかく作るんだから少しでも可愛く見えるように色々工夫はしたのよ?でもそれもそろそろ限界を感じてたの!最近じゃ段々靴を作る気力も無くなってたんだけど、これなら行けそうだわ!
それにあなたのデザイン画、凄く斬新ね!こんな靴見たこと無いわ。でもここをもう少しこうしたらもっと素敵になりそうだわ。こっちもこの部分をこうしたらどうかしら?」
ふおお、確かにそっちの方がしっくり来て素敵に見えます!さすが靴のプロ!勉強になります!
「凄く素敵になりましたね!ああそうだ、この紙と鉛筆をよかったら使ってください!
この鉛筆で描いたものはこうやって消ゴムで消せるので、デザインするには最適ですよ!」
「何これ素敵!消せるなんて最高じゃない!こんなに沢山の紙……こんな高いもの貰えないわ」
「それなら大丈夫です。私の魔力で木から作ったんで材料費はほぼかかってないんです。
あ、でもまだ今は紙も鉛筆も他の人には秘密にしててくださいね。色々面倒なんで」
「そうなのね……そう言うことなら有り難く使わせてもらうわ。
あ、ねえこんな契約はどうかしら?あなたがデザインした靴を作ってあげるわ。今みたいに一緒に修正を考えたり、一緒に新しいデザインを考えてもいいわね。
この靴底のお蔭でヒールをもっとスッキリ出来そうだから、新しいデザインも湯水の様に湧いてくるわ。
今契約してるところは代替わりしてから考え方が合わなくなってやる気を無くしてたのよね。
今入ってる仕事で契約を終了するわ」
「え?でもブロウ商会だけじゃなくて、他所にも下ろしていいんですよ?
そんな、今契約してるところを止めてブロウ商会と契約したら色々大変じゃないですか?」
「言ったでしょう?同時に2つは私の性格じゃ無理なのよ。
それにどっちみちそろそろ限界だったから契約を終了する話をしてた所なのよ。
急かされてもいい仕事は出来ないし、こう言うのを作れって言われても食指が動かなかったら全く作る気力が湧か無いからいい作品が出来ないのよ。
先代はそれを解った上で、出来上がった商品を売ってくれてたんだけどね~……
気持ちよく仕事が出来ない人の為に靴は作れないわ。
向こうも私に見切りを付けたみたいよ。まあ最近じゃほとんど作ってなかったものね。
だからちょうどいいタイミングだったのよ」
何となく解ります。彼は根っからの天才肌なんですね。
他人にこう言うのを作れって言われても、自分のストライクゾーンにかすりもしない物だったら製作意欲は湧か無いものです。
それを仕事と割りきって作れるタイプと、彼の様に自分の作りたい物しか作れないタイプといるんですよね。
結局上手に仕事が出来るのは前者なんですが、斬新で面白い作品を作れるのは後者なんですよね。
私は前者だったので、彼みたいな天才肌の人には憧れるし、少し嫉妬もしてしまいます。でもそれよりも尊敬が勝るのかもしれませんね。
私のように前世の真似事と違って本物の天才なダリウス様が、少し眩しく感じて思わず目を細めてしまいました……




